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あたしも聖女をしております  作者: 斉藤加奈子
第一章

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46.報告

誤字脱字報告ありがとうございます!感謝です!

 ライオネルを北方の少数民族の討伐の為、エステルスーン領へ送り出してから二週間以上が過ぎた。


『王命である。北方の少数民族の襲来問題を解決せよ。』


そう言ってこの問題の解決にあたらせたのは、次期国王としての資質を見極めたかったからだ。


───手元にある手紙は二通。


一通はライオネルからの報告の手紙、もう一通はエステルスーン辺境伯であるシュナイダーからの手紙だ。


 先にライオネルからの手紙の封を開ける。


てっきり北方の少数民族を殲滅するため、騎士の増員を依頼する手紙だと思い込んでいた。


しかし実際の手紙の内容は、北方の少数民族に新種の小麦を育てさせ、収穫高の三割を権利料や慰謝料、損害賠償として徴収するというものだった。

そして当面の食糧支援を国の備蓄から出して欲しいということも書かれていた。


────ライオネルめ、なかなかやりおる。


私は思わず喉を唸らせた。とてもではないが私には思い付かない方法だった。北方の少数民族は殲滅するにしても時間と軍事費用がかさみ、もし生き残りがいたとすれば後に遺恨を残すことになる。国に従属させるにしても無駄に国土を広げることになり大した利益にもならない土地を守り管理せねばならなくなる。


しかしライオネルの方法なら慰謝料など利益だけを手に入れることができ、北方の少数民族からすれば自主性が保たれて尚且つ飢えに苦しむことも減る。

両者にとって益がある。


私も北方で育つ小麦など知っていたら・・・いや、その新種の小麦もライオネルが幼いころから取り組んできた物だったか。


 私だったら迷わず殲滅の道を選んでいた。ライオネルもその道は選択肢として考えていただろう。そこでどのような手段で、北方の各地に散らばる少数民族を殲滅していくか?それによりスピード、判断力、決断力、統率力などを見てやろうと思っていた。しかし、今回のライオネルからは政治力を垣間見た。


心の奥底から、焦りのような苛立ちのような感情がじわりと滲む。


何だこの感情は?

ああ・・・嫉妬か。私は己には成し遂げられない事を成し遂げた息子に嫉妬しているのか。


 何とも情けない父親だと自嘲しながらもう一通、シュナイダーからの手紙の封を開ける。


 シュナイダーには、年長者の目から見たライオネルの様子を報告するように命じていた。


シュナイダーは情に厚いところがあるオヤジだ。ライオネルの事は少々甘く書いてくるであろうから、それを差し引けばそれなりに客観的な報告になるだろう。


─────シュナイダー、誉めすぎだ。まあでもライオネルの動きも悪くない。威厳を持って会議を進めているようだ。


 そしてある一文に目が止まった。


『言いたい事も言わせずキャノピー族の首長の首を切り落とす気の短さは陛下に似ておいでです。』


ふっ、気の短いところが似ているか・・・。


「まだまだ息子には負けてられんな・・・。」


思わず独り言ちると、宰相を呼び北方へ送る食糧の手配を命じた。







 王都へ帰還すると、陛下への報告のため謁見の間へ行く。


 陛下から与えられた課題である北方の少数民族の襲来問題を俺なりに解決したつもりだ。


後はどのような評価が下されるのか待つばかりだった。


「ライオネル、此度は大義であった。」


「有難きお言葉です。」


 手紙では書き切れなかった細かな内容を報告する。実際の村の被害状況、北方の少数民族の様子、エリー達の活躍、エステルスーン騎士団の実力の程度など。


 すると陛下から質問された。


「今後、北方で小麦が穫れるようになり、生活が安定するとそこから国が興る可能性がある。

若しくは北方を自国の領土にしようと侵略する国が現れるかも知れん。

そうなったら小麦の収穫高の三割を反故にしてくる可能性がある。その時其方はどうするつもりだ。」


そこまで考えが至らなかった。今は価値の無い北方だが、あれだけ広大な土地だ。小麦が穫れるようになれば魅力のある土地となる訳か。


───反故になどさせてたまるか。


「その時は、また小麦の穫れない荒野に戻して見せます。」


「ほう。どうやって?」


「即効性はありませんが、新種の小麦を北方では育たない元の品種に戻します。恐らく数年かかると思いますが、実現可能です。

その後、殲滅してやります。」


元の品種の花粉を、小麦の花が咲くと同時にばら撒いてやる。


新種の開発は大変だが、元の品種に戻すのはなぜか蔓延するのが早い。自給できるようにしてやったのに反故になどしたら、後悔させてやる。


「・・・其方、意外に容赦ないな。」


「このくらいは当然です。」


「そ、そうか。開発に携わった其方ならではの方法だな。

ところで、エリーから観光しながら帰ると手紙が来てまだ帰って来ない。なぜ連れて帰らなかった?」


「野営しながら帰る私達とは違い、エリーたちは宿を取りながら帰るので途中で別れました。エリーに言うことを聞かせるのは無理です。」


「そうか。エリーはエステルスーン領では大人しくしておったか?」


ギクッ。

一瞬、脳裏に酒に酔って人前で歌い出したエリーが浮かぶ。正直に言わずここは黙っておくことにする。


「は、はい。恙なく。」


やばい、動揺が隠しきれなかった。陛下が疑惑の目で見てくる。


「まあ、よい。此度はご苦労であった。今後も期待している。旅の疲れをしっかり癒やせ。」


「はい。ありがとうございます。これにて失礼致します。」


 陛下の反応は上々だった。今後も期待しているとの言葉もいただいたし、合格点を貰えたのだろう。


 謁見を終えた後は、ゆっくりと休んではいられなかった。急ぎ植物学者のギルバート・モリアーティ先生の研究所へ行き、小麦の栽培技術を指導する技術団の派遣について話し合った。



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