Crosswise -2
第四話
-その二
明星桐得の傲慢。
その後は、潤一郎が脱力してやる気の無い様子で、銀時も特にこれといって何かあるわけでもなく、そして桐得の一回限りのチームだと言う発現に少々面食らい気味だったため、終始桐得の言葉で物事が決まっていった。これから、事件解決までは、完全な協力体制でいる、だが、解決後はおさらばだ。また、元の、赤の他人、あるいはただの知り合いに戻る。それだけ確認し終えると、桐得はファイルを開いて机の上においた。銀時と潤一郎が情報の受け渡しを行うために使っていたものだ。
「一つ、聞きたいんだが、阪口。この妙なやつは何だ?」
提示したファイルに書かれていたのは、一番最後に家捜しした真下の名前と、そして、家の中からあまたの人の妙な情報がたくさん出てきたということだった。ひょいと首を持ち上げて潤一郎も覗き込む。
「見たまんま、妙なもんがあったんだ」
「妙なもんの詳細を言え」
苛立ったというように桐得の声にとげがつく。
「人の写真、身長体重、あとスリーサイズとか、数値がやたらと書いている資料が何枚も束になって引き出しのなかに入っていたぜ」
はぁと潤一郎がため息を吐いた。
「そういうもんは早く言え」
「だから、ここに書いてあるんだろ。桐得に邪魔されちまったが」
邪魔されたというところを銀時は強調して言った。対して、桐得は無視してこれといった反応を返さなかったため、銀時は少し自分が惨めになる。なんでこんな奴と組むことになったのだろうかと、銀時は思っていたし、潤一郎も思っていた。果ては、夕季まで同じようなことを考えていた。どちらにしろ、誰に何と思われようと、桐得は傲慢にも我が道を突き進むのだった。
「怪しいな」
「怪しい。事件に関係しているかどうかは定かではないがな。無関係なことに首は突っ込まないんだっけ?明星少年よ」
意地悪く、潤一郎が笑った。銀時は、こいつも大概どうにかしていると思い始めたのだが、潤一郎もまた、他人の声などあまり聞こうとはしない性分だった。
「無関係なのか?少しでも関係があるなら、それは無関係ではない」
「おっしゃる通りでございます」
苛立ちを前面に押し付けた声に、子供か、と、銀時は、思わず後ろから頭をはたいてやりたくなったが、あいにく潤一郎の背後は遠い。
「とにかく、こいつを調べてみよう。異論は無いな?」
ファイルの写真を指差しながら、桐得は、無表情のままで、他の二人に同意を促した。
「そのことについてはな。だが、なぜお前が仕切るんだ。年長は俺だ」
潤一郎は子供みたいなことを言って、眉間に皺を寄せていた。
「あんたが仕切っても、ろくな事が無さそうだぜ」
もう何かを諦め始めているのは銀時である。
三人は、日時と段取りを決めて、真下理恵についてもう一度家捜しすることを決定した。それで何も手がかりが無ければ、正面から少し当たってみようということも決まった。
その夜、潤一郎は一人、自分の書斎に鍵をかけて、高そうな、すわり心地は最上であるものの、実際、高くて損をした気分になっている肘掛椅子に座って、窓越しの外を見ていた。磨りガラスの窓は、外の景色をおぼろげな光に換えて潤一郎に見せていた。本を手に取る気にもならなかったし、あるいは書く気にもならなかった。隣の家に、今は熟睡しているだろう少年を思い出す。あの身勝手さは、どうしたものだろうかと、頭を悩ませていた。このまま、何も無ければいいのだが。事件をただ解決して、それで、解散となって、それで終わるのは潤一郎にとっても都合のいいことだった。吐いた息がガラスを曇らせることは無い。冬はとうに過ぎ去っている。夏の陽気さがあと数ヶ月もしないうちにくると言うのに、陰湿な気持ちは降り積もっていた。潤一郎は、時計の針を悪戯にぐるぐると回す作業に飽きて、部屋を抜けると、寝室のベッドの上にぐったりと倒れこんだ。どうせすぐ朝はくるだろうが、それまでは何もかも忘れてみようと、逃避行である。
七月中に、長編を新しく書きますいえーいと言った直後。
六月中に、短編を新しく書いていました。
いや、思い立ったら吉日と言うでしょ?
できれば、その、短編のほうも見てやってください。五分も取らせず、砂糖ひとさじ程度の甘さをお届けいたします。