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0話 アーティフィシャル

まだ、不可解な、へんてこな力を持ったりした奴は出て来ません。あしからず。

 この世界は既に狂っているに違いない。それは、そこかしこで起こる戦争だとか、政治家の汚職だとか、悪が割と好き勝手できる制度だとか、そういったネガティブな意味の“狂っている”ではない。物理法則がゆがみ、常識は壊れ、そんな感じのファンタジックな“狂っている”だ。

 しかし、よくよく考えてみると、そんなものは“狂っている”とは言えないのかもしれない。今でこそ、地球のほとんどは人間が好き勝手改造しているわけであるが、元々はこんな世界ではなかったはずである。物理法則をゆがませる、宇宙の法則を乱す、そんな存在は人類から見ればイレギュラー極まりないが、人類だって、他動物から見れば何だか分からんが、いきなりヌッと現れ出て生態系の頂点に立ったと思ったら、火も水も光も電気も土も何だって操り始めた、そんなイレギュラー極まりなくファンタジーなやつらなのである。

 何が言いたいかというと、これから物理法則を無視し、宇宙をかき乱し、絶対不可能な事件を生み出し、それを絶対不可能な方法で解決する、そんなおとぎ話がこれから幕を上げますよと言いたいわけだ。心の準備をしてくださいと言いたいわけだ。

 今は六月、梅雨の季節。雨は降り振り、湿度は急上昇。あの子の眼鏡は真っ白にくもる今日この頃。日本のどこか片隅、田舎であり都会である町、判戸町(はんとちょう)。そこにある一般的普遍的な七城高校(しちじょうこうこう)にて、楽しげで愉快な、そして不可能な事件が起こるのだ。


 - ゼロ話 アーティフィシャル 始 -


「暑いわ。蒸し暑いわ。蒸されてるわ。死ぬわ」

「……南無とでも言えばいいのか?」

「違うわよ。その団扇でもって扇いでくれない?」

「これは下敷きという」

「それは団扇とも言うのよ」

七城高校一年B組。四時限目も終わり、食後に適当に会話を交わしているそんな頃合。いつもなら楽しげで愉快げな会話をしている奴が目立つのであるが、最近は瀕死の奴がかなり目立つ。教室の隅っこ、窓側最後尾付近の彼らもその瀕死の奴らの一部である。片方は団扇で軽く涼しさを味わっているのだが。もう片方は両手をだらりとのばし、机に突っ伏して本当に死に掛けのようである。

「……」

返事がない。本当に屍のようだ。それはともかく、こんな死者続出の時期に、こんな拷問部屋に、楽しげで愉快げな事件を持ってくる奴がいたのである。本来、こういう日に事件なんて歓迎されるはずがあるわけない。なぜなら、動くのは面倒で、さらに熱を感じさせる行為にあるからだ。しかし、その事件が熱を忘れられるようなものなら、歓迎される。ちょうど、その事件は歓迎される部類であった。

明星(あけぼし)くーん!ご指名がかかったわよー!」

「ご指名?」

何だろうか。おおよそ、俺が誰かに呼ばれてるだけだろうが。誰だろうか。おおよそ、俺に会いに来そうなやつなんて、俺の後ろの席よろしくのびているに違いないとは思うのだが……。しかし、指名とはあほらしい言い方だ。

 明星と呼ばれた少年は、団扇代わりの下敷きをひらひらさせながら、教室の入り口を見た。相手によっては放置する魂胆だ。しかし、そこにいたのは彼の知る人物ではなく、大声でご指名なんて言われたからか、何やらおどおどと落ち着きを失い、顔も真っ赤にした、しかし愛らしい仔リスのような小柄な少女だった。

 放っておくわけにはいかない。それは決して彼がちっさい子が好きだからとか、そういうことではない。彼が見ず知らずの人物を放置などという、常識にデコピンするようなまねをしない性格だったからである。いや、そういうひどい性格であっても、放っておけないような気はするが。

 片手で下敷きをひらりひらりと遊ばせながら、いざ、少女の前に来てみると、遠くで見たよりももっと小さく思えた。男子の平均的な身長より少し小さめな明星少年。そのさらに頭一つ分くらい小さいかったのだ。そんな少女は、明星の前で、俯きがちに顔を赤らめながら、耳まで真っ赤にしながら言った。

「き、今日、放課後に……、屋上で待ってます。……あの、来てくださいね」

……それだけ言うと、ささっと明後日の方向に走り去ってしまった。走り去ってしまった。何か「私、これから告白します」みたいな、そんなふうに聞こえなくもない言葉を残して。いや、待て、告白?なぜ、俺に?いや、今の子見たことないし。無いし。一体どういうことなんだ!?何がどうなってる。

 明星は混乱している。こんな蒸し暑い日に、いきなり名前を呼ばれて、しかも何やら告白されようとしている、見ず知らずの人に。

 先にネタばらしをすると、これこそが事件の発端であったのであるし、そして、これ自体も、一年B組に活気を与える餌となった事件になったのである。

アーティフィシャル。嘘の、作為的な、作られた、とかそんな意味で、この言葉の後ろには名詞が来るらしいです。ちなみに、次は絶対にファンタジーな不可解能力だしますんで。ジャンル間違ってないですよ!

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