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あたしも聖女をしております  作者: 斉藤加奈子
第一章

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62/231

62.ルーカスの最後②

誤字脱字報告ありがとうございます!感謝です!

 外用の超特製ポーションを右の上腕から前腕にかけてまんべんなく振りかける。止血されたことを確認し、骨折していたところへ添え木をして包帯で固定する。治癒力増強ポーションと骨継ぎポーションを処方して応急処置を終えた。


 先ほどエリーが叫ぶようにわたしを呼んでいたことが忘れられず、急ぎエリーのもとへ駆け寄る。


───わたしは思わず息を飲んだ。


 目の前には、すでに動かぬ人となったルーカス様と、彼の手を握りしめながらただひたすら彼の名を呼び続けるエリーの姿があった。


まさかルーカス様が・・・。


「エ、エリー・・・。」


わたしはエリーにどう声をかけたら良いのか分からず、もう少し早く駆け付けられなかったのかと後悔をした。たとえ助けることができなくても、少しでもエリーの心の支えとなってあげたかった。


その時、わたしの診察台の方から大きな声で呼ばれた。


「すみません!至急手当てをお願いします!」


また負傷した騎士が運ばれてきた。早く戻らなければ。だけどエリーをそのままにはしておけない。エリーの方にも診察待ちの怪我人が待機している。

どうしたらいいのか戸惑っていると、ブラウン団長が声をかけた。


「王女殿下、我々の使命を忘れてはなりません。我々がここへ派遣されてきた意味を。」


その口調は穏やかながらも、厳しいものだった。


エリーはその言葉を聞くと、握りしめていたルーカス様の手をそっと彼の胸に置き、もう片方の手をその上に重ねた。


担架に乗せられたままのルーカス様は、運んできた騎士によってまた何処かへ運ばれて行った。


 わたし達はそれぞれの持ち場に急ぎ戻ると、負傷した騎士達の応急処置を再開した。


 それからのエリーは普通に怪我人の応急処置をしていた。悲しむ様子も、無理をしている様子も無く、普通過ぎるくらいにいつも通りの対応をしていた。


 ようやく運ばれて来る人がいなくなる頃には疲労で体が鉛のように重く、すっかり日も傾き周囲は茜色に染まっていた。


 二回目の災害の被災者は救助活動をしていた騎士ばかりで、死者一名、重傷者三名、中軽傷者十二名となった。


災害の範囲が小さかったことと、普段から鍛えている騎士達だけあって、危険を察知して迅速に回避できた者が多かったため、被害が大きくならずにすんだと誰かが言っていた。


唯一の死者となってしまったルーカス様は、倒壊しかけた家屋で救助活動をしていたらしく、しかも災害発生の中心地だったこともありこの様な悲しい結果となってしまった。


 負傷した騎士達は、手厚い看病を受けるため都心の治療院やそれぞれの自宅へと帰って行った。


騎士達は皆、献金を用意できる人達なので、聖女の治癒が必要な人はそれぞれ神殿に行って治癒を受けてもらうこととなった。


 ルーカス様の亡骸は、ブラウン団長によって腹部の木材は抜かれ、傷痕を隠すように当て布がされた。その後仲間の騎士達によって綺麗な騎士服に着替えさせられ、遺族のもとへと送られて行った。


 今日の昼頃には撤収して王都へ向かうはずだったけど、予定を変更して明日の朝、撤収することになった。


 気付けば休憩もなしに何も食べてないことに気が付いた。ようやくとれた休憩にラムール村の人々が出してくれた炊き出しをいただく。


 お腹は空いているはずなのに、食欲がない。食欲はないけど豆とトマトのあっさりとしたスープだけは胃に収める。どうやらわたしもルーカス様の早過ぎる死に心を痛めているようだ。


あまりお話できなかったけど素敵な方だった。美しく、紳士で、優しい音色のバイオリンを奏でるお人だった。


ルーカス様の伴奏に合わせて歌った時間はとても楽しかった。一生の思い出に残るものだと思う。


昨夜までその楽しいひとときを一緒に過ごした彼は今はもういない。

思い出すほど早過ぎる死が悔やまれてならなかった。


 ふと、隣に座るエリーに目を向ける。

エリーはスプーンを握ったまま固まっていた。その顔は無表情で感情が読み取れない。ただじっと目の前にあるスープ皿を見つめていた。


「エリー?少しでも食べて下さい。食べないと倒れてしまいます。

───エリー?」


「・・・え?ああ、そうね、美味しいわね。」


「美味しいとかそういうこと言ってません。少しでもいいので食べて下さい。お願いですから。」


わたしがしつこく勧めると、エリーはスープをひとくち口に運び、その後再び固まってしまった。

それを何度も繰り返して何とか食べさせようとしたけど、結局ほとんどを残して食事を終えた。


 夕食後のミーティングでは、今日の災害の詳しい被害状況の報告と、明日の撤収の確認をした。ミーティングにもエリーはきちんと参加した。話を聞いているように頷いていたけど、顔が無表情だった。恐らく全く耳には入っていないのだと思う。


「マリー、今日は疲れたわ。先に休むわね。」


そう言ってエリーは自分専用のテントへ戻って行った。わたしとしてはエリーを一人にはしたくなかったし、眠くなるまで側に居てあげたかった。そう思いながらも彼女の背中を見送ることしかできなかった。


わたしはエリーのこと、亡くなったルーカス様のことを思いながら、いつもより早く床へ就いた。


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