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あたしも聖女をしております  作者: 斉藤加奈子
第三章

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229/231

229.アクアマリン・ここにしようかと思う

誤字脱字報告ありがとうございます!感謝です!

 エリックと陛下の話し合いはどうなったのかしら。

まだ話し合い中?

あら、エリックはもみの木の丘にいるみたいね!


 大聖女のお務めを残業なしの定時で上がり、転移で屋敷へ帰ると急いで着替える。

お気に入りの水色のワンピースに着替え、風の冷える時刻なのでケープを羽織った。

支度が整うとそのまま自室からエリックの下へと転移した。


 もみの木に背を預け佇むエリックは、オレンジ色に染まる町の景色を眺めていた。

近くでは馬のバロンと鹿のマロンが座り込んで休んでいる。小猿のルゥはバロンの尻尾で戯れていた。


「マリー、やっぱり来てくれたね。」


「わたしを待ってたの?」


「そう。水色のワンピース、似合うね。」


「そ、そうかな。」


エリックが柔らかく目を細めると手を差し出した。

わたしは自然にその手を取る。

すると軽く引っ張られて、気付けばお腹に腕が回されエリックに後ろから抱きしめられる格好になっていた。


沈みゆく夕日を二人で眺める。

オレンジ色の町並みが徐々に深みを増してゆく。

こんな風に過ごすのも何年ぶりだろうか。

思えばテオをバークレイ侯爵家へ返した日を最後に、ここへ来るときはいつもひとりだった。


考えごとをしたいとき、気分が憂鬱なとき、エリックが恋しいとき、そんなときはひとりでここへ来ることもあったけど、貴方がいないのがいつも寂しかった。


エリックにくんくんと首筋辺りの匂いを嗅がれた。


「あー、久しぶりのマリーの匂いだ。」


「ちょ、くすぐったいわ。や、やめて。」


「もう少しだけ。」


「もう、怒るわよ。」


「マリーに怒られたい。」


「なに言ってんのよ。」


一応髪には薄らとお気に入りの香油をすり込んだりして匂いには気を遣ってはいるけど、一日働いた後だから汗の匂いとか気になってしまう。


わたしがペしぺしとお腹に回されたエリックの腕を叩く。するとその腕はあっさりと解かれた。


そんなあっさりと解放されるとそれはそれで寂しいじゃない。とか思っているとエリックの腕がわたしの目の前まで戻ってきた。その手の上には綺麗な小箱を載せて。

その小箱は白地に金の装飾が施されていて、装飾品とかそのような品が収められているといった外装だった。


「これ、わたしに?」


「うん、開けてみて。」


わたしはその小箱を受け取り、そうっと蓋を開く。

箱の中には白いビロードの上に載せられた大小さまざまな薄いブルーの宝石が収められていた。

大きさは親指の先ほど大きな物から、赤ちゃんの小さな小指の爪ほどの小さな物まで。

エリックの瞳と同じ、湖の湖面をそのまま宝石にしたような澄んだ薄いブルーのアクアマリンだった。

どうやって固定しているのか、転がらないように綺麗なカット面を上に向けて、大粒のアクアマリンを中心に円を描くように並んでいた。


「わ、綺麗。」


エリックの瞳の輝きをそのまま具現化したかのような石達。

この宝石を身につけてエリックの隣に並んだわたしを想像してみたらわたしはこの人のものですって言ってるみたいで少し恥ずかしくなった。


「うれしい・・・。ありがとうエリック。大切にするわ。

でもこれ、何で石だけ?」


そう、わたしが疑問に思ったのはなぜ装飾品へ加工した物じゃなくて石だけなんだろうってこと。

普通、女性へ贈り物をするときにはネックレスとか指輪とかに加工した物じゃない?


「情けない話、俺、女性に装飾品贈った事ないし、マリーがどんな物が好きなのか分からなかったんだ。

で、スーザン妃に会ったときに相談に乗ってもらったら、マリーは真珠をたくさん持っているだろうから、それと組み合わせることもできるので、完成品を贈るより宝石を贈ってみたらいいんじゃないかって。」


「・・・さすがスーザン。」


わたしでもそこまで考えつかなかった。

わたしが持ってる大粒の真珠とエリックの色のアクアマリン。

それを組み合わせて使うなんてすっごく素敵。

あんなデザインしてみようかな、とかこう組み合わせてみようかなとかいくつものアイデアが頭に浮かぶ。


「わたしの真珠と組み合わせて素敵な物が作れそうよ。

ありがとう、エリック。」


わたしはエリックの腕の中でくるりと向きを変えてエリックに抱きついた。

ちょっと大胆かなとか思うけど、これくらいいいよね。


「よかった。マリー、俺等幸せになろうな。」


「ええ、幸せに───。」


なりましょう、と言い終える前に唇を塞がれた。







 夕食後、話があるとエリックからテラスへ来るよう誘われた。

それは何となく、結婚後についての話だと思った。


 サロンから続くテラスへ向かうとすでにエリックは待っていた。

昼間には気付かない秋の気配が深まる夜のテラスで、エリックは下弦の月の微かな月光を浴びながら佇んでいた。


「エリックお待たせ。」


「ああ、マリー、少し涼しいからこれ着て。」


「ありがとう。」


エリックは着ていたガウンをわたしの肩にかけてくれた。気持ちのいい涼しさで全然寒くはなかったけど、その優しさに甘えることにした。


「マリー、俺が貰う予定の領地のことなんだけど・・・。」


エリックが一枚の書類を差し出した。

やはり結婚後についての話だった。

わたしとしては特に希望はなくて、敢えて言うなら美味しいものが特産としてあるところがいいな、っていう程度。

わたしは期待を胸にその書類を受け取った。

月の微かな明かりでは見えづらいのでサロンから漏れる光で書類の文字を追う。

その書類は、エリックがもらう領地の候補リストだった。


「俺、この領地にしようかと思う。」


エリックが指差したところには、『ネストブルク』と書かれていた。


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