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あたしも聖女をしております  作者: 斉藤加奈子
第二章

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189/231

189.晩餐、演奏会

誤字脱字報告ありがとうございます!感謝です!

 食堂ではお父様とお母様はすでに席に着かれていた。

そしてなぜかフィリップスお兄様とお兄様の婚約者(名前はアンシア様という。)も同席している。


家族全員にエリックを紹介するなんて、こんなんじゃ『彼氏』を紹介とかそんな生やさしいもんじゃない気がする。

これは『婚約者』と同等の扱いではないだろうか。


そりゃ、貴族の間では独身の男女が真剣なお付き合いをしたら、それは即ち『婚約者』となることだし、遊びの付き合いだったら、それは『愛人』という見られ方をしてしまう。


いや、確かにわたし達の気持ちは真剣なんだけど、お互い忙しい身だから『結婚』とかはっきりとしたところまでは考えてなくて・・・。


何というかわたしまで緊張してきた。


 わたし達が入室すると皆立ち上がりエリックを笑顔で迎えてくれる。


お父様とお兄様はノータイで少しラフな装い。お母様もアンシア様もお洒落ではあるけどシンプルなドレスに控え目なアクセサリーだった。

それは平民のエリックに合わせた装いで、その気遣いが嬉しく思えた。


「ようこそエリック殿。

わたしがマリエッタの父、フランツ・シューツエントだ。

うちの娘とはアデル聖国で助けていただいて以降、大変懇意にしていただいているようで。

今回お会いできて大変嬉しいよ。」


「本日はお招きいただきまして、誠にありがとうございます。

マリエッタ様と親しくさせていただいております、エリックと申します。」


お父様とエリックが握手で挨拶を交わすと、お兄様とも挨拶を交わし、お母様とアンシア様には軽く手を取り甲にキスをする挨拶をしていた。


エリックの堂々とした態度と流れるような所作に、つい惚れ直してしまう。

お母様とアンシア様なんて「まぁ!」「あら!」と言って頬を赤らめていた。


 挨拶も済むと席に着き、晩餐の給仕が始まった。お互いの好きな食べ物や仕事の話、エリックにもあまり話していないわたしの子供の頃や御身代をしていたときの話などの会話が続く。


平民とは思えないくらいにエリックの所作は美しく、会話の受け答えも完璧だった。家族への印象も上々で、今まで見たことのないエリックの態度に驚かされるばかりだった。


「エリック殿は旅芸人をしておられるとのことですが、どのような芸を?」


「はい、主に剣舞を。

他には歌やギターも披露したりします。」


「ギター!わたし知らなかったわ。」


「俺マリーに見せたことなかったか?」


「ええ。今初めて聞いたもの。」


「ほう、もし差し支えなければ、この後サロンで披露していただけないだろうか。」


「生憎、今日はギターを・・・。」


「僕が持ってますよ。

イーサン、本邸の方から僕のギターを持ってくるように。」


「はい、ではサロンの方へご用意しておきましょう。」


我が家は定期的に家族で演奏会を開いたりする。そのノリでこの後サロンでエリックにギターの腕前を披露してもらうことになった。


わたしも聞いたことのないエリックのギター。少し楽しみだった。



 晩餐も恙なく終わり、サロンへ場所を移す。


サロンではテーブルやサイドボードにティーセットやお酒、そしてクッキーやお酒に合う簡単なお料理が並べられていた。

使用人も二人しか残さず、気楽に楽しめる雰囲気だった。


わたし達は思い思いにソファー、椅子、長椅子に座る。


「今日はマリエッタからだな。たまにはエリック殿にいいところを見せてあげなさい。」


「お父様!たまにはってなんですか、たまにはって。もうっ。」


こんな感じで始まったのは、家族が揃った時たまに開く身内だけの演奏会。

お父様の楽しみの一つでもあり、お父様も音楽家として腕を鈍らせないためのものでもあった。

もちろんわたしの腕を鈍らせないためでもある。残念ながら鈍っちゃうけど。


わたしはピアノの前へ座り、お気に入りの一曲を弾き始める。

ノってきたところでお母様がわたしのお尻を押しやるように隣に座った。

そこからはお母様との連弾。


お母様ってば、けしかけるようにテンポを早くしたりアレンジを加えたりするからついていくのに必死になってしまう。


曲が終わり、軽い高揚感と疲労感に包まれる。


ここで拍手を送ってくれたのはエリックだった。


「マリー、格好いいよ!

君にこんな特技があったなんて。

大聖女辞めて俺と一緒に世界中を旅してみないかい?」


「まあ!素敵な提案ね!」


「おいおい、大聖女を引き抜くなんて全人類を敵に回すつもりかい?」


とお兄様が言ってその場が笑いに包まれた。


「次は俺が。

ギターお借りしてよろしいですか。」


「ああ、あそこに立て掛けてあるのを使ってくれ。」


いい感じで場の雰囲気がほぐれたところでエリックが立ち上がった。

壁際に立て掛けていたギターを手に取りピアノ用の椅子を引き寄せる。


足を組んでその椅子に座ったエリックは、ギターを優しく抱きしめるように構えると、ボロンとつま弾いた。

チューニングは合ってるようだ。


拍子を付けるように爪先でギターのボディーをコン、コンと叩くと三拍子目で弾き始めた。


 曲調はしっとりとしたバラード調。

前奏が終わるとエリックは歌い出した。


その歌は、雪が降るとそれは花びらが空から舞い降りてくるようで、それを見るたびに愛しいあの人を思い出すというような歌詞だった。


女装してエリーゼとして歌っていた時とはまた違う魅力。エリックの優しくてどこか切ない歌声に、わたしの胸は締め付けられるようだった。


ふと、隣を見るとお母様もアンシア様も瞬きを忘れてぽうっとしている。

わたしのエリックだから惚れたりしないでね!と言ってやりたいが我慢した。


「ほう、市井ではこんな歌が・・・。」


目を閉じながら何かを考え込むお父様。曲が終わると「もう一曲披露してくれ。」と言うのでエリックは続けてもう一曲披露することになった。


エリックが披露した二曲目は気持ちを込めて花束を贈りますって曲だった。

もう、なんて言うかマジで惚れてまう。


その後は、お兄様の婚約者のアンシア様がハープを披露。宮廷音楽団でハープを担当している彼女の奏でる音色は美しかった。


アンシア様の後はお兄様、お兄様とお父様のバイオリンの二重奏、エリックとわたしで知っている童謡を一緒に弾き語りしたりした。


お酒が入ったことで悪ノリしたエリックが、男のまま『宵闇の上聖女エリーゼ』をやるとか言って、わたしの伴奏に合わせて色っぽく歌い上げていた。それがみんなに大好評で、大盛り上がり。


 そんなエリックがいることで演奏会の幅が広がり、今までにない楽しい夜が更けていった。


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