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あたしも聖女をしております  作者: 斉藤加奈子
第三章

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208/231

208.マリーへ会いに

誤字脱字報告ありがとうございます!感謝です!

 八つある帝国城の城門に兵を配備する。城攻めのためというより帝国軍が出陣して挟み撃ちされないための布陣。

同時に食糧や物資が城内に運び込まれないように封鎖する目的もある。


当然城外からの帝国軍の援軍が来ることを警戒して斥候を出しているが、それらしき軍が来ているという報告はない。どうやらアレクサンダーを助けようという味方はいないようだった。


 そして城壁の北西には、使用人が使う人が一人通れるだけの扉がある。

そこだけは兵の配備は少なくして、王城内にいる者達が逃げられるようにする。

武器さえ捨てるならば、兵士が逃げるのも黙認する。

ただアレクサンダーやミランダ、ガジック伯爵家の者が隠れて逃げ出さないよう見張りを立てるに留めておいた。


報告では徐々に城から逃げる者達が増えているようだった。数日はこのまま城内にいる者を逃がすことにする。


ふと視界の端でチカチカと水晶が瞬いた。マリーからの連絡だ。


王都を発ってからは、マリーと一度も話していない。

俺を気遣って控えてくれているのは分かっていた。たまに短い、メッセージカードのような手紙が届けられた。その中にはテオからの手紙もあったりしてそれが励みになっていた。


水晶がチカチカと光るのは通話のサインだ。昼間のこんな時間に珍しかった。

いつもだったら人目を避け、一人になれる場所へ移動するところだが、戦時中の今はそれさえ難しかった。


『こちらマリー、こちらマリー、エリック少しだけ話せる?』


「マリー?どうした?」


近くにいるのがペトロナスとロナウドだけだったので、マリーの呼びかけに腕輪に向かって答えた。


『エリック・・・元気にしていた?』


「俺は元気だよ。

ごめんな、連絡できなくて。」


『ううん、大変なところごめんなさい。

そろそろ守りの祝福の有効期限が迫ってきてるわ。祝福のかけ直しをしてあげるから、シェーネス東神殿まで出て来れる?』


「ああ、行くよ。

今日でも明日でも。今すぐにでも。」


包囲した帝国城で働く者達が、逃げるための待ちの状態なので今だったら時間の融通が利く。

今すぐにでも会いに行きたい気持ちだった。


『わたしも・・・今すぐ会いたい。

貴方の無事をこの目で確かめて安心したいもの。』


「大げさだな。

俺はマリーのお陰で傷一つないよ。

今すぐ東神殿に向かう。」


『分かったわ。待ってる。

神殿長には話を通しておくわ。』


「助かるよ。じゃ、後で。」


『ええ。』


マリーとの通話を終え、顔を上げる。

近くにはペトロナスとロナウドしかいなかったはずだったが、気が付けば叔父のヨハンやその部下、その他の幹部にも囲まれていた。


思わず俺はたじろいだ。

俺を囲むその面々は、尊敬、崇拝、称賛、憧れ、それらのどの言葉を当てはめればよいのか、若しくは全ての言葉が当てはまるのか、瞳をうるうると潤ませて俺を見つめていた。


「い、今の声は大聖女様ですか。」


「爺は、分かっておりましたぞ。

あの眼鏡の娘は只者ではないのを。」


「大聖女と恋仲というのは誠だったのですね!」


「殿下、わたしがお伴いたします!急ぎましょう!」


「お、おう・・・。」


潤んだ瞳のおっさん共に囲まれる趣味はない。「なるべく早く帰る。」と言い残しペトロナスだけを連れて東神殿へと向かった。







 シェーネス東神殿へ来たのは初めてだったが、神殿とはどこも造りが同じらしく、俺は迷うことなく神殿の西側の門から入る。


南側の正門が女神へ祈りを捧げる礼拝堂へ続く門ならば、西側の門は大聖女との謁見や上聖女に治癒や祝福、聖歌を依頼するときに使う門だ。


俺は西門をくぐり、建物の入口へと向かった。


白神官に案内され、通されたのは転移室という中央に赤児の頭ほどある水晶が乗せられた台座と、急遽セッティングされたテーブルと椅子があるだけの、がらんとした部屋だった。


そこにはマリーはまだ来ておらず、一際豪奢な神官服を身に纏った神殿長と、白、赤、青、黄、桃色の神官服を身に纏った神官長らが待ち構えていた。


「私がシェーネス東神殿、神殿長、オーギュスト・シスコフィエと申します。

そして後ろに控えるのが東神殿の各組の神官長一同でございます。

エリック殿下の二十一年振りのご帰還、慶び申し上げます。」


神殿長のオーギュストから丁寧な挨拶を受ける。俺のことはすでに神殿内にも知れ渡っているようで、その態度は王族を迎えるに相応しいものに見えた。


「私が先の帝王の第二王子、エリック・ナディルだ。シェーネス東神殿には今後世話になることも多いと思う。宜しく頼む。」


俺も王族らしく、鷹揚な態度で挨拶を返す。


「我々シェーネス東神殿一同は、エリック殿下を支持し、今後末永くお付き合いしていきたいと存じ上げます。」


「それはそれは、五大神殿の一つ、シェーネス東神殿の神殿長にそう言っていただけるのなら、これほど心強いことはありません。」


俺は今までの潜伏期間中、革命の協力者探しでは神殿関係者には接触してこなかった。


それが死んだとされる第二王子がいきなり現れて、本物だと言われても信じるのは難しいはずだ。


当然今の協力者達はロナウドやローエンハイム侯爵家の者達が説得に当たってくれたので問題はないが、それをしてこなかった神殿長らがいとも簡単に俺を受け入れている。

少しばかり戸惑ってしまうのを顔には出さないようにして挨拶を交わした。


「間もなく大聖女様がお見えに──。」


と神殿長が言い切る前に、部屋の中央に設置された水晶玉が強く発光した。


素早い動作で跪く神殿長や神官長達。

例え相手が俺の愛しい人であっても、その場に合わせて俺とペトロナスも跪く。


「お久しゅうございます、大聖女様。」


「お久しぶりです、神殿長。今日は突然の訪問に対応していただいて感謝します。」


「とんでもございません。

このシェーネス東神殿も大聖女のもの。いつ何時お越しいただいても構いません。」


光と共に現れたのは、聖女服姿のマリーと、お付きの秘書、そして紫の女騎士が十名ほど。

普段の町娘姿のマリーもいいけど、高貴で清らかな空気を纏う大聖女姿のマリーもいい。


「お約束のエリック殿下はすでにお見えです。」


「そう、ありがとう。」


視界に入る彼女は、跪く俺の五歩手前に佇んでいる。表情までは見えないが、もじもじソワソワと俺とお揃いの指輪をはめた指先が落ち着きなく揺れているのが見えた。

それが可愛くて愛しくて、思わず笑みがこぼれそうになるのをぐっと堪えた。


「エリック殿下、どうかお直りください。」


「はっ。」


ダメだ。つい、嬉しくて笑ってしまう。


「エリックっ!!」


俺の下へ駆け寄るマリー。

大聖女でも、大聖女でなくても、マリーはマリーだった。

マリーは俺の手を取ると、無事を喜んでくれた。


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