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あたしも聖女をしております  作者: 斉藤加奈子
第三章

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215/231

215.仲立ち

誤字脱字報告ありがとうございます!感謝です!

 エリックに頼まれた書簡を渡すため、わたし達は王城へ転移するとすぐさま国王陛下へ面会を願い出た。


すぐに陛下は面会に応じてくれることになり、応接室へ通されるとしばらくして国王陛下がお見えになった。


「急な面会に対応していただきありがとうございます。」


「私とマリエッタ殿の仲ではありませんか。遠慮は要りませんよ。」


と気さくに応じてくれる陛下。

そしてわたしはここでしか飲めない最高級の茶葉を使用した紅茶を堪能しながら話を切り出した。


「陛下、最近ナディル帝国で政変が起こったのはご存じですよね。」


「確か新帝王へ即位したのがエリックとかいう名の青年・・・まさか・・・。」


陛下はナディル帝国で起こった政変の末、新たに即位した帝王のエリックが、わたしの恋人である旅芸人のエリックと同一人物であることに気付き、大きく目を見開いた。


「そのまさかです。

わたしも彼に正体を打ち明けられたのが、彼がこの国を出立する直前でした。」


「『幻の王子』は生きてこの国に潜伏しておりましたか。そして密かに地位奪還の機を狙っていたと。

して、その新帝王が如何なさいましたか。」


陛下はわたしが新帝王のエリックについて話したいことがあると察したのか、話の続きを促す。

わたしは袖口にしまっておいたエリックから受け取った書簡を取り出すと、対面に座る陛下へ差し出した。


「エリック帝王からの書簡です。」


陛下は大きく眉を上に引き上げると、ほんの僅かに戸惑いを見せそれを受け取った。


「帝国からの歴史上初めての国交文書ですな。」


と歴史上ずっと敵対関係にあり、戦ばかりしてきた帝国との関係を皮肉交じりで陛下は手紙の封を開いた。


「ふむ、食糧支援ですか。」


「ええ、ナディル帝国は今、大変な食糧危機に陥っているようです。民はこの冬を無事越すことができるのか・・・そのくらい深刻なようです。」


「ふむ、後でゆっくり目を通しておきましょう。」


「ええ、お返事はわたしが預かりますわ。」


「何とも贅沢な伝達係ですな。

ところでマリエッタ殿、エリック帝王についてどのような人物なのかお聞かせくれませんか。」


わたしはエリックがこの国で旅芸人をすることになった経緯、旅芸人として様々な土地を巡り見聞を広め、そして何を思い蜂起したのか。

それらのことをかいつまんで説明した。


陛下はほう、とかふむ、とか相槌を打って聞いていたけど、何を思っているのかは表情からは読み取れなかった。







 陛下は翌日には返事を書いてくれて、わたしは腕輪の転移水晶を使ってすぐさまそれをエリックへ転送した。


そして三日後には会談が実現することになり、わたしはエリックの送迎を喜んで引き受けることになった。


 三日後の朝、ナディル帝国城のエリックのもとへと転移すると、そこは家具や調度品など何一つ置かれていない、モザイクタイルで装飾された床とシャンデリアしかないがらんとした部屋の中だった。


そして跪いてわたしを迎えるエリックとナディル帝国の貴族の面々がズラリと勢揃いしていた。

ちょっと警戒して身を固くしてしまったけど、大聖女に対して不遜な態度をとる人は一人もいなかったから、それだけで今の帝国はずいぶんマトモになったと思ってしまった。


エリックと、エリックの叔父であるローエンハイム宰相、そして側近のペトロナスとだけ挨拶を交わすと、その三人だけを連れていくことになった。

そこには護衛もつけず、三人とも帯剣さえしていなかった。


そしてナディール王国の王城へと転移すると、そこで待ち構えていた案内役に彼らを託した。


エリックには、「マリーも同席する?」とか言われたけど、ちょっと政治的なことはご遠慮したいのでお断りした。

ここまで関わっておいて今更な気もするけど。


 そしてわたし達は大神殿へ戻り通常業務をこなす。

会談の本格的な話し合いは午後からだから、今頃陛下に謁見しているところだろう。


エリックがナディール国王へ食糧支援をお願いするために設けられた会談だけど、エリックは支援の見返りに何を差し出すつもりなんだろうか。


帝国は、先の大戦ネストブルクの戦いで敗北している。


敗戦国には勝戦国に対して損害賠償や慰謝料などを支払う義務があるけど、ナディル帝国が領地なりお金なり賠償を払ったという話は聞かない。


それは賠償は払っていないのに支援はして欲しいという何ともずうずうしいお願いになる。

エリックが悪い訳ではないけど、責任はその肩書きに乗っかってくる訳で、難しい交渉になるだろう。


エリックはどうするつもりなのか、エリックはどうなってしまうのか。

気になるけど、わたしはいつも通りの大聖女のお務めをこなしながら、会談が終わるのを待った。


 一日が過ぎ、二日目が過ぎ。

わたしのもとへ何も連絡は来ない。

そして会談三日目の朝になり、とある動きがあった。

陛下よりスーザンを借りたいとの要請が入った。


スーザンと言えばナディル帝国の元公爵令嬢であり、ナディル帝国の当時王太子だったアレクサンダーの元婚約者だった。


つまりエリックよりも帝国の王族や貴族の情勢について詳しく、その助言が欲しいということだ。

少々情報が古くとも。

なぜ食糧支援の会談でスーザンの助言が必要なのだろうか。戦の損害賠償の件を絡めたとしても不要だろうに。


そしてこの要請はスーザンにとって少々酷なように思える。

己を切り捨てたが、民が困窮している祖国と、民は困窮していないが拾われて第二妃として嫁ぐ予定の国。

どちらの立場として発言するべきかスーザンを苦しめたりしないだろうか。


「スーザン、こんな要請が来てるけとどうする?

断ってもいいのよ。」


わたしは陛下からのスーザン要請の手紙を見せた。

それを目にしたスーザンはしばらく考え込んだ後、口を開いた。


「私が不用意な発言をすることによってシューツェント伯爵家にご迷惑をおかけしないか心配です。」


と自分のことよりシューツェント伯爵家のことを心配した。

スーザンが心配するとおり、片方の政府が有利になるような発言をすれば、もう片方の政府から不興を買う可能性だってある。最悪の場合スーザンの発言の内容によってはシューツェント伯爵家へ責任追及が向かうこともあり得るだろう。


でもその心配はスーザンが発言した後のこと。つまりスーザンはこの要請に応えたい気持ちがあると思った。


「家は大丈夫よ。何せ大聖女の家よ?

スーザンは思う通りのことを話してきて。何があってもわたしが大聖女の威光で吹き飛ばしてやるわ。」


「ありがとうございます。

過去の厳しい妃教育が無駄ではなく、ここでお役に立てられるのならこの要請にお応えしたいと思っておりました。」


スーザンが、口の端を微かに緩めた。


「そう、応援してるわ。」


中央神殿での朝のミーティング中のことだったので、スーザンは直ぐに馬車に乗り込み王城へと向かった。

そしてわたしはグローリアだけを連れて、大聖女業をこなすべくアディーレ大神殿へと転移した。


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