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あたしも聖女をしております  作者: 斉藤加奈子
第一章

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34.よく泣く騎士達への歌

 成人の儀も終わり、わたし達は明後日には旅立たなければいけない。わたし達にとって初めての長期の外出。しかも北方の少数民族が襲来するという辺境へ赴くのだ。不安とか、どんな旅になるのだろうかとか、色んな思いが入り混じり昨晩はあまり眠れなかった。


 今日はわたしの生家であるシューツェント男爵家のお父様、お母様、そしてフィリップスお兄様が面談に来てくれた。出立前の挨拶のために忙しい中、時間の都合をつけてくれたのだ。


「貴女は貴族の令嬢なのに、そんな危険な場所に行くだなんて・・・。」


お母様は今にも泣いてしまいそうな顔をしてわたしを抱きしめる。


「お母様、わたしが王女殿下にお供したいと申し出たのです。王女殿下もわたしの事を必要だって言って下さいました。それに危険が無いように陛下もご配慮下さってます。」


お母様を悲しませている事に少し胸が痛む。九年前、御身代として登城するわたしを見送る時にもこんな顔をさせた。

心配ばかりかける娘で申し訳ない気持ちになる。


「そうか。マリエッタの意志でもあるんだな。でも、怖くなったら直ぐにでも家へ帰って来なさい。マリエッタの部屋はそのままにしてある。後は私が王へ掛け合ってあげるから。」


簡単には帰れない事ぐらいお父様だって分かってるはずだ。でも、わたしを心配してくれてるその言葉がとても嬉しかった。


「ありがとうございます、お父様。どうか心配しないで笑顔で見送って下さい。」


「笑顔で見送って下さい」と言いながらわたしが泣けてきた。

やっぱり危険な地域へ行くことが少しだけ恐いのだ。


「ぐすっ。泣いてしまいごめんなさい。甘えが出てしまいました。」


「マリエッタは十六歳になっても泣き虫のままなんだね。『ナディールの大聖女』の名が聞いて呆れるよ。」


フィリップスお兄様が泣いてるわたしを揶揄う。お母様が愛おしそうにわたしを見つめながらハンカチで涙を拭ってくれた。


「もう。その呼び名は止めて下さい。王女殿下ならともかく、わたしには大袈裟過ぎてむず痒いです。」


「それはそうだろうね。『ナディールの泣き虫聖女』様。」


「それも嫌です!」


そんなやり取りをして、家族で笑い合っている時だった。扉を叩く音がしたので返事をすると、王宮筆頭執事のベルナルドさんがわたしのエプロンドレスを持って入室した。


「お取り込み中失礼致します。

騎士団から緊急の要請が来ております。」


年に数える程しかない緊急要請が、よりによってこのタイミングで来た。わたしはお母様から受け取ったハンカチで涙を拭う。


「はい、直ぐに参ります。

お父様、お母様、お兄様、忙しい中会いに来てくれてありがとうございました。」


「ああ、無事帰還する事を祈ってるよ。

さあ、王女殿下がお待ちだ。早く行きなさい。」


「はい、ありがとうございます。行ってまいります。」


わたしは急ぎエプロンドレスを着て応接室を出ると、扉近くでエリーが待っていてくれた。


「お待たせしました。」


エリーは泣いた後のわたしの顔を見て、一瞬申し訳なさそうな顔をした。王女殿下がそんな顔をする必要は全くないと思いわたしは安心させようと笑顔を見せた。


「急ぎましょう。『ナディールの大聖女』様。」


そんなわたしに対してエリーは、少し呆れたように「貴女もよ。」と言って微笑んだ。







 今日の緊急要請は、盗賊団の討伐に当たっていた騎士が毒矢を背中に受け、しかも矢尻に返しが付いていたため矢が刺さったまま搬送されたと言う。


帰城と同時に毒消しポーションを飲ませたが、少し毒が回ったらしい。そのためなるべく早く治癒を受けさせたかったのだとか。


 最近のエリーは、患者にポーションを複数併用する事により、治癒の能力を施しても聖力の枯渇で倒れる事は無くなった。(エリーってばわたしが付いてないと本領発揮できないのは相変わらずだけど。)


 毒矢を受けた騎士に、治癒力増強のポーションを飲ませる。わたしがうつ伏せになった騎士の肩を押さえると、エリーが治癒を始めた。それに合わせて一緒に治療に当たるノートン医師が矢をゆっくり引き抜く。治癒の能力と弓矢を引き抜くのを同時に行ったおかげで、肉の抉れや出血が少なくて済んだ。


完全治癒の一歩手前でエリーの肩を叩く。

そこでエリーは治癒を止め、わたしが外用ポーションを患部へかける。そして再度毒消しの特製ポーションを飲ませた。それで終了。


しばらくは痛みや違和感はあると思うけど、完全復帰できるはずだと思う。


治癒が終わると、感謝しながら騎士が泣く。付き添いの騎士まで泣く。つくづく騎士とはよく泣く人達だった。


 翌日、エステルスーン領への旅程の打合せ時に、エリーは嬉しそうにわたしに話かけた。


「マリー、私、騎士のために歌を作ったの。騎士達は涙を堪えて戦地で頑張っているわ。そんな彼等を癒すような歌よ。近いうちに騎士達に披露するから、マリーも覚えてちょうだい。」


エリーはそう言うと『よく泣く騎士達への歌』と題名の書かれた歌詞カードを差し出すと、おもむろに歌い出した。


『♪

一人で泣いてるそこの貴方

苦しみを耐え抜き涙を堪え

歯を食いしばりひとり泣き

さぁもう泣かないで涙を拭いて

私の前では我慢しないで

思う存分泣きなさい

ルーララー 大空へ

ルーララー 駆け出すの

貴方のもとへ エリーとマリーが癒してあげますわ ♪』


泣いていいのか、泣いてはいけないのかよく分からない歌だな。それになぜ大空へ駆け出しているのか?


「エリー、わたしは大空を駆ける事は出来ません。」


「私だって出来ないわよ。

そこは自由で壮大なイメージを表現したのよ。マリーはもう少し芸術というものを学んだほうがいいわね・・・。ふぅ。」


ため息交じりに呆れられた。

ちょっと納得がいかない。


わたしはエリーから歌詞カードを受け取ると、寝る前に眺めながら鼻歌で練習した。


これ、歌うときなんて来るのかな。

エリーのことだからどこかのタイミングでねじ込んで来そうだな。


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