表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あたしも聖女をしております  作者: 斉藤加奈子
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

201/231

201.バークレイ侯爵夫妻の苦しみ

誤字脱字報告ありがとうございます!感謝です!

 バークレイ侯爵夫妻は、所用のため領地ではなく王都にある邸にいた。


『行方不明のご子息の件でお話を伺いたい』


その一文だけで翌日にはバークレイ侯爵家の王都の邸でお会いすることになった。

わたし達が邸へ出向くと応接室に通され、向かい合って座った。


「ご無沙汰しております、マリエッタ様。」


「こちらこそご無沙汰してます、バークレイ侯爵。その節はお世話になりました。」


「無事、大聖女になられたことをお慶び申し上げます。」


「お蔭様で、恙なく大聖女を継承することができました。」


およそ三年ぶりにお会いするバークレイ侯爵夫妻。

以前お会いしたのは、わたしが大聖女候補として大神殿入りする前だった。


マークス・バークレイ侯爵は、少し癖のあるブラウンの髪にブラウンの瞳。

改めてお会いするとテオに似ている感じがする。


そしてバークレイ侯爵の隣に座る女性がケイトリン・バークレイ侯爵夫人。

明るいブラウンの髪に薄いブルーの瞳。

優しく物静かな感じの女性。

記憶にある姿よりかなりやつれているように見えた。そして着ているドレスの腹部がゆとりのあるデザインをしていて、妊娠しているのが分かった。


「今日はご夫妻が出された手紙についてお話を伺いたいと思い、こちらへ参りました。

行方が分からなくなったご子息の特徴や当時の服装など教えて下さいますか。」


わたしの中では八割方いなくなった赤ちゃんはテオであると思っているけど、安易なことは言えない。

事情聴取みたいになってしまったけど慎重を期して、期待させるような言動は慎むようにした。


いなくなった日時、髪の色や瞳の色。

当時の服装。

以前エリックから受け取っていたメモの内容とほぼ一致した。


ただエリックがテオを拾ったのがアデル聖国の主要道路から少し外れた田舎道だったはず。バークレイ領の侯爵邸からは馬車で数時間の距離。


全く有り得ないわけではないけど、赤児を連れて関所を通過したことになり、関所の役人の記憶に残るはずだと思った。


「ご子息の姿絵などはありますか?

参考までに見せていただけると助かります。」


「はい。テオドールが一歳になった時、記念に絵師を呼び寄せ描かせた物があります。」


そう言って侍従に一枚の肖像画を持って来させた。

それは椅子に座り優しく微笑みながら赤ちゃんを膝の上で抱いている夫人と、夫人の肩に手を置き、穏やかに微笑む侯爵の立ち姿が描かれていた。

夫妻は今より幾分若い感じで、夫人の膝に座る赤ちゃんは、やはりテオの面影を残していた。


そこには確かに幸せな家族が描かれていて、この後不幸な事件の被害に遭うなど微塵も感じさせなかった。


わたしはテオが愛されていたことに安堵した。自分には親がいないことを寂しがっていたテオに教えてあげたい。

貴方は愛されていたのよと。


「ふっ、うっ、うっ、うぅ・・・テオドール、私のテオドール・・・。」


突然、夫人が背中を丸め両手で顔を覆い隠し嗚咽を漏らした。


「ケイトリン、落ち着きなさい。

大聖女様がいらしてくれたんだ。

まだ希望はある、大丈夫だから。」


侯爵が夫人の背中に優しく手を回して夫人を宥める。

事件から八年経った今でもご子息を愛する気持ちに変わりはないことが分かる。

その悲痛な面持ちに、わたしの胸がぎゅっと苦しくなった。


「さ、お前は少し休みなさい。

大聖女様との話し合いは私がしておくから。」


そう言って夫人を立たせると、部屋の外へと促し侍女へ任せていた。


「お見苦しいところをお見せして申し訳ありません。

ケイトリンは、ご覧の通り妊娠していまして最近はより一層情緒不安定になってしまいました。

産まれてくる子がテオドールと同じようにいなくなってしまわないかと不安になることも。

妻の強い要望もあって、神頼みの手紙を書いた次第です。」


「・・・そうでしたか。」


親のいないテオもかわいそうだったが、子を失った親の悲しみというものも目の当たりにして苦しくなった。


「侯爵、今日のところはこれで失礼します。また近いうちに連絡致します。」


『テオドールくんは生きています。安心して下さい。』と言えないことに後ろめたさを感じるが、余計な期待をさせて万が一ということもある。


わたし達は侯爵邸を後にすると、その日早速エリックに会いに行った。







 小高い丘のもみの木の下は、エリックのサボり場でもあり二人きりで会うときのデートの場でもある。


エリックがそこにいるときは、エリックのはめた腕輪の転移水晶を目印にわたしがそこへ転移する。

わたしの様子がいつもと違うのを感じたのだろう。エリックが心配そうにわたしを見つめた。


「マリー、どうした?」


「エリック・・・テオを探している人を見つけたわ・・・。」


少しだけ間を置いてそうか、とエリックは小さく呟いた。


 エリックはいつかこんな日が来ることを覚悟していたのだろう。

とても冷静にわたしの話すバークレイ侯爵について聞いていた。


テオとバークレイ侯爵がなんとなく似ていたこと。

エリックがテオを拾ったときとバークレイ侯爵のご子息が行方不明になったときの日時や服装が一致すること。

そして、肖像画を見せてもらい、描かれていた赤ちゃんがテオに似ていたことも。


「侯爵にテオのことは・・・。」


「まだ何も言ってないわ。

ただ、ご子息が行方不明になったときの状況を聞いただけ。また連絡するとだけ言って帰ったわ。」


「そうか、ありがとうな。

で、マリーから見てテオがその侯爵家の息子である可能性は・・・。」


「ほぼ間違いないと思ってる。」


「やはりそうか。」


「エリックにはゆっくりと考える時間をあげたいけど、侯爵夫人が妊娠してるの。ご子息の一件で、また同じことが起きるんじゃないかって、お腹の子を産むことを怖がってる。それにかなり情緒不安定になってるわ。

だからなるべく早くどうしたいのか教えて欲しいの。」


できるならば一、二カ月くらいの猶予をあげて心の整理をして、テオとの貴重な時間を過ごして欲しかった。だけど侯爵夫人のあの様子を見ると少しでも早くテオを返してあげたくもあった。


「分かった。二、三日で答えを出すよ。」


「うん、連絡待ってる。

今日のところはこれで帰るね。」


「ああ、ありがとうな。」


エリックにもいろいろ考えることがあるだろうと、今日のところはそっとしておこうと思ってそのまま転移で帰った。


そして二日後には、バークレイ侯爵に会いたいとエリックから返事をもらった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ