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細い線が絡まる -4

第三話

-その四


風呂に入っていたら、第一部のタイトルが思いつきました。ちなみに、構想としては、大体第三部くらいまでありまして、それぞれのテーマも一応決まっているんですよ。

で、書き表してみたんですが、邪魔ですね。表記が。

 銀時は、電話をしながらトイレに向かった。その後、出てきたときに、誰を探していたのだろうか。桐得は人ごみに紛れて、考えた。電話をしながら、というのは別にとりたてて考えるほどのことではない。キョロキョロとあたりを見回したていたのが問題だ。桐得の尾行に気づいたとしたら、真っ直ぐと桐得のほうへ向かってくるはずだ。道に迷ったのか。そんなわけがない。となると、いや、しかし、その前の電話と結びつけて考えるべきか。口元を押さえて、こそこそという仕草で話をしていた。もしかして、尾行されていることに気づいているのかもしれない。だが、どこからということは気づいていない。

 どういうことか。眉間に皺をよせ右手の人差し指でもみながら、ため息をついた。この場に、桐得を知る人がいたら、少し驚いただろう。桐得の顔に表情がついたのだから。

 後ろ盾となる人間が、ここにいたとしたら。桐得は、銀時が鍵をその人に渡すのだと思っていた。だが、もし、その人間がロッカーをこじ開けられるなら、何らかの超能力を持っていたとして、それを使って、痕跡を残さず、こじ開けられるなら、既にファイルを盗まれたことに気づいているのかもしれない。となると、この短時間で、銀時とファイルの受け渡しを行う予定だったことになる。短時間。銀時は、校門からでて、ここにくるまで誰かに連絡していた様子は無い。ロッカーにファイルを入れたときに、電話をかけたのか。電話を受けて短時間でファイルを取りに、ロッカーへと足を運ぶことになる。そのためにはロッカーの近く、つまり、後ろ盾は駅の中にいる必要がある。

 見られている可能性が出てきた。その後ろ盾の人間に、銀時をつける桐得の姿が。ならば、今しがたトイレでの電話は、その後ろ盾相手のもの、トイレから出て来て探していた相手は桐得だ。桐得の尾行はバレた。誰が、というところまでは分かっている可能性は低いが、七城生だということは分かっているはずだ。

 ここまでは全て推測だ。そして、推測で浮上した、状況のパターンの一つでしかない。もっと考えていけば、他にもこうであるかもしれないという可能性はいくらでもでてくるだろう。そうやって提示した可能性を取捨選択して、その裏付けを行って、動くのが理想的だ。しかし、今は考えている時間が無い。桐得はとりあえず、考えられる最善を行動に移すことにした。

 おもむろに時間を止めて、人ごみの中に分け入ろうとする銀時の後ろ一メートルほどのところに移動する。勝負は何事も先手必勝だ。下手に、後手に回ると、結局、守りにつくことしかできない。桐得の持論だ。

 時はすぐに動き始めて、桐得は銀時の肩をぽんと叩いた。

「ん?鬼か?こんなところでキョロキョロと、何をしてる」

犯人の見当でもついたのか。だとしたら抜け駆けするなよ。そうつけたしながら、桐得は非難がましい目つきをした。演技は得意というわけではないが。元々表情の薄い人間である桐得は、下手でも、ごまかせたりする。

「あ?いや。……とりあえず、鬼というのはやめろ」

「分かった。じゃあ、坂田」

「阪口だ。先に言っとくけど、ギントキじゃなくてギンジな」

銀時はよくこうやってからかわれるのだが、桐得が同じようなネタ振りをしてきたことに少し驚いていた。まだ、銀時と桐得が出会ってから一日も経っていないが、銀時の中での桐得のイメージは、無愛想な奴で固まっていたからだ。

「とにかく。何をしていたんだ?犯人が分かったなら知らせてくれと言っておいたつもりだが」

桐得はあくまで、白を切るつもりだ。

「犯人は分かっていないさ。いや、お前だと思っているんだがな」

桐得が眉間に皺を寄せた。結構表情が変わるんだなと、銀時は自分の中の考えを改め始めた。

「俺は今、何をしてたかって言うと、そうだな、お前に尾行されていたんだよ」

眉間の細かい皺をそのままに、今度は、桐得の目が怪訝な光を帯びた。

「で、俺もお前に用がある。単刀直入に言うが、ファイルを返せ」

桐得がどう出てこようと白を切り続けることは出来ない。在るはずのものが無くなることは無い。だからだろう、銀時には若干の余裕があった。桐得は、その銀時の余裕の表情をまじまじと見つめた後、目をつむり、眉間に人差し指押し当てて、何かしら考え、そして言い放った。

「何だそれは」

さっぱりと、綺麗さっぱりと、白を切りやがった。銀時の呆れつつ、若干の苛立ちを覚えた。


 銀時と桐得から十メートル離れたところ。一人の男がベンチに座っていた。右手に携帯を持って、誰かと会話している。いや、さっきから無言のところを見ると、一方的に話を聞いているのか。

 実のところ、そうではない。男の電話とつながっているのは、その十メートルさきの携帯だ。ポケットの中にあるその携帯から、桐得と銀時の、断片的な会話を盗み聞きしているのである。その二人の姿を見つけたので、少し離れたところのベンチに座って、様子見もしているという具合だ。

「協力者は白を切っている、みたいだな。もう少し見ているか」

いいかげん、右手の携帯の不明瞭で小さな音に耳を澄ませるのも、嫌になってきた。若干面倒だし、暇だ。それに、二人の少年を観察しているのは、趣味でもないし、事態が好転するわけでもない。だが、もう終わりなのだ。協力者が銀時と接触した時点で、協力者は詰みだ。どうやったって、ファイルを明け渡すしかない。となると、事態は好転に向かっているわけか。相手が駄々をこねているだけで。

 協力者が肩にかけたメッセンジャーバッグの中身を見せている。制服の中に隠してあるわけでもないとアピールする。そして、すぐに、不吉な言葉が聞こえてきた。

「無い。……今、確かにそう聞こえたが」

男は携帯を耳から離し、しばらく考えていたが、いきなりはあとため息を吐いて、納得した。俺は疲れているのかもな。男は、相手が超能力者であることを忘れていたらしい。そして、超能力に挑むには、やはり超能力だ。

 ところで、実はこの男、ただの超能力者ではない。この男は、今までの人生を十数年間、超常現象と共に過ごしていたのだ。だから、異能というジャンルに関しては、かなり知識が深い。超能力者は、人間に、奇妙な能力が+αとして宿ったものだ。元々の身体能力は人間のままである。どんなに強い能力を持っていたとしても、人間であることには変わりが無いのだ。人間として、反応できないような速度で、人間としての死角から攻撃すれば何とかなる。ならないこともあるが。

 男はベンチを立った。すぐ近くに、ちょうどいい具合に木があって、そこからなら少年たちからこちらの姿は見えない。男はその木の下で、コンタクトを落としたふりをして、探す。探すふりをして、実際は、右手を地面に押し当てているだけだった。男が右手のひらを押し当てている場所がさらさらとした液体と化した。するとゆっくりとその液状化した地面が移動していく。男の手の元を離れて、しっかりと、二人の少年の元へ。

「ファイルとは何だ?というか、なぜ俺がそんな得体の知れない物を持っていなきゃならないんだ」

桐得の問いに、銀時は答えられない。在るはずのものは無かった。無かったなら、銀時は強く出ることは出来なくなるし、逆に、桐得がそのファイルについて自由に問い詰めることができるようになっていた。桐得は、これを利用して、後ろ盾に近づこうと思っていたのだが、やはり、こちらも、超能力という言葉を忘れていたのだ。

 ばしゃっと何か灰色の液体が地面から噴出してきた。いつもよくみるコンクリートの色だった。何だと身構える前に、液体は桐得の顔面めがけて飛んでくる。慌てて時間をとめたときには既に桐得の視界を覆っていた。何も見えない。桐得は顔についた液体をはらいのけようとしたが、なぜか、液体は固体へと変わっていて、桐得の顔に張り付いたままびくともしなかった。時間が再び動き出したとき、今度は桐得の腕を、冷やりとした感覚が襲う。目の前で、地面のコンクリが液体と化して桐得を襲う光景を見ていた銀時は、絶句していた。

「あせるな銀時。今のは俺の能力だ」

 銀時の携帯も、いつのまにか噴水の形を模したコンクリが持ち上げていた。銀時がとると、そのコンクリは液体になり、地面に帰って、また固体に戻っていった。

「これを見せるつもりも無かったんだがな。今日はお前にいろいろと知られてしまったが、まあいい。その少年から、いろいろと聞き出してくれ、頼んだぞ」

今度は、携帯をポケットに入れず、耳元でもっておけと言われた。銀時の目の前で、桐得は冷静に、いつもの調子で助けを求めた。顔にぴったりと穴の開いていない仮面をつけさせられ、両手には硬く、重い、石の手錠がかけられている。見るに耐えない。だが、ここまでするからには、桐得がファイルを持っているという確証があるのだろう。

「ファイルだ。ファイルを返せ。そうすれば助けてやるさ」

しばらく桐得は無言だった。何か考えているのだろう。

「……、それはつまり、この石の目隠しと手錠は、お前の親玉の仕業と見ていいんだな?」

親玉。銀時はここでやっと理解した。自分がつけられていたのは、銀時の後ろに誰がいるのかを知るためだ。しかし、どこで、後ろ盾がいると知れたのだろうか、銀時は疑問に思った。

「まぁ、それはどうでもいい。ファイルだ」

銀時にとって今大切なことはファイルの奪還である。あまり、多くの人に見られていいものではない。

「分かった。なら、お前の親玉の正体と交換だな」

銀時は面食らっていた。この状況でもなお、桐得は、冷静でいられるのか、と。

 耳元で別の声が聞こえた。

「聞く耳を持つな。その少年の命はお前の手にあると教えてやれ」

これじゃ、まるで本当に悪人じゃないか。銀時の心が揺れる。

「……お前の命は俺の手の内にあるそうだ」

「なるほど、こんな場所で殺しができるのか」

桐得の声は面白がっているように聞こえた。そのとき、桐得の足が地面の中に沈み始める。畑のようなぬかるみに足をとられるようで、桐得は身を引こうとしたが、既に固まっていて、よろめいた。そのとき、桐得の顔についたマスクの下から、汗が滴り落ちたことに銀時は気づいた。

「その少年に、次は、一瞬で地面の中に沈めてやると伝えてくれ」

銀時はそのとおりに伝えた。苦しかった。銀時は、もう、自分が何のために何をしているかさえわからなくなっていた。そんな銀時の苦悩を、桐得は声の質で感じていた。そして、利用しようと考えた。

「この偽善者共が。ファイル一つのために人殺しまでするんだな」

銀時は耐えられなくなった。唇を噛み締め、握った拳をわなわな震わせ。右手に持った携帯を握りつぶしてしまいそうになる。

「聞く耳を持つな。銀時!」

今にも怒鳴らんばかりの声が聞こえた。銀時もすかさず反論しようとするが、相手は間髪いれず話を続ける。

「あのファイルは大切なものだ。何人かの人間の個人情報が入っている。それも詳細なやつがな。そんなものを他人に渡していいと思うのか?他人に渡って、それがまた他人に渡って、それで人の人生をめちゃくちゃにしてしまったらどうする。それは、人殺しと同義だ。そのことを、ちゃんと理解しているだろうな銀時」

少しずつ、熱くなった頭がクールダウンされていく。

「それにだ。お前、脅しって言葉くらい知っているだろう?お前は、殴って吐かせるのと、脅して吐かせるのだと、どっちが平和的だと思う?」

男はどちらも全く平和的ではないなと思っているのだが、銀時を止めるために、騙しやすい対比をした。銀時は馬鹿ではないが、頭がいいわけではない。

「そういうことだ。分かったか?」

「ああ。分かった」

銀時は桐得を冷静な視点で見つめた。桐得に脅しの効果は確かにあった。だが、ファイルを取り返すところまではいかなかった。それに、もう手詰まりのような気もするのだ。

「結局どうするんだ?」

「今考えている」

そんなときに、電話口から、間抜けな結末を知らせる声が聞こえてきた。それは、この押しても引いてもびくともしない悶着状態を打開すべく、策をめぐらせていた男にとって、嫌な終わり方だった。彼の努力は水泡に帰して、想定していた最悪のさらに上をいっていた。

 木にもたれかかって、電話をしていた男に、二人の少女が近づいた。七城高校の白を基調としたセーラー服。腰の辺りまで伸びた真っ黒で真っ直ぐな髪、その前を行くのは、ウェーブのかかった方のあたりまでのショートヘアだ。二人に共通するのは、七城の制服と、もうひとつ、誰が見ても美人であることだ。

 銀時の説教に少し熱を入れていた男は、二人に気づいていなかった。

「あ、やっぱり。お父さん。何してんの?」

男は、その声のするほうを見て、ギョッと目を見開いて、携帯の向こう側から疑問符のような声が飛んできたのを聞いて、呆れてため息を吐いて、携帯を切りながら、こう言った。

「仕事してる。いや、してた。今終わったよ。畜生」 

思ったとおり、銀時は、こちらを見ていた。銀時の交友関係のなかに男の娘はいた。だから、その声を聞いただけで、娘の声を聞かれただけで男の正体はほとんどばれたようなものだ。だが、銀時にはばれたが、まだ、あの少年にはばれていない。そう思って、行動を起こそうとしたが、そのためには、不思議そうに、顔を覗き込む自分の娘が邪魔だった。

「というわけで由理。親の仕事を邪魔したんだ。とっとと帰れ」

「仕事って、何?そんな私の一言で邪魔されるような仕事があるの?」

男は、自分の娘、高峰由理に自分の超能力の部分について、もっというと、この世界に超能力があることさえ教えていなかった。巻き込みたくない。そういう思いが強くあったからだ。八方塞だ。男は額を手で押さえて、また、ため息をついた。そのとき、由理の後ろにいた少女が、バッグをあけて、ファイルを取り出した。それを、自分の顔の前でひらひらと振ってから、またバッグに戻した。それを見て、男は驚いた。驚いたが、目を丸くすることもなかった。眩暈がした。自分が絶望しているんだなと、すぐに理解した。

 この少女は、あの協力者の仲間に違いない。協力者は、ファイルをこの少女にわたし、そして銀時の前に現れた。協力者が銀時と交渉している間、少女はファイルを大切にもっておいて、あわよくば、男の正体をつかんでやろうという魂胆だろう。今、ファイルをひらひらさせたのは、銀時の後ろ盾はお前だな、と言う代わりだ。だが、今の状況で、少女は男が銀時の後ろ盾だとなぜわかったのか。考えるまでも無く、男は、当たり前のことに気づいた。今まで電話していたにもかかわらず、娘に声をかけられたからといって、何も言わず切ってため息を吐いたのを見ると、誰だって怪しむ。男は、自分を責めた。

 銀時と桐得は、男がいる木陰へと歩く。十メートルほど近くに、見知った顔二人と、見知らぬ顔一人がいた。

 三番目の腕を持つ桜庭夕季(さくらばゆうき)、鬼としての体質を持つ阪口銀時(さかぐちぎんじ)、物体を溶かし操る能力を持つ高峰潤一郎たかみねじゅんいちろう、時間停止能力を持つ明星桐得(あけぼしきりゅう)。四人の異能の者がその場にそろったとき、一人、何の能力も情報も持たない高峰由理(たかみねゆり)は、自分は蚊帳の外にいるような気がしていた。

第三話、完結!


早い!そして、この部分だけ長い!


ところで、第一部タイトルの「 Starter and Assaulter 」ですが、直訳すると、始める者と強襲する者。とか、始める者、そして、強襲する者。とかそんな感じですね。

つまり、始める者と、強襲する者が、何らかの形で出てくるわけです。いや、者と表記しているけども、それは演出か何かで、実際に人として出てこないのかもしれません。

まあとにかく中二ですよね……。


ところで、このAssaultのつづり、遊戯王のカードを見て確認してました。いや、面倒なつづりですよね。覚えづらいし、そもそも覚える必要もないんでしょうが。

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