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あたしも聖女をしております  作者: 斉藤加奈子
第一章

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31.リカルドの奔走

 リカルドはマリエッタと商会の展望についてと利益の分配について話し合った翌日、自分の師事する騎士団専属医師のノートン・ブルックナーに商会設立の挨拶をした。


 今はまだ医師見習いの立場でありながら、商会設立のために仕事を休む事が増えるため、せめての詫びと、騎士団への売り込みを兼ねての挨拶だった。


 リカルドは、贈答用として梱包した超特製ポーション一本と、昨日マリエッタから受け取った特製ポーション一本を手渡すと、これから設立する商会についての説明をした。


 ノートンは、夏で三十日、冬で三ヶ月もの使用期限がある事や、特製ポーションが通常の一・三倍、超特製ポーションが通常の二倍の効果があると聞き、にわかに信じられないといった様子だった。


 しかし、リカルドに勧められ特製ポーションを試すと、通常のポーションと明らかな違いを感じ、その品質の良さにリカルドが急ぎ商会を起ち上げる事に理解を示した。


しかし今までポーションを納品してきた薬師や商会との付き合いがある。易々と仕入れ先を変えるわけにはいかなかった。品質が一・三倍程度いいだけでは薬師や商会らがもたらす利権やしがらみをひっくり返すことができなかった。


 ノートンは騎士団で使用するポーションの仕入れ先として認めるには返答を先延ばしにしたが、約三週間後──超特製ポーションの調合された日から数えると、三十日目となる日。


 ノートンは華美な箱に入れられた超特製ポーションの封を開けた。


夏も終わりとはいえまだ暑い日が続く中、調合から三十日が経ったポーションの匂いを確かめる。


まるで作りたてのような、嗅ぎ覚えのある疲労回復ポーションの香りが鼻を通り抜けて行く。


「凄いな。まるで作りたてじゃないか・・・。」


そう独り言を言いながら、ノートンは超特製ポーションを一気に飲み干した。







 目の前に十本の特製ポーションを並べたリカルドは、それを二本づつに分けた。

これから優秀な薬師を五名、己の商会へ勧誘するためだった。


 彼らは軍や騎士団、兵士団へポーションを頻繁に卸している薬師達であった。

彼等を商会へ引き込めば、軍や騎士団、それと兵士団の御用達になれる日もぐっと早まると計算しての勧誘だった。

もちろん、薬師としての腕も買っている。


 リカルドに誘われた五名の薬師たちは、ポーションのプロという自負があるせいか、リカルドの言う『夏の使用期限が三十日』という言葉にうっすらと嘲笑を浮かべた。


その場では「試しに三十日後に服用してみてから考えますよ。」とリカルドを適当にあしらい、あまり本気で考えてはいなかった。


「御貴族様のお坊っちゃんが言うからには、ご大層なポーションなんだろ?どんなもんか試してやろうぜ。」


と、影で言い合っていた五人だったが、それぞれに渡された特製ポーションの一本目を飲み干すと、自分では再現出来ないほどの品質の良さに顔は真っ青になっていった。


 調合から三十日経った日に、二本目の特製ポーションを試した五人の薬師達は、一本目を飲んだ時と全く変わりの無い品質に、リカルドの言葉が嘘ではないのだと痛感した。


 このままでは、自分の仕事が無くなると危機感を感じた五人の薬師達は、逆に雇ってくださいとリカルドに頭を下げに行ったのであった。







 超特製ポーションを服用したノートンから騎士団のポーションの仕入れ先としてリカルドの商会を認定して貰い、優秀な薬師も確保する事ができたリカルドは、領地から商会の運営のために必要な人材を呼び寄せた。


 彼等には、商会の資金の管理、工場建設の立ち会い、専属のポーション瓶の工房探し、怪我で戦場へ出られなくなった騎士や兵士を勧誘して薬草の収集班の編成など、多岐に渡る業務を任せ、順調に開業へ向けての準備が進められていった。


 夏が過ぎ、秋のうちに商会の体制を整え、冬の間に販路を広げていったリカルド商会のポーションは、瞬く間に軍の関係者の評判となり、軍、騎士団、兵士団の御用達の商会となるまでに至った。


 リカルド商会のポーションのおかげでナディール王国軍は、充分な在庫の確保ができ、遠慮なくポーションを使用する事によって、飛躍的に行軍が楽になっていった。


そして戦での負傷者が減り、騎士や兵士の士気も高まり、圧倒的大勝を収める事ができるようになった時は、リカルド商会のポーションのおかげで負け知らずだとの評判が国中に広まっていった。


 その頃には、リカルドはマリエッタとの約束を守り、全国の薬師に向けて、無料で『ポーションの使用期限が長くなるための講習会』を開いた。


 多くの人が、リカルドに対し「お人好し過ぎる」とか「経営者失格だ」などと揶揄したが、実際は思わぬ方向へ好転していった。


 『ポーションの使用期限が長くなるための講習会』に参加した全国の薬師たちは、商会の特製ポーションを品揃えとして是非とも仕入れたいと言い出し、瞬く間に全国へと販路を広げていった。


 全国の薬師が調合したポーションの使用期限が長くなると、ポーションの購買層も増え、それにより供給量か増えて価格が下がり、平民でも買いやすくなっていった。


 平民でも買いやすくなってくると、元気で健康な国民が増え、経済活動が活発になり、最終的に国が潤うといったリカルドさえも予想していない結果となっていった。


 リカルドが商会を設立して三年後には、リカルドはその功績を称えられ、国から男爵の爵位を賜る事になるのであった。


 ちなみに超特製ポーションの調合は、妖精を見ることができるのがマリエッタしかいないため、リカルドが薬草の束をマリエッタの元へ運び込み、その中で妖精がくっついている薬草のみ選別する事で対応した。


 その都度リカルドから近況報告を受けていたマリエッタだったが、その反応が「順調で良かったですね。」とニコニコするだけで余り気に留める様子も無かった。


 少しだけ気になったリカルドは、マリエッタの給金専用の個人金庫の残高を確認してみた。

それは一度も使われた形跡がなく、とてつもない高額の残高に、思わず口を閉じるのを忘れるほどであった。


商会の名前がまんまリカルド商会ですみません。

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