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鉄拳ジャスティス -6

第二話

-その六


ジャスティスッ!

第二話は今回で終了です。次回、やっとこさ事件は解決編へ移るようです。

 けたたましいブレーキ音と、人々の叫び声が、銀時を引き付けた。見ると、車が一台、歩道に突っ込んでいた。まばらとはいえ人はいる。突っ込んでいいはずがない。もっとも、人がいなくとも突っ込むことをよしとはできないが。銀時が見たのは、歩道に乗り上げ、古本屋のガラス戸粉々に粉砕した赤と黒の車体だ。細長く、そして綺麗なその車はどうも高級車らしい。赤色はそのつき方からして血の色だ。鉄分の臭いもする。

 悲鳴が響き、空気がざわめく。ある人は、携帯で警察を、救急車を、また、ある人はその惨状に駆け寄り自らの手で救える命はと、懸命な顔だ。不謹慎にも、この光景を携帯のカメラで撮っている奴も居る。銀時は、人助けを考えた。車は通っていない。そこで止まっている。近くで見ると、その惨状がよく理解できる。車のボンネットは大きくへこんでいて、その大部分は血で赤に染まり、ガラスのかけらがキラキラと惨い装飾をつける。車の下に、人が一人いた。銀時は自身の馬鹿力で、車体をのけようと思ったがやめた。そこにいるほとんどの人も呆然としていた。車を運転していた奴も、出て来て、同じように呆然としている。頭が半分になっていた。側頭部を圧迫されそのまま引きずられた結果、つぶれてしまったのだ。タイヤの下敷きとなった左腕はあらぬ方向に曲がっている。そのほかのことは、車体の下で見えにくいが、わずかに見える紺色のセーラーが、その人が女子中学生、あるいは女子高生であることを示していた。

 だが、いつまでも呆然としているわけにはいかなかった。銀時は、その車のタイヤを見たときに、自分のやるべきことを理解した。やるべきことを理解したとき、絶望の色で染められた銀時の心は、鋭い闘志の銀色を蘇らせた。その場のことは他人に任せて、走り出す。その、ナイフが刺さってパンクしたタイヤを見て。

 ナイフが走行中の車のタイヤに刺さることなどあるのだろうか。あるわけが無い。常識を適用するのなら、あるはずのないことだ。しかし、銀時は常識外のところにいる。事件のことを思い出す。背中から心臓を貫き、胸を突き抜けた包丁。人間にできるかどうか分からない力技だ。今のタイヤも、ちょっとしたナイフであの硬いゴムを突き破るというのは、やはり、力技だ。そんな力技を、走行中の車相手にやってのけることができるのは、異能の者のみだ。

 銀時は、悲惨な事故を背に、青ざめる人々をかき分けて走る。見えにくいが、銀時の目には確かに、自分の前方数メートルほどのところを走るさっきの少年の姿が映っていた。


 失敗だった。また、被害者を出してしまうとは。桐得は唇を噛んだ。桐得は自分のほとんど目と鼻の先で起こった事故を見ていた。そして、その原因も見ていた。

 ほんの数分間の出来事だった。桐得が、事件現場を一瞥し、さて、帰ろうとしたときだ。桐得の足元をするりと細い風が抜けた。まばらに人が歩く歩道で、足元をねずみか何か小さな小動物が通り抜けたような気がしたのだ。こんなところにねずみが?そう疑問に思ったなら、すぐさま行動に移す。桐得は時を止めた。風に泳いでいた葉がぴたりと動かなくなり、町の喧騒はすっかりと消え、せわしなく歩いていた人々は背の低い林と化す。今まで何度も時間と止めてきてはいるが、この時間停止の瞬間が、桐得はなんとなく好きだった。

 しゃがみこんで、あたりを探す。本当にただのねずみならいいのだが。見つかるまで探そうと、止められる限界まで時間停止をした。止められる限界、といっても、その限界は彼のコンディションによるところもあるので、いつも同じというわけではない。今日はだいたい十一、二秒止められれば上出来だった。

 見つからない、ふと立ち上がりかけたとき、歩道のアスファルトを斜めから見下ろした桐得は、やっとその存在に気づいた。

 地面に平行に、刃渡り十数センチといったところか、ナイフが浮かび上がっていた。理由は分からないがナイフがあるのは確かだ。そして、もし、今しがた足元を通り過ぎたのがこのナイフであるなら、このナイフは飛行しているということになる。ナイフ、飛行、この二つの単語が、桐得の中で何かを閃かせるその前に、時間が動き出す前の一瞬で、ナイフを掴んだ。

 時は動き出す。ナイフを右ポケットに忍ばせながら、日常に帰る世界を見ていた。さて、一体どうしたものか。ナイフ、飛行、超能力、事件現場。犯人は後ろにいる。振り返り、あやしいものはいないかと探す。時間停止をしたら、止めた分だけ、止められない時間が来る。できれば時間を止めて、一人一人の持ち物を調べてやりたいのだが、そもそも、止められたとしても十数秒では一人調べるのでいっぱいいっぱいだ。人並みのなか、棒立ちしていると何かと邪魔だし、何より自分の視界が確保しづらい。そう考えて、歩道の脇へそれたとき、きらりと光る何かが振り返った方から向かってきているを、足元に見つけた。

 まだ、時間停止から、十二秒経っていない。

 まばらとはいえ人はいるのだ。今からその二本目のナイフを捉えることはできない。それに、思っていたよりも、速い。目で追うしかなかった。そのナイフが、車道を走る黒い高級車を追いかけたとき、さらにその残虐性に愕然とするしかなかった。ブレーキと悲鳴と、人が引きずられる音を聞いて、赤がアスファルトに散らばっても、桐得は耳を塞ぐことも、目を瞑ることもしなかった。その顔をまた振り向かせた。さっきと同じようにあやしい人影を探す。探しながら少し速度を落として、走る。もし、犯人がばれたとでも勘違いしたなら、桐得と同じ方向に走り出すはずだ。桐得の考えは上手くいった。痩せた細長い男が走り始めた。細い路地に入り込んだことから、桐得をまこうとしていると考えていいだろう。

「逃げられると思うなよ」

 桐得は心の中で毒づいた。さっきこの町の平穏を守ると誓っておいて、いきなりの失敗だ。その不甲斐なさが桐得を急き立てる様でもあり、目の前で起こった残虐への怒りが、今の桐得を動かしているようでもある。桐得は冷静な人間だが、その前にまだ半人前の高校生である。普通なら、目の前で人が死ぬのを見て、平気でいられるわけが無いのだ。

 家々の裏、細い路地の分かれ道で時間を止めた。今までは後ろをついていくだけだったのだが、分かれ道となると、そうもいかない。そもそも後ろをついていっている時点で時間を止めろと思われるかもしれないが、桐得はさらに飛行するナイフで被害者が出るのを恐れて、時間停止を温存しておきたかったのだ。

 十字路で、前と左右を見渡す。だがしかし、以外なことに、誰もいなかった。

「何だと?」

額に冷や汗をかく。桐得はその瞬間に焦り始めた。確かに、今までは後ろについていたのに、間違えたということはありえないはずだ。念のために後ろを振り返るがやはり、誰もいない。逃げられたとは考えたくない。どこかに隠れているはずだ。十字路の真ん中でキョロキョロとあたりを見回すのだが、何もいない。時が動き出す。

 時が動き出すとき、さすがに諦めるしかなかった。一か八か、この十字路のどこかに賭けようなどということも考えた。そんな諦めは、焦りを溶かす。成功する可能性があると思うから焦るのであって、完全に失敗でどうにもならないのなら焦ることはないのだ。だからこそ、終わるときになって初めて気づくのだ。敵は、屋根の上にいた。

 平常時だけでなく、こういうときも冷静でいなければならない。そのためには、まだまだ経験しなければならないことがありそうだ。後日、桐得はそんなことを考えるのだが、今の桐得にとっては今しがたの焦燥を蘇らせるだけだ。奴の超能力は物を飛ばすというところか。ならば、自身の体を飛ばすこともできるということだ。そういうことに気づけなかった自分を嘆いて、その場に立ち尽くした。

「やっとこさ。鬼ごっこは終わりか」

 ふいに、後ろから声がした。

「お前から逃げてるやつがいたが、運よく逃げおおせたらしいな。いいことだ。まぁ、お前が追いついて襲い掛かったにしろ、俺が止めて、現行犯でお前を吹っ飛ばすだけだがな」

心地よいハスキーな声だと思うのだが、その声色には脅しの成分ドスが効いている。桐得はゆっくりと後ろを振り返った。桐得は半人前であるが、それでもやはり冷静な人間だ。ちょっとやそっと、脅されたところで、顔色一つ変えることは無い。ただ、妙だと感じた。

 同じ学校の制服だ。桐得とは違って、緑がかった薄灰のブレザーを肩にひっかけている。右手はブレザーを引っ掛けて、左手は顔に、ほとんど仁王立ちのような姿勢だ。顔には面がつけてある。本格的な鬼の面。そして、逆立った髪の毛の間から、長い、角のようなものが見える。

「何だ、お前は」

「赤鬼様だ。人の味方、正義の赤鬼だ」

茶化したような口調でいうものの、その声色はドスと一緒にめらめらと燃え上がる炎を纏っている。

「……そんな正義の味方に脅されて、さて、一体何をしたかな」

「とぼけるなよ」

鬼は怒鳴った。

「お前は、自分が超能力者だからってんで浮かれてるんだろ。浮かれたついでに通り魔とはな」

「何のことだ」

「白々しい。今、そこで、車にこのナイフを突き立てて、人一人ひき殺させたのはお前だ」

言いながら、ポケットからナイフを取り出した。鬼の怒気は、並みの人間なら、やはり逃げ出してしまうだろう。だが、桐得は、自分が無敵の超能力を持つことを知っている。脅しには滅法強い。

 桐得は、無表情な顔で、鬼の言うことを聞いていた。こいつは、もしや、桐得と同じく、一連の超常的な事件について調べているのかもしれない。そして、この鬼、もとい、自称鬼、馬鹿ではなさそうだ。停止時間中、後ろを振り返ったときにこいつを見なかったということから、尾行するときにちゃんと隠れていたということを示している。もっとも、走りながら隠れるというのは馬鹿馬鹿しいが。それと、もう一つ、こいつは、今の言葉を吐いても襲ってこようとはしなかった。今の言葉は、相手が本当に犯人であるかを確かめるためのものだ。犯人であるなら、車と言われただけでタイヤを連想するだろうし、負傷者の数も分かるだろうから。 ここで、桐得は、車にナイフが突き立てられるものかとでも言えば一番安全だと考えた。だが、今は、安全よりも大切なことがある。あると考えていい。

「お前の質問(・・)に答えてやる前に、一つ俺からも質問させてくれ」

鬼は面食らった顔をしているのだろうか、面のせいで分からない。

「お前の角、本物なのか?」

超能力の産物だとしたら。ただ、目の前にいるのが痛い人間で、どこかで角の飾りでも買ってきてつけているのなら用はない。だが、超能力の産物だとしたら、それに、同じ目的を持っているのなら、手を組むべきだ。

「本物だ。触ってみるか?」

「ああ、できれば」

鬼が、ハッと笑った。

「なら、今すぐ触らせてやるよ。素直に知らないふりしてりゃいいのによ。この馬鹿が」

鬼と桐得の距離は二、三メートルは離れていた。だが、最後の「馬鹿が」の部分は、ほとんど目と鼻の先で聞くことになった。瞬間移動というわけではない。いや、たしかに瞬間的な移動ではあるのだが、ただ単にべらぼうにすばやいだけだ。桐得は再び時間を止めた。空中に鬼の右足が高く掲げられた姿勢で止まっている。判断があと一瞬遅ければ、かかと落としを脳天に食らっていたわけだ。それも、下手したら頭が割れるような威力かもしれない。桐得は鬼の面を剥ぎ取った。ついでに、その角が本物であるかも確かめて、背後から力任せに三度蹴った。桐得自身の筋力は弱いのだが、停止時間中の全ての物質は無防備だ。よってその威力は膨れ上がる。

 ぐふっとうめき声を上げて、鬼が転がった。面の下の顔はずいぶんとハンサムだ。こんなもので隠さなくてもいいのになと桐得は思った。

「何をした」

「超能力だ。見て分かるだろ」

ここからが正念場だ。ここから十数秒間、時間停止は使えない。気合を入れていかないと、桐得の負けだ。

「とはいえ、俺は犯人ではない。犯人というのは、分かるな?さっき起きた事件と、そして、一週間ほど前の妙な殺人事件の犯人だ」

鬼は立ち上がって、制服のほこりを叩き落とした。思ったより桐得の蹴りは効いていないらしい。

「俺はその犯人を追っている。今しがた、俺が追いかけていた奴が、おそらく犯人だったんだが」

「言い訳はそれだけで十分だな」

桐得は顔をしかめた。

「次のに筋の通った言い訳を言えるならまだ考えるが、お前の右ポケットのナイフは一体なんだ」

終わりかけの春が、半年くらい遡って、また冬が来たようなそんな気がした。寒気がする。桐得の右ポケットには、確かにナイフが入っていた。それは確かに犯人のものだ。桐得のものではないが。終わったと、桐得は思った。無理に手を組もうなどと考えず安全をとればよかったのだ。

「……心やさしき赤鬼さんよ。俺に身の潔白を証明する時間をくれないか」

鬼の眉間に皺がよる。風に逆立てた髪が若干なびくのだが、その硬い角は揺れそうもない。

「その間に、犠牲者が増えるな」

既に十数秒たった。時間停止はまた使えるが、十数秒停止すると、今度は本当に無防備だ。これ以上引き伸ばすことは出来ないだろう。逃げるにしても、今逃げ切ることが出来ても次は、学校で会いかねない。自分の身の安全が一番と考えるなら、このナイフで、鬼の首をかききるべきか。

「お前は、犯人よりもタチが悪い」

はぁ?と鬼は皺をよりいっそう深くした。

「お前は、自分が正義だと思って疑わないんだろ。そうやって、間違った人間を犯人に仕立て上げて攻撃していけば、結果的に犠牲者は増える。お前が増やす。それにだ。正義の味方だと言ったな。まるで、悪を裁くみたいな言い方だが、果たして、お前に裁く権利があるのか?」

ほとんどやけくそだった。自分の潔癖を証明する手段が無いから、悪態を吐いて、鬼がひるんでくれることを祈る。だが、その角のように硬い心が果たして、動くのだろうか。桐得は初めて人殺しをする覚悟をしなければならないのかもしれない。いや、あるいは、逃げ切って、どうにか潔癖を示す方法を考えるべきなのか。

「何だ、それは。逆ギレか。自分が犯人だと言ってるようなもんじゃねえか」

だが、鬼は明らかに動揺していた。


本当は、鬼さんが桐得をぎりぎりまで追い詰める予定でした。その、自慢の鉄拳で。


あ、そういえば、最近、東方の二次創作が書きたくなってきました。一話完結の短編集な感じで、ほんわかした雰囲気で血なまぐさい原作っぽい話を、書いてみたいなぁと。

まぁ、個性的なキャラをぎゃーぎゃー騒がせたいというだけなのですけども。この小説は、まだ主人公が集合してすらいませんし。


さて、明日への覚書。

1.一人称文を紛れ込ませて心情を表すのは止めよう

2.情景描写で心情を、っていうのをがんばろう

3.語彙増やせ

4.物語が溜まりすぎる前に、大推敲をしよう


0話と、それ以降で、文体が結構変わっていますね。


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