207.包囲
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一見、破落戸や盗賊の様相を呈しているが、身のこなしや所持している武器からはそれなりに鍛練を積んだ手練れであるのは明らかだった。
山の木々が視界を遮り、十人以上に取り囲まれているが、正確な数は掴めない。
背負っていた荷を投げるように下ろし、剣を鞘から抜いた。
ペトロナスと背中を合わせで臨戦態勢をとった。
目の前の剣を構えた男の後方から、ヒュンと空を切る音がした。飛んできた矢を薙ぎ払う。が、その前に何かに弾かれたように矢が落ちた。
「「「は?!」」」
「な、なんだ?!」
「弾かれた?!」
「怯むな!」
「やれっ!とにかく殺れ!」
何本もの矢が放たれたが、俺に届く前に弾かれる。それと同時に五人の男が剣で襲いかかってきたが、それも弾かれた。
これが守りの祝福の力か。
普通ならあり得ない現象に口を閉じるのを忘れてしまう。
世界各国の王と王妃はこの祝福を授かっていると聞く。なるほど、これなら暗殺も謀反も恐くない。
「凄いですね、守りの祝福。
ナディル帝王に代々受け継がれる宝剣に引けを取らないじゃないですか。」
背中合わせで剣を構えるペトロナスが言った。
「・・・そうかもな。」
この国の帝王だけが持つことを許された先祖代々から継承されてきた宝剣。
あらゆる厄災から身を護る加護があり、
その宝剣を持つ者は何人にも傷つけられることなく、あらゆる危険も遠ざけるという代物。
俺は次の帝王としてその宝剣を手に入れなければならなかった。
攻撃が全て弾かれると、襲撃者等はじりじりと後退していた。
それを見逃す俺等ではない。
ここで一気に反撃に出た。
二対十数人という圧倒的不利な状況で、相手の攻撃は守りの祝福が全て弾き返し、こちらの攻撃は子供を相手にしているように次々と斬り捨てていく。
それはまさしく『蹂躙』だった。
逃げだそうとする者もいたが、小刀を投擲して倒す。芸団で培った技がここで役に立った。
襲撃者全てを倒すと、ペトロナスがまだ息のある者から誰から命令されてたのか吐かせた。
案の定、アレクサンダーの母親ミランダの生家ガジック伯爵家から送られた刺客だった。
どこまで俺の情報を掴んでいるかは不明だったが、次は大軍で押し寄せてくる可能性もある。俺も急ぎ革命軍の準備をせねば。時は一刻を争う。
「急ぐぞ。」
「はっ、」
俺等は先を急いだ。
近くの村にローエンハイム家の迎えが来ており、用意された馬に乗る。
迎えの護衛を引き連れ、馬を乗り潰しながら二日かけてローエンハイム侯爵領へと辿り着いた。
そして到着したローエンハイム侯爵家ではロナウドや祖父、現当主の叔父ヨハンに出迎えられ、そのままローエンハイム侯爵家が革命軍の本部となった。
主要な協力者も集まり、会議を重ね一週間後、協力者の軍勢と合わせて一万の軍勢となった俺等は帝都へ向けて出陣した。
帝都へ進軍中、何度か帝国側の軍と交戦した。しかしどの敵軍も急拵でかき集めた少数軍勢で勢いがなく、簡単に蹴散らして行った。
俺は先の帝王の第二王子であり、正当な王位継承者としての存在を知らしめるためにも率先して先頭に立って戦った。
もとより今のアレクサンダー政権の求心力は低く、敵の士気が下がっていたことに加え、俺が父親似だったらしく先代を思わせる容姿と、守りの祝福のお陰で宝剣を持っているかのように敵を蹴散らしている様子に、敵は次々と投降していった。
そしてローエンハイム領を出立して一週間後、いよいよ革命軍は王城の正門前に到着した。
帝国城を見上げて思わず息を呑む。
この巨大な要塞を我等は落とすことができるのだろうか。
巨大にして堅牢な造りはさすが大国の王城。王城だけで一つの街がすっぽり入るような大きさだった。
閉じられた城門を見上げると、回廊に三人の男とその三人に追従する護衛の一団が革命軍を見下ろしていた。
「殿下、あそこにいるマスクの男がアレクサンダー、その右にいるのがモーガン・デストワーグナー宰相、そしてその左がジェフリー・ガジック軍事参謀です。」
俺の補佐役のペトロナスが馬を隣に並べ説明する。
マリーを誘拐した元王妃リリーティアの養父が未だ宰相職を務め、軍事参謀に実績のない血縁者を置く。
如何にアレクサンダー政権にまともな人材がいないのかを露呈していた。
俺は単騎で前に出ると、アレクサンダーや他の者にも聞こえるよう、口上を述べる。
「私は先の帝王の第二王子にして王位継承順位一位のエリック・ナディル!
ナディル帝国の正当な王位継承者は私である!
アレクサンダーは即刻その座を明け渡し投降せよ!
さすれば命だけは助けてやろう!」
ここで普通ならアレクサンダーの口上が返されるはずだった。
しかし声の出ないアレクサンダーは俺を睨み付けるだけで踵を返した。
そしてしばらくすると城門が開き背後に軍勢を連れ、単騎で最前に現れた。
俺と対峙するアレクサンダーは俺と同様、鎧も軽装備で、黒い軍馬に股がり、華美な装飾があしらわれた剣を構えていた。
あれが王家伝統の宝剣か。
大聖女の守りの祝福を授かった俺と同様に、あいつも万という軍勢が押し寄せようともはね除ける自信があるのだろう。
俺も鞘から剣を抜き、馬を進める。
アレクサンダーが剣を天へ突き上げたまま馬を駆けた。
それを受けて俺も馬を駆ける。
お互い全速で馬を駆け、擦れ違う瞬間、剣を振り抜いた。
バチンッ!!
物凄い衝撃が全身を襲い、気が付けば馬ごと吹き飛ばされていた。
急ぎ体勢を整えるが、アレクサンダーも同様に馬ごと吹き飛ばされていた。
宝剣の力と守りの祝福が反発しあいお互い弾かれたようだ。
やはりアレクサンダーを仕留めるに至らなかったか。
想定通りではあるが、宝剣を持つアレクサンダーに対抗できたことで味方の革命軍が歓喜に沸いた。
その反対に帝国軍はどよめいている。
俺に少し遅れて体勢を整えたアレクサンダーもひどく動揺しているようで、急ぎ引き返していった。
マリーに守りの祝福をかけてもらってよかった。彼女が俺を守ってくれている。
これほど心強いことはなかった。
アレクサンダーと帝国軍は城門の向こうへ引き返し、再び扉が閉まった。
俺はほっと溜息をつく。
流れはこっちにある。
アレクサンダーと俺の衝突を静観していたであろう貴族等も、大義はこちらにあると味方に付くだろう。
革命軍はまるで勝ったかのような喜びようだった。
しかし勝負はこれからだ。
この革命は最初から城攻めを想定しており破城搥も用意した。
しかし正面から闇雲に城を攻めていては革命軍も疲弊するし、城が破壊されれば真っ当に城勤めしている者達まで負傷してしまう。
俺の目的はアレクサンダーを王位から引きずり下ろし、ミランダとガジック伯爵家を断罪できればよいのだ。城を陥落させたい訳ではない。そのためにはアレクサンダーの勢力をそぎ落とし孤立させたかった。
俺等はアレクサンダー達を籠城させて動きを封鎖し、じりじりと追い詰め兵糧攻めにする作戦に出た。
但し城に勤めるガジック伯爵家以外の者は全て解放し、身の安全を保証する。
そうすることでアレクサンダー達を追い詰め城を占拠するのだ。
この作戦こそ、直接的な攻撃にはめっぽう強いが、動きの封鎖という間接的な攻撃には何も意味を持たないあの宝剣に対抗できる唯一の手段だった。




