60.最後の夜
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医療活動三日目。
今日も朝は聖女の治癒が必要な人達に治癒を施しに回る。
エリーが手を組み、祈りの言葉を唱え始めると、村人達も一緒になって手を組み祈り始める。村人達が一緒になって祈ったところで治癒の効果に変化は全くないけど、いいことだと思うから誰も否定はしない。これはエリーを女神と見立てたお祈りの時間と言っていい。
治癒が終わると、完治していない人の再診、ポーションの処方、それとストレスからくる体調不良の人達を診察していく。災害から五日目にもなると、ワダリ村から運ばれてくる負傷者はいなかった。
治療中の負傷者の経過は順調だった。なのにエリーとわたしの目の前には診察待ちの村人達が長い列を成していた。
「いかがなさいましたか?」
「お姫様達にお礼を言いたくて。昨日は、葬儀で『鎮魂の歌』を歌っていただいてありがとうございます。死んだ息子も心安らかにあの世へ行くことができたと思います。」
「いかがなさいましたか?」
「昨夜聞こえてきた美しい歌は、お姫様達の歌だと聞きました。おかげで不眠でしたのに、眠ることができました。ありがとうございます。」
皆、昨日の葬儀の時に『鎮魂の歌』を歌ったことや、夜中に子守唄や童謡を歌ったことに対する感謝を伝えたいがための行列だった。
思わぬ事態で忙しくなってしまったが、話を聞くと皆、体調も快方に向かっていて、大した治療は必要なさそうだった。しかしこれからは、被災された人達には向き合わなければいけない厳しい現実が待っている。今後はより一層の心のケアが重要になると思った。
正午を過ぎ、ようやく行列が捌けた頃、隣で診察をしていたはずのエリーがいない。
そして救護テントの端の方で、テント内から外を覗き込むような姿勢のジェシカとケビンがいた。
「何を見てるの?」
「・・・あの野郎、調子に乗ってやがる。」
「うちの姫様にあんなもの・・・。」
わたしとメリッサとロビンも二人のまねをして、身を隠すような姿勢でテントの外を見てみた。
ジェシカとケビンの目線の先あったもの、それはルーカス様と、ルーカス様から野に咲く花で作った小さな花束を受け取るエリーの姿だった。
エリーはわたしが今までに見たことのないような、ほんのりと頬を赤らめはにかんだ笑顔を向けている。わたしはその表情に衝撃を受け、軽い苛立ちさえ覚えた。
わたしのエリーが・・・そんな鈴蘭だとか毒草でわたしのエリーをたぶらかさないで!とそんな思いがこみ上げた。
花束を束ねていた紐が、ルーカス様が使っていた髪紐だったらしく、エリーは自らの髪を飾るモスグリーンのリボンを解くと、ルーカス様へ手渡していた。
それを見ていたわたしは、エリーと同じ装いをしなくてはいけない立場のため、不本意ながらルーカス様とお揃いになってしまったリボンを外しポケットへ突っ込む。
「チッ。」
つい、わたしの口から令嬢らしからぬ音が漏れてしまった。
小さな(毒草の)花束を胸元で大事そうに握りながら、エリーがテントまで戻ってきた。
「ジェシカ、これを私の宿営テントへ飾って。この紐は大切な物だから、後で私に。」
「・・・はい。」
キレの悪い返事をしたジェシカは、花束を片手に、花器を借りるためラムール村の女性がいる方へと歩いて行った。
午後には昨日と同じく、ワダリ村の葬儀に出かけた。今日の葬儀は遺体で発見された三名の方のためのものだったが、村人が総出で参列していてごった返していた。
どうやら、わたし達の『鎮魂の歌』の評判を聞きつけて集まったらしい。そもそも献金を用意できなくて聖歌組の聖女を呼べないくらいだ。『鎮魂の歌』を聞いたことさえ無いかも知れない。
ワダリ村の人々の祈りはとても真剣で、今回も一瞬だけ『祈りの光』を発現させることができた。さすがに今回の『祈りの光』は目撃者が多く、葬儀の後にもの凄く村人達の話題となっていた。
夜になると昨日と同じく、森の入り口の大きな切り株の前でルーカス様と落ち合う。
わたし達の歌声は広い夜空に吸い込まれるように消えていくので、被災された人達の耳にまで届いているのか心配だった。しかし朝の診察で、この歌で癒されたとか、よく眠れたとか感謝を言う人々で行列ができていたので、皆の耳にまでちゃんと届いていると知り安心して歌った。
始まりにルーカス様がバイオリンで一曲、その後わたし達がルーカス様の伴奏に合わせて子守唄や童謡を五曲歌い、そして最後にルーカス様が締めの一曲を弾くと、演奏会は終了だ。明日は王都へ帰る予定なので、ルーカス様とご一緒するのもこれで最後だ。
そして宿営テントまで送ってもらう道のりも、エリーとルーカス様にとっては最後の一時となるはずだ。
わたしはこの二人の恋愛を応援するつもりはないけど、最後の夜だと思って二歩ほど下がる。
「おい、何でまた二人きりにしてんだよ。これ以上仲良くさせんなよ。」
わたしのすぐ近くにいるケビンが突っかかってくる。
「別に最後の夜くらいいいじゃない。あっ、エスコートしてる・・・。」
「身分差の恋なんて辛くなるだけじゃねーか・・・。」
「・・・説得力あるわね。」
「・・・チッ。」
令嬢に対して舌打ちをする失礼なケビンだった。
宿営テントへ到着すると二人は名残惜しそうに別れ、エリーとルーカス様の甘い一時は終わりを迎えた。




