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あたしも聖女をしております  作者: 斉藤加奈子
第二章

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191.核入れ

誤字脱字報告ありがとうございます!感謝です!

 春が来て、春祭りを過ぎるとエリック達は旅へ出てしまった。


寂しくないかって?


少し寂しいけど、わたしとお揃いの腕輪(転移水晶を嵌めたもの)を渡してあるから大丈夫。

転移水晶でこっそりと手紙のやり取りをしたり、通話をしたり。エリックが一人きりになるのを見計らってわたしが転移で会いに行ったり。


それでもお互い忙しい身なのでなかなか会えないのが実情だけど。


 そして真珠養殖の方はそろそろ核入れ作業をしなくてはいけない。

わたし達は久しぶりにパシク孤児院へと転移した。


 久しぶりに会うマリンはまたまた美しくなっていた。それに・・・胸元に飾られた花を象った可愛らしい真珠の貝殻のペンダント。マリンにとっても似合っていた。


「そのペンダント、マリンにとってもお似合いよ。」


「あ、恐れ入ります・・・。」


ん?

ペンダントをそっと指先で触れて頬を染めるマリン。

ん?

その隣で嬉しそうに微笑むドミニク。


ははーん、そういうことね。


ドミニクの報告で、ドミニクに預けたテリー会長からの献上品はそっくりそのままパルディアン国王へ献上したと聞いた。

だからあれは自費で購入したものになる。わたしは大人だからそれがどういうことか気が付かないフリをすることにした。



 孤児院の方は問題ないようだったので、海の方へ。

相変わらず夏の強い陽射しを受けて煌めく海面では、母貝取りをする人が浮かんだり沈んだりしていた。

海辺で貝殻拾いをしていた孤児院の子とすれ違って、手を振ってご挨拶。


いつもだったら養殖筏の上や小船に乗って作業をする者がいるけど、今日は抑制された母貝への核入れ作業をするため従業員は全員工房へ集まっている。


 工房へ着くと、中ではすでに核入れ作業が進められていた。

あらかじめ作成しておいた手順書を元に、ドミニクの指示で予行練習も済んでいるから、従業員も戸惑うことなく作業を進めていた。


工房の真ん中に備えられた大きな作業机に六人、壁際に備えられた作業机に三人。神経を集中させて黙々と作業をしていた。


「失礼します、追加の母貝と核をお持ちしました。」


やって来たのは桶に入った真珠貝と小袋に入った核を持ったマリンだった。


「ああ、貴女がそんな重い物を持つ必要はないのです!私が代わりましょう!」


とマリンに駆け寄り桶を受け取ろうとマリンの手を握るドミニク。

そして頬を染めながら手を握られたままのマリン。


「このくらい平気ですわ。核をお持ちするついででしたもの。」


「貴女の細腕が折れてしまいますよ。」


「イヤですわ、大げさ過ぎます。」


「私が貴女に重い物を持たせたくないのです。さあ、持ちましょう。」


「あ、ありがとうございます。」


「「「・・・。」」」


なんだか漂う空気が甘いわね。

何だろう・・・茶番劇を見せられたようなこの気持ち。


「マリーさん、すんません。あの二人、いつもああいう感じなんすよ。

気にしないで下さい。」


と近くにいる従業員がこそっと小声で教えてくれた。他の従業員は気にした様子もなく黙々と作業をこなしている。


いつもなのか。

どうりで皆慣れた様子だ。


わたしは気を取り直して核入れ作業の様子を見ることにした。


 核入れ作業は、まず挿入する核と、核に真珠層が生成されるように外套膜(貝が貝殻や真珠を生成する器官)を小さく切った物を準備する。


 貝殻にくさびを挟み、貝を少し開いた状態にする。


彫刻刀より細い、カッターナイフみたいな薄い刃を先端に付けたナイフと、押さえに使う角度のついた棒を使って貝の生殖巣にメスを入れる。


メスを入れた生殖巣に、核と外套膜の欠片を一緒に埋め込む。


最後にくさびを外す。


以上が核入れ手術の手順となる。

一見簡単そうだけど、かなりの集中力を要する。わたしも試しにやってみたけど結構難しいのよ、これ。


核を埋め込んだ母貝は全部で四百個。

養殖用の五段網カゴへ入れて、養殖筏に吊す。


本当なら抑制を経て核入れ手術をした母貝は、かなり弱っているため波の穏やかな場所で約二週間養生する必要があるけど、ここでわたしはズルをする。


母貝に治癒の能力を使っちゃうのだ!

治癒をすればメスを入れたところも塞がって生存率も上がるし、核を吐き出すことも減る。すると真珠が採れる確率が上がるって訳よ!

むふふふふ、わたしって頭いい!


 小船に乗って、五段網カゴが吊された養殖筏へ。

従業員の男の子の手を借りて、がっちりと組まれた筏の上に降りた。

ちゃぷちゃぷと浮かぶ筏の上は意外に安定していた。

わたしは両手を組み、神気を練る。

そして海中の真珠貝に向けて治癒の力を振り撒いた。


ほーれ、元気におなりなさーい!

キラキラと淡い光が海面へ降り注ぐ。

従業員の男の子達が口を開けてぽかーんとしてたけど、無視しておいた。


むふふ。

これでどれだけの数の真珠が採れるのか楽しみだわ。


前世の記憶だと五割近くの貝が死んでしまい、真珠として価値のあるものは三割弱しか採れなかった。


四百個の真珠貝に核入れをしたから、このまま上手くいけば百二十個には届かないくらいの数の真珠が採れるはず。

もしそうなったら大成功だ。


この治癒の能力のおかげでどのくらいの成果があるのか分からないけど、冬の真珠収穫を楽しみに待つことにしよう。


でもこれって、大聖女の神聖な能力を私利私欲のために使ったことになるのかな。

女神様が怒ったりしないかな。

ま、その辺はあえて考えないでおこう。


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