28.リカルドと商会?
誤字脱字報告ありがとうございます!感謝です!
「リカルド様っ?!」
マリエッタは恥ずかしい独り言を聞かれてしまい、思わず赤面する。鍋二つ分のお湯を沸かしていたため、熱気がこもらないように扉を開けておいたので、リカルドが来ていた事に気が付かなかった。
「この前の、ポーションの使用期限の検証を頼まれていた件、協力してくれた騎士から報告があったから、知らせに来たよ。」
「あ、あ、あありがとうございます。どうぞ、こちらへ。」
マリエッタは、まだ少し気が動転しながらも椅子を勧めた。
「協力してくれた騎士が言うには、四十日目まで問題なく、ポーションを服用することが出来たそうだ。その内、新鮮なままで服用できたのは三十日目までだそうだ。」
「そうですか。安全を考えて夏の使用期限は、三十日と決めた方が良さそうですね・・・。」
「どんな方法で、使用期限を一ヶ月まで延ばしたのか聞いてもいいかい?」
「はい。構いませんよ。先ずは熱湯浄化なんですけど───────────────。」
マリエッタは熱湯浄化から脱気までの手順を、惜しみなく丁寧に教えた。
最初は穏やかに微笑んでいたリカルドも、徐々に真剣な表情へと変わって行く。
「今聞いた話を他の誰かにも話したことはあるかい?」
「いいえ。リカルド様が初めてです。」
リカルドはその言葉を聞いて、このチャンスを逃すまいと、何とかマリエッタを取り込むことを考える。
「マリー姫のその使用期限が劇的に延びる技術は、薬師だけではなく、医師にとっても、そして軍事にとっても常識がひっくり返るほどの技術なんだ。
そんなに簡単に話しては危ないよ。」
「そうですか。わたしはこの方法で作ったポーションが、早く広まったら皆喜ぶと思っていたのですけど・・・。」
「そうか・・・。君は早く広めたいんだね。」
「はい。でも諦めます。わたしがいつか『御身代』を退任して、薬師になった時にでも広めて行きます。」
リカルドはこのタイミングで、マリエッタに畳みかけた。
「それではいつになるか分からないよね。
マリー姫、君にひとつ提案がある。
僕と結婚して、このポーションを広めるための商会を一緒に立ち上げてみないか?」
「へっ?!えっ?!」
「ね?結婚しよう。先に婚約だけして、君が御身代を退任した後に挙式しよう。僕には公爵家という後ろ盾があるから、商会を設立するための資金援助も受けられる。そしてこのポーションも広められる。ね?一石二鳥だよ。結婚しようよ。」
「え?!あの、その、結婚と言われましても・・・。」
マリエッタは思いもよらない提案に、頭の中はパニックになった。
リカルドとしては半分無理だろうとは思っての発言だったが、半分は本気だった。あわよくば婚約までこぎ着けたかったが、無理そうなので切り替えて次の手に出る。
「ああ、そうだよね。いきなり結婚とか言われても困るよね。
だったらどうだろう?僕と君の共同名義で商会を設立するのは?君も商会長となって、利益を分け合おう。」
「え?!商会長?!商会長ってどんなことをする仕事ですか?」
「ああ、そっか。君が資金集めしたり、販路を開拓したりする必要はないよね。
だったらどうだろう?技術顧問兼、薬師として在籍しては?もちろん売り上げの何割かは、君の取り分だ。
君が御身代として自由のない間、僕がそのポーションを広めるよ。どうだい?」
「そ、それだったら、いいのかな?」
「よし!決まりだ。詳しい事は一週間後、この時間にこの場所で君に報告するよ。いいね?」
「は、はい・・・。」
マリエッタが深く考える暇もなく、あれよあれよという間に、リカルドに決められてしまった。「いい」と言ってしまった自分の発言に不安が隠せない。
「そんな不安そうな顔をしなくても大丈夫だよ。マリー姫の悪いようにはしないと約束するよ。
ところで、今日はどんなポーションを調合したんだい?」
リカルドはマリエッタの側にある、リボンで飾られたポーションに目を向けた。
「あ、これ【超特製ポーション】と名付けたものなんですけど、通常の二倍ほどの効果があります。
今回ご協力頂いたお礼に作りました。効果は疲労回復です。どうぞ受け取って下さい。」
「まだ誰も服用した事がないもの?」
「はい!自信作です!」
「今、一本頂いても?」
「はい!是非どうぞ!」
リカルドは箱に入れられた十本の超特製ポーションを受け取ると、その中の一本を取り出した。
まだ熱の冷めていない少しばかり熱い瓶の蓋を開けると、一気にあおった。
「こ、これは・・・。すごいな・・・。」
口に含んだ瞬間から違いを感じた。
味はまろやかで飲みやすく、喉を通る瞬間から心地良いエネルギーの流れのような物を感じた。
胃に入ると、心地良いエネルギーの流れは内臓に染み渡り、内臓から全身へと広がって行った。
先ほどまでの、一日中診察で駆け回っていた疲労はすっかり消え、手や足の指先まで力がみなぎるようだった。
「マリー姫、やっぱり僕と結婚しようよ。」
「へっ?!」
「あ、いや半分冗談だよ。
これは、貴族の贈答用にも使えるね。
マリー姫、この超特製ポーションの調合方法を教えて欲しいところだけど、今はまだ聞くのはよしておくよ。商会設立が具体的になって、マリー姫をきちんと技術顧問として迎え入れる体制が整ったら、教えてくれるかい?」
「は、はい。分かりました。」
マリエッタは、半分冗談なら残りの半分は何なんだろう?と考えながらも了承した。
「超特製ポーション、ありがとう。資金集めのための手土産として利用させて貰うよ。
今日はこれで帰るけど、ポーションの調合方法について、誰にも話さないでいてくれるかい?」
「は、はい。誰にも話しません。」
「約束だよ。」
そうリカルドは笑顔で念を押すと、席を立ちポーション工房を後にした。




