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あたしも聖女をしております  作者: 斉藤加奈子
第一章

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26.リカルドの手助け

誤字脱字報告ありがとうございます!感謝です!

 マリエッタはポーションの使用期限を伸ばそうと思い立ち、ポーション瓶や蓋、その他の道具までも熱湯浄化(煮沸消毒)し、熱いままのポーション液を瓶に注ぎ、脱気をして蓋を締めた。


 後は、この夏の時期に一ヶ月間、品質が保たれるかどうかの立証をすれば完成だった。


 気が付けば、鍋二つ分湯を沸騰させていたため、部屋中が熱気で充満していた。慌てて窓を開けようとしたときだった。誰かが扉を叩く音が聞こえた。


「はい。どうぞ。」


マリエッタが入室を許可すると、入って来たのは思いがけない人物だった。


「リカルド様?!」


「やあ。ポーションの在庫を確認しに来たら灯りが点いていたからね。誰かいるのかと思ったら、マリー姫だったんだね。」


リカルドは暑苦しい熱気を感じたのであろう。扉を大きく開け放したので、マリエッタも慌てて窓を開ける。


「あ、はい。ポーションの研究をしていたんです。」


「へぇ。どんな研究なのか聞かせてよ。」


リカルドはマリエッタが片づけ作業をしている側まで椅子を寄せてくると、腰を掛けながら尋ねた。


「はい。ポーションの使用期限を伸ばそうと考えてまして。ちょっと熱湯浄化に工夫を加えたんです。」


マリエッタは道具にまで熱湯浄化が必要なことや、熱湯浄化後の時間を置かずに瓶詰めすることなど、それらの理由を詳しく説明したとしても納得してもらえるのか分からなかったため、『熱湯浄化に工夫』という簡単な説明に留めた。


「そこにあるのが工夫を加えた後のポーションかい?」


リカルドが出来たばかりの四十本のポーションに目線を移す。


「はい。一日一本づつ服用して、何日まで大丈夫か検証するんです。」


「それ、一ヶ月分以上あるよね。」


リカルドは、ポーションの使用期限を伸ばすと言っても夏場でせいぜい二、三日だと思っていたため、マリエッタの挑もうとしている行為に驚く。


「はい。使用期限が一月あればいいな。と思ってます。」


「へ、へぇ。挑戦的だね。」


ふと、劣化したポーションをマリエッタが口にしてしまう不安がよぎった。

劣化の具合によっては食中毒を起こす。


「知り合いの騎士に協力を頼んであげるよ。

騎士はポーションの劣化に敏感だからね。間違って服用してしまう事がないんだ。

マリー姫だと劣化したポーションを口にしそうで心配だよ。」


「ほっ、ほんとですか?!助かります!!

これ、疲労回復ポーションなんですけど、わたしポーションが必要なほど毎日疲れないんです!!」


 マリエッタは目を輝かせ喜んだ。十四歳の女の子が、毎日疲労回復ポーションを服用するということは、前世で言うところの毎日滋養強壮ドリンクを飲み続けるのと同じことだった。


 リカルドは、箱に入れられた四十本のポーションを受け取ると、


「君は本当に面白いね。普通の令嬢はこんなことに目を輝かせてまで喜ばないよ。

じゃ、知り合いの騎士に依頼して、何日まで服用出来るか報告が来たら、マリー姫に連絡するよ。じゃあ僕はこれで、お休み。」


そう言って、リカルドはポーション工房を後にした。







 翌朝、四十本ものポーションを抱えたリカルドは、知り合いの騎士を見つけると、早速協力の依頼をする。


「アルベルトさん!」


「おお、これはリカルド殿。どうなさいましたか。」


アルベルトは古くからの知り合いで、気さくな性格の王国騎士団の一人だった。


「少し協力していただきたい事がありまして。」


「リカルド殿の頼みなら、協力は惜しみませんよ。どのような事ですか?」


リカルドは四十本のポーションが収められた箱を差し出す。


「これは、知り合いの薬師が調合した疲労回復ポーションです。瓶の熱湯浄化に工夫を加えたものなのですが、それにより使用期限がどのくらい延びるのか検証をお願いしたいのです。」


「そのくらいはお安い御用ですよ。」


アルベルトは受け取った箱を左腕に抱えると右手で一本取り出しそれをまじまじと眺めた。

その様子はさして期待していないが、何日間分かの疲労回復ポーションがただで手に入ったという表情だった。


「ありがとうございます。一日一本服用して、何日目まで安全に服用出来るかお知らせ下さい。少しでも味や匂いに問題があったら、直ちに服用はお止め下さい。」


「了解しました。一日一本ですね。劣化したと思ったら、必ず報告しますよ。」


「ええ、よろしく。」


リカルドは気軽なやり取りでポーションを受け渡す。

その後、七日間ほど報告が来るのを気にかけていたが、それを過ぎると、アルベルトに依頼した事自体忘れて、医師見習いとしての日々に忙殺されていった。







 夏ももうすぐ終わりを迎えるころ。

落馬した見習い騎士の手当てを終え、医務室へ戻る途中のリカルドへ声をかける一人の騎士がいた。


「────リカルド殿。少しよろしいですか?」


「アルベルトさん、どうしましたか?」


少し神妙な面持ちで声をかけてくるアルベルトを不思議に思うリカルド。


「どうしましたかって・・・その様子ですと、私に協力を依頼した事をお忘れですね。」


アルベルトが少し呆れた表情でリカルドを見る。その表情を見て、リカルドはポーションの使用期限の検証を依頼していた事を思い出した。


「あ、ああ。すみません。でも、あれから一月以上経ってますよ。」


苦笑いをしながら、一月以上経っている事を指摘した。


「そうです。今日が四十日目で、最後の一本を今、服用したばかりです。

一体、どこの優秀な薬師が調合したポーションですか?」


リカルドの表情が、徐々に強張る。一ヶ月以上もの使用期限があるとは、にわかに信じられなかった。


「本当に四十日目も、大丈夫だったんですか?」


「ええ。三十日目まで新鮮なままで驚きました。さすがに三十日を超えると、多少新鮮さはなくなってましたが、ご覧の通り健康にも、効能にも問題ありません。」


「そ、そうですか・・・。ご協力感謝します。」


信じられないといった表情のままリカルドは医務室へ戻る。

リカルドは残務作業をしながら先ほどアルベルトから聞かされたことを考えていた。


夏場でひと月を超える使用期限なら、冬場ならその三倍、三ヶ月は持つ。

かつてないほど長い使用期限だ。

それは医療においても在庫を無駄にせずに済むし、かつ多めの在庫を抱えることも可能だ。

薬師も大量生産をして在庫を持つことが可能であり効率もいいし、急な納品に応えることができる。

そして何より、軍事遠征で役に立つ。

これは医療や軍事だけでなく、遠方で素材収集をする冒険者や商品を遠くまで運ぶ商人にも喜ばれる。

各所で変革が起きるのは間違いなく、何よりその恩恵が大きいのは軍事だ。

戦が変わる。あのポーションがあれば圧倒的有利に戦を進めることができる。


 リカルドはマリエッタへ報告するべく、彼女がポーション工房へ行くであろう夜を待つことにした。


─────ある決意を胸に秘めて。


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