33.成人の儀
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神殿を訪れるのは四年ぶり。
前に来たのはライオネル王太子殿下の成人の儀に参列した時だった。正しく言うとライオネル殿下は成人の儀が終わった後に、王城で立太子の儀を執り行ったから、あの時はまだ王太子になられる前だった。
あの日のライオネル殿下は眩いばかりの白の正装をお召しで、金糸の鮮やかな刺繍に、差し色にラピスラズリのようなブルーのチーフを用いて、男性でありながら美しいという形容がぴったりだと思ってしまった。
今日はエリーとわたしの成人の儀。
身に纏ったドレスは王女としての正装ではなくて、聖女としての正装だった。
聖女の正装はシンプルなデザインで、レースやフリル、リボンなどの装飾はないけど、布地を贅沢に使いドレープがたっぷりあって流れるようなデザインのドレス。そしてなぜか袖口が振袖のように床に付きそうな程長い。装飾は金糸の刺繍で縁取られている程度。
そしてドレスの色はわたし達の瞳の色と同じ、エメラルド色だ。
本来は、聖女の正装にエメラルド色は無かった。エリーが勝手に作ってしまった。
聖女のドレスの色は所属する『組』により色が決められている。
『組』とは、上聖女の能力により、組織分けされているものだ。
治癒の能力の『治癒組』は赤
祝福の能力の『祝福組』は黄金色(実った小麦の穂の色)
導きの能力の『聖歌組』は青
そして聖女じゃないけど、聖女を守るため女性だけで編成された部隊『守備組』は紫
運営管理をする組織『統括組』は白
と色分けされている。
それぞれの組にも神官が所属しているのだけれど、神官服の色は組の色に従った色をしている。
大聖女様に関しては、紫以外のどの色をお召しになってもいいらしい。でも大概は白だと聞いた事がある。
ひと目でどこの組なのか分かるのは便利でいいなと思った。
わたし達は神殿での聖女登録も無しに聖女活動をしていた上に、規定に無いエメラルド色の聖女の正装で、中央神殿へ登場したので物凄く目立った。
エリーはどこか満足気な顔をしているけど、神殿側と王族側との対立が深まるんじゃないかとハラハラする。
今のところ神殿側と王族側で目立った対立は無いけど、神殿側はわたし達の聖女登録も無く、献金も受け取らずに活動をしていることが気にくわないようだった。
反対に王族側は、高い献金を払える者にしか聖女の能力を施さないことに疑問を抱いている状況だった。
でも表向きは対立している訳では無いので、エリーが勝手に作ってしまったエメラルド色のドレスに対して「ケンカ売ってない?」と心配する訳で。
でももう取り返しのつかないところまで来ているので、わたしは腹を括って成人の儀に臨んだ。
参列して下さったのは、ライオネル王太子殿下とセドリック王子、そしてそれぞれの御身代、それとその他の王族の方々。
国王陛下と王妃は参列しない。と言うより国王陛下と王妃が足を運ぶ神殿は、基本的に隣国のアデル聖国にある、唯一大聖女様がいらっしゃるアディーレ大神殿だけみたい。
中央神殿の中では、祭壇の前までわたし達を誘うように、左右に分かれて大勢の聖女や神官が立ち並ぶ。
静々と祭壇へ向かうわたし達に、聖歌組によるハミングが聞こえる。いくつもの音が重なって、一音ずつ移り変わるそのハミングは、美しく荘厳な感じがして気が引き締まった。
大扉に近い方から、白い正装の神官と聖女達が立ち並ぶ。
白は神殿の管理運営を行う『統括組』。必然的に年齢の高い高位神官が多かった。ちらほらと高位貴族の令嬢も白のドレスを纏っている。彼女等は聖力はないけど聖女として箔をつけたいとかそういう人達らしい。
次は赤いドレスの『治癒組』。成人の儀には関係のない組だが、王族の儀式に参加しないという訳にはいかないらしい。最近は質の良いポーションが出回ったせいで治癒の依頼が減ったとか。それにより献金が減り、聖力のない聖女は『治癒組』に入りたがらなくなったと聞いた。そのせいか人数が少ない。
その次は青いドレスの『聖歌組』。聖歌組は、冠婚葬祭の儀式がある度に依頼があるので一番安定して献金が貰えるらしい。聖力のない聖女でも頭数としての需要があるため、一番なり手が多い。しかし歌の訓練があるそうで、お茶会の出席が減ってしまうのが難点だとか。わたしはお茶会という物には参加した事ないからよく分からないけどね。
祭壇の一番近くにいるのが王族の参列者なので、その次に祭壇に近い場所に立ち並ぶのは、黄金色(実った小麦の穂の色)のドレスの『祝福組』。聖女達は手のひらに、握り込めるくらいの大きさをした水晶玉を乗せている。既に黄金色に光らせている聖女もいれば、全く光らない聖女もいる。光らない聖女は、聖力が無くても形だけでも水晶玉を手にしているんだと思う。
祭壇前まで歩みを進めると、聖歌組のハミングが静かに止む。祭壇前では神殿長のローランド・エクアドルド様がわたし達を迎えてくれた。
「本日を以て、ナディール王国の王女、エリザベート・ナディール殿下は成人となられました。
課せられた使命を責任を以て、正しい道を歩まれる事を女神は望んでおいでです。
さぁ、女神に誓いを。」
わたし達は祭壇の女神像に向かい、跪き、手を組む。そっと目を閉じて誓いの言葉を述べた。
「「我らが唯一神で在らせられる女神
セディア神よ
我は御前で忠誠を誓う者なり
女神の慈しみと愛で
我が歩む道を明るく照らし賜え
たとえ進む道が険しくとも
恐れないで皆のために
愛と希望を友として
自らの使命を果たす事を誓い奉る」」
エリーと声を合わせて誓いの言葉を述べると、ゆっくりと目を開ける。
すると、聖歌組が『導きの歌』を歌い出した。
「♪
慈しみ深き我が女神よ
彼の者の進む道を導き賜え
慈しみ深き我が女神よ
彼の者の進む道を見守り賜え ♪」
その『導きの歌』に合わせて、祝福組が手のひらの水晶玉を黄金色に輝かせると、わたし達に光のシャワーを浴びせた。
その光のシャワーは暖かく感じ、心の奥から幸せな気持ちが溢れてくる。聖女って凄いんだな、と心から思う。
「王女殿下に女神からの祝福が与えられました。これからの進む道に幸多からんことを。」
「「はい。女神に感謝致し、日々精進致します。」」
これでわたし達の成人の儀は終了した。わたし達は立ち上がり、礼を執ると振り返り来た道を歩く。
これから本格的に聖女活動が始まる。
城から飛び出し多くの地でエリーが治癒していくのをわたしが補佐をするんだ。
どんな地でどんなことが待ち受けているだろうか。
わたしは期待と不安で胸を膨らませ、エリーの後ろを歩いた。
神殿の大扉を出ると、外の明るさに目を細める。空は穏やかに晴れ渡り、白い鳥が飛んで行くのが見えた。通り抜けていく春の風は暖かく、そっとわたし達の頬を撫でて行った。




