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あたしも聖女をしております  作者: 斉藤加奈子
第一章

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58/231

58.葬儀

 布に包まれた遺体の埋葬が終わると、神官が村人達の前に歩みを進めた。


本来の葬儀(本来というよりお金持ちの葬儀)は、遺体は棺に入れられるし、式は神殿で執り行う。そして聖女の聖歌組の『鎮魂の歌』が捧げられた後、墓地で埋葬されるのが本来の葬儀だった。


今回の葬儀は貧しい村人の、しかも災害に見舞われた人達のためのものだ。


しかも季節が夏ということもあり、遺体の埋葬を先に済ませ、その後神官を呼んで祈るだけの簡素な葬儀だ。


その葬儀が今、始まった。


「尊い命が、女神のもとへと旅立ちました。

愛する者を失った悲しみは深く、受け入れがたいものです。

しかし私達は、亡くなった者達を弔い、心からの安寧を願わなければなりません。

さぁ、冥福を祈りましょう。」


神官の言葉で村人達や参列者が目を閉じ、手を組んで祈り始めた。


それを合図にわたし達は歌い始めた。

被災し、愛する人を失った人達のために。そして、愛する人を残して亡くなった人達のために。


──どうかその悲しみが少しでも癒されますようにと。


「♪

 愛しい貴方の

 美しく穢れなき魂よ

 女神のもとへいざ還らん

 我らは貴方を忘れはしない

 空より高い気高さと

 海より深い愛情を

 女神の愛に包まれて 

 貴方の魂は静かに癒される

 我らの願いはただ一つ

 愛しい人よ安らかに眠れ   ♪」


 優しく通り抜ける風、森のさざめきと小鳥のさえずりが聞こえる中、わたし達の歌声が響き渡る。


すると祈りを捧げていた人達の悲痛な表情は和らぎ、穏やかなものへと変わる。頬を伝う涙は美しくも見えた。


その時だった。


祈りを捧げる人達の、組んだ手が一瞬だけ、ほわっと白く光った。


───『祈りの光』だ。


それは導きの能力がある上聖女が『鎮魂の歌』を歌い、それに合わせて祈りを捧げると、祈りが目に見える光となって現れるというものだった。


上聖女の能力が高いと、『祈りの光』は天まで届くと言われている。


しかし、祈る者が心からの祈りを捧げなければ発現しないので、『祈りの光』を見たことがある者はいても、それが天まで届いたところを見た者はいない。


───これが導きの能力なのか。


 目を閉じて祈りを捧げていたため、村人達はその現象に気が付いていないようだった。二、三人、気が付いた人もいたが、一瞬の出来事だったため、気のせいだと思ったようで首を傾げる程度だった。きっと村人達は『祈りの光』というもの自体知らないのかもしれない。


わたし自身、葬儀というものに参列したのは初めてだったので、もちろん『祈りの光』を目にしたのも初めてだった。


 わたし達が帰るときには、村人達は胸元で手をクロスさせて頭を下げ、見送ってくれた。言葉は無くても感謝の気持ちを込めた礼であることが分かった。


わたし達は思いつきのような親切心で『鎮魂の歌』を歌ってみたが、この人達を少しでも慰めることができたのだろうか?


家族や親しい人を亡くし、家や畑も壊され、それでも生きて行かなければならない被災された人達を。


そんなことを考えながら、ラムール村の救護テントへと戻った。


 ラムール村への帰り道、黙ったままのエリーはどこか思い詰めた様子だった。

そして口を開いたのは繋いであった馬に乗り、しばらくした時だった。


「マリー、貴女も見た?」


「はい、『祈りの光』が発現してました。」


「正直なところ、導きの能力が一の私に、『祈りの光』を導き出せるとは思わなかったわ。予想外だったけど歌って良かったわ。」


「はい、これでワダリ村の人々の心の痛みも、癒されてくれたらと願ってます。」


「マリー、これからも私に付いて来て欲しいの。

治癒の能力で人々を助け、導きの能力で心も救って行く。

父上にも、兄上にもできない方法で、私はこの国の歴史に名前を刻んで行くわ。」


「はい、エリーならきっとできると信じてます。それにわたしは付いていきます。どこまでも。」


エリーは今、はっきりと言った。

国王陛下でも、王太子でもできない方法で歴史に名を刻むと。

わたしは歴史に名を刻むなんて考えたこともなかった。

そんなわたしにできることは決まってる。

エリーの側で、エリーを支えること。


エリーはじっと前を見据え、王女としての決意を新たに自らの歩む未来を見つめていた。


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