鉄拳ジャスティス -2
第二話
-その二
銀時。ギントキ?違いますよ。ギンジですよ。
さて、時を少しだけ前後させることになるが、夕季が七城高校に転校してくる前日のことだ。判戸町の、都会的でも田舎的でもある、ごく普通の通りで、事件が起こった。事件が起こったのは午前中だ。ちょうど、学生やら会社員やらが通勤通学のため通っていたり通っていなかったりする頃合。一人の男性が後ろから包丁で一突き。殺されていた。だが、その犯行の瞬間を誰も見ていないという、あの事件。七城高校にいた阪口銀時は、その事件を、発生してから間もなく耳にすることになる。
二限目が終わり、十分程度の休み時間が始まる。明日くる転校生はどんな奴なんだろうか、きっと、かなりのイケメンさんに違いない!はたまた天才少年かも、なんて女子がまくし立ててみたりするものだから、一年D組の男子勢の、半分くらいの頭上にはどっしりとした黒い雲が蔓延る。阪口銀時は、お気楽で軽い性格のため、気分を静めたりすることは無い。ましてや、銀時自身、顔はかなりいいし、しかも、転校生というものはたいがいが平凡な人間だったりするから、そんなことでどんよりする必要はなかったのである。銀時は、どんよりするよりもその転校生の話題について楽しむ側だった。どんよりしている奴の前で、転校生は往々にして平凡なものだとか、そもそも、お前が心配する前から、女子は来ないぜ、とか、からかうのだ。だが、銀時が嫌われることは無い。軽くて気楽で、しかし誰にでも対等な立場で接する態度は好感が持てるものだった。おまけに話はおもしろいし、運動神経いいし、顔もいい、となると、やはりモテたりするはずなのだが、彼の性格の一つである軽いという部分が災いしてか、彼女はいない。そうやってクラスメイトと笑い合っている銀時の携帯が震えた。非通知の電話は、もはや、それを見ただけで誰か分かるほど銀時になじみのあるものとなっていた。
「よう、阪口。今、休み時間だよな?」
教室から出て、とりあえず人が少ないであろうトイレに向かう。休み時間は十分なので、別な教室に移動する時間がないからだ。電話の相手は、フランクな感じの話し方をするのだが、その声は、よくテレビなんかで聞くことができる機械音声だ。
「ああ、そうだ。で、何かようかい?」
応答する銀時も同じような調子だ。それは別に、相手にあわせているというわけではない。何回かその相手と話しているから慣れているせいだ。何回か話しているわけだが、銀時は、相手の顔も名前も何も知らない。対して、相手のほうは銀時のことをある程度知っているらしい。
「ようがあるから電話したんだがな。お前も、ようも無いのに、犯罪者みたいな機械音と話したくは無いだろう」
「そりゃまあ、そうだ」
「でだ。本題だが」
そこでいったん間を置く。何か探しているのかもしれない。暗い部屋の中で、パソコンにマイクをつけて、そこで機械音を出しながらしゃべっている男がいて、いかにもシリアスっぽく悪役っぽい奴なのに、机の下に落ちた紙、何かの資料をとろうとしている様子を思い浮かべた。なかなか取れなくて、頭から体ごと机の下にもぐりこませるのだが、出てくるときに頭を打ってしまって、そのはずみにパソコンの設定が。なんてことを考えると、笑えてきた。しばらくして、また妙な声が聞こえてくる。
「事件が起きたんだよ。それも鬼の出番となるようなやつだ」
銀時は真剣な顔になった。
「なるほど」
男が事件のあらましを語り終えた。まだ休み時間は三分ほど残っている。
「今のところはまだ何も情報が無くてな。ある程度集まってきたらまた連絡する。とりあえず、今回の連絡は、また、動くことになりそうだから覚悟しろ、ということだな」
「そうかい」
「それじゃ、切るぞ」
ぞ。と言い終えるか言い終えないかくらいで、勢いよくブチッと電話が切れた。また、動くことになりそうだ。あいつはそう言ったけど、実際には動くことになると決まったようなもんじゃないか。銀時は何事も無かったかのようにトイレを出て、教室に戻るのであった。どうせ、何を考えても仕方が無い。阪口には事件の起こった様子しか分からない。それも伝え聞いたものであるし、ならば銀時が動くことなどできようはずがない。ことが動き出すまでは、のんびりに構えておいていいのだ。そういうものだ。たまには、電話の男が自分で動いてくれればいいのに、実行犯はいつも自分だった。銀時自身は悪を憎む正義のヒーローみたいな心を持っているから、確かにそういうことを聞くと、放っておけないのではあるが。三限目が始まる合図が鳴る。さて、授業に集中しよう。あんまり成績伸びないけど。
そろそろ第一章の構想ができてきた。
というわけで、第一章のテーマ、というか第一章の名前が決まりました。
線
です。線。
あれ?ちょっと前にそんなこと聞いたって?アハハハハ。