53.医療活動開始
緑豊かなラムール村へ到着し、村の出入り口付近を宿営地とした。急ぎテントを張り、簡単に荷解きをする。それと同時に、アムラダディ領の医療団の活動拠点としている救護テントの隣に、連携しやすいように王都の医療団の救護テントを設置した。
驚いた事にアムラダディ領から派遣された医師は二名しかおらず、補助員が五名、あとはラムール村の村人達が手助けをしていた。
アムラダディ領の医療団の人達がわたし達の到着に気が付くと、いっせいに治療中の手を止めた。エリーに挨拶をするためだろう。
「ブラウン団長、挨拶を交わすのは後に致しましょう。治療の手を止めてはいけませんわ。」
「仰せのままに。
どうか、そのまま治療を続けて下さい!王女殿下は、挨拶は後で構わないと仰せです!」
アムラダディ医療団の人達は目礼し、負傷者の治療を再開すると、王都からの医療団の到着に安堵の表情を浮かべた。
災害は発生してから丸二日が経過しており、三日目を迎えているが、被災地からの負傷者は未だ途切れることなく運ばれてくる。
アムラダディ医療団の救護テントは、軽傷者から重傷者まで多くの負傷者がひしめき合っていた。
明らかに人員、ポーション、医療物資と全てが不足している。
そんな中に運び込まれた人が、直ぐに手当てを受けられない事態が発生したり、応急措置さえ受けられず放置されている人がいたりと、とにかく混乱していた。
「エリー、わたし達は応急措置が得意です。とりあえずの応急措置を受け持って、応急措置以上の治療が必要な方を医師の方々にお任せする方法はどうでしょうか。」
「そうね。その方法にしましょう。」
わたし達は、戦地で負傷した騎士に対しての医療を主に学んでいたため、応急措置が得意だった。エリーはわたしの意見に同意すると、王都医療団の団長と幾つか打合せをした。
「ブラウン団長、私とマリーは運ばれてきた負傷者の応急措置を受け持ちますわ。医師の方々でないと難しい負傷者はそちらへ回します。そのやり方でどうかしら。」
「賢明なご判断だと存じます。王女殿下の仰る通りのやり方で行きましょう。」
「聖女の治癒が必要だと判断された場合は呼んでいただけるかしら。」
「かしこまりました。王女殿下、長丁場になるかもしれません。どうか無理をなさらず休憩を挟みながら治療を行って下さい。」
「ええ、分かりましたわ。」
エリーとブラウン団長がそう会話を交わすと、急いで準備に取りかかった。
エプロンドレスを着て、救護テントの一角に診察ベッド、簡易椅子、簡易テーブル、治療に必要な物をエリーとわたしの分準備する。ポーションもたっぷり用意した。
準備が整うと、まだ治療を受けていない人から診察を始めた。
エリーとわたしの二人の体制で、次々と診察していく。
骨折した被災者には添え木をして包帯を巻いたり、傷のある被災者には傷口を洗浄したり、腫れのある被災者には薬草を患部に貼り包帯を巻く。
ポーション係をエリーとわたしの側仕え、ジェシカとメリッサに任せ、わたし達が指示したポーションを渡して行く。
「この方には骨継ぎポーションを。」
「この方には外用ポーションを。」
「この方は医師の方へ。」
「この方は医師の方へ。」
順調に負傷者の診察をこなしていると、エリーのもとへ応急措置では間に合わない負傷者が運ばれてきた。
「至急この者を診てやって下さい!」
「診察ベッドの方へ。あとブラウン団長を呼んでちょうだい。マリー!こちらを手伝って!」
「はいっ!」
運ばれてきたのは五十代の男性だった。
見てみると、脇腹に親指ほどの太さの木の枝が刺さっている。
刺さった木の枝は、肋骨の間に入り肺まで到達しているようだった。
救助隊の騎士が言うには、災害時に木の側に居たらしく、倒木に巻き込まれたとか。何とか倒木の下敷きになるのは免れたものの、避けきれず枝が刺さってしまったようだと。
これはエリーの治癒の能力が必要だ。肺の損傷がどの程度か分からないけど、まともに治癒をしていたら、エリーの聖力は枯渇する。聖力の消耗が少なくて済む方法はないだろうか・・・。
わたしはしばらく思考を巡らせていると、エリーが声をかけてきた。
「マリー?どうかした?」
「はい。エリーがこの方に治癒を施すと、聖力が枯渇する恐れがあります。するとこの後運ばれてくる負傷者を診る事ができなくなります。もし、この後聖女の治癒が必要な人が運ばれてきたら、その人は手遅れになってしまいます。」
「それもそうね・・・。」
「エリー、分割で治癒しませんか?」
「分割?」
「はい。今日は止血のみに留めておいて、損傷した肺の治癒は明日、抉れた部分の治癒は明後日にするのです。」
「いい考えね。つい完全治癒したくなるけど、私が倒れる訳にはいかないもの。マリー、貴女がストップをかけて。」
「分かりました。」
「他に何かある?」
「・・・治癒を施す時、エリーは両手の手のひらを患部にかざして、聖力を注いでいます。もっと狭い範囲で聖力を注ぐことは出来ますか?」
「手のひらではなくて指先から聖力を注ぐ感じかしら。」
「そうですね。手はこうしてみてはいかがでしょうか?」
そう言ってわたしはエリーに、人差し指と親指を立てて、指を銃の形にして見せた。聖力ビーム銃だ。
「・・・イマイチ美しくないけど、やりやすそうだから、聞き入れてあげるわ。」
「はい。アリガトウゴザイマス。」
この世界には、銃がないのでエリーにはこの聖力ビーム銃のかっこ良さが分からないらしい。
わたしは少し納得いかない気持ちになりながらも、負傷者の患部が露わになるように患者の衣服にハサミを入れた。




