細い線が絡まる
彼らの日常賛歌
-第一部「 Starter and Assaulter 」
-第一章「 細い線 」
-第四話「 細い線が絡まる 」
-その一
絡まります。
火曜日の七城高校、昼休み。屋上に三人の一年生が集まっていた。右手に箸を、左手に弁当箱を持って、広々とした屋上の上に一応備え付けられたベンチに座り、話し込んでいる。話し込んでいるが、決して親しげではない。短髪の目つきの鋭い男子生徒は黙々と箸を動かしている。長身のハンサム顔の少年は、その顔に徒労の色を滲ませている。三人目は、その美しい顔をイライラさせている少女だ。
「なんで、私のやったことが無駄にならなきゃならないのよ」
夕季は本当にイライラしていた。彼女は桐得に頼まれて、いや、脅されて、仕方なく奇妙な事件の被害者とやらについて調べ始めた。演劇部への見学を早々に切り上げて、月曜日のけだるい時間に、仕方なく、やりたくもないのに、その体を酷使していたのだ。その結果として得たものは、消費した努力は、その日の夜に入った「膨大な資料が手に入るから、やはり調べなくても結構だ」のメールで水泡に帰した。
口をもごもごさせていた桐得はしばらくして、気だるそうに返答する。
「タイミングが悪かったんだ。仕方が無い」
仕方が無い。それは分かっているのだ。腑に落ちないわけでもない。だが、自分が使役されていることが苛立ちの原因だ。
「あんたに命令されていることは、仕方なくないわ」
「仕方ないだろ。そうしないと、お前の自由は無くなってしまうんだから」
苦いものを食らったような顔で聞いていた銀時が割り込む。
「その、自由が無くなるってのは、どういうことなんだ?」
夕季はその質問に答えようとせず、眉間をぴくぴくと震わせてふんと鼻息を荒くした。仕方ないとばかりに、無表情のままでため息を吐いた桐得が説明する。
「こいつのチンケなマジックのタネを、俺がばらしてやると言ったら、何でもしますからそれだけは、って土下座して」
「してないわよ」
チッと大きな舌打ちが聞こえる。夕季は目を閉じて眉間に深い皺をよせ、腕組みをして、苛立ちを体全体に表現する。桐得はその口元に嘲笑を湛えて、とりあえず、弁当の中身を食っていた。怖いなと、銀時は若干小さくなるのだが、さて、確かに、見る限りは桐得が犯人である可能性は低いように思えてきた。
今、銀時が桐得たちと一緒にいる理由は、簡単だった。協力関係を結んだということだ。桐得は銀時から、銀時が今までこの事件を調べて得た資料を得る。銀時は、自分が犯人だと見積もった桐得を監視することができる。何より、一人より二人、二人より三人の方が犯人を追いやすいというものだ。しかし、これは、本当に犯人を追いやすいと言えるのだろうか。
「いがみ合う暇があったら、少しでも解決の糸口を探すべきだ」
銀時は、間に入って、止めるのが賢明だと思った。しかし、目の前の二人を止めると考えること自体が賢明ではないのだ。
「どうやって?」
イライラした声と、無感動な二つの声が重なり和音を作った。お互い、いがみあっているのだが、こういうときは気が合うらしい。銀時は、茶化してやろうと思ったが、やったら殺されかねないような気がしてやめておいた。
「とりあえず、あの周辺の家々に聞き込みしてくしか」
「面倒だわ」
最後まで言わせてはもらえなかった。
「確かに面倒だ。今度の被害者と、前の被害者に共通点は無いか、まず、そこから調べるべきだろ。そうすれば何か見えてくる」
「それこそ無意味だろ。この事件はただの通り魔だぜ」
「いや、通り魔ではないかもな。お前が俺を犯人だと考えてくれたおかげで、一つ閃くことができた。子供の犯行だという閃きをな」
桐得は最初から黙々と食べていたせいか、いち早く空になった弁当箱を、片付けながら言った。夕季もこういう話はいがみ合わずちゃんと聞くらしい。
「鬼さんよ。犯人は、お前みたいな奴だ」
銀時は、疑問符つきのため息を吐きながら眉間に皺を寄せた。
「正義の裁きを下す者。自分のことをそうやって考えて、攻撃しているんではないだろうか」
桐得は、これは説の一つであって、実際にそうであると言ったわけではないと注釈した。次にどういう人間が犯人であるのかという可能性を示す。被害者は白昼堂々と殺害されている上に、財布が盗まれているということもないので、物取りという可能性はありえない。なら、私怨による殺害、通り魔、そして、先に提示したヒーロー気取り、これくらいだろうか。一人目の被害者の犯罪歴、といっても表にはなっていないはずだが、これから探り出したかぎり、私怨という可能性も高くは無さそうだ。通り魔、というのは、考えても無駄な部類なので、省くとして、すると残るのはヒーロー気取りである。
「どうやって、そのヒーロー気取りを見つけるかが問題だ。しかし、その前に、やることがある。まずは、二人目の被害者について調べてみることだ」
「そうね。癪だけど、あんたの言うとおりかしら」
いつの間にか弁当を片付けた夕季が賛成する。銀時も反論は無いと答えた。
「決まりだな。とりあえず、情報を得ることだ。まぁ、ほとんど鬼頼りになりそうな気もするが」
俺の周りには人使いの荒い奴しか集まらないらしい。銀時はため息を吐きたくなった。
ずいぶんとスローだなぁ。
あぁ、はやくギャグを書きたい。ごちゃごちゃうるせーッ!な彼らを書きたい。