188.招待
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「マリエッタ?貴女最近、町民の装いで誰に会いに行っているの?」
ギクッ!
お父様とお母様との夕食時。
お母様から鋭いご指摘を受けた。
時々平民の服を着てエリックに会いに行っているけど、その時は大抵エリックとテオと一緒に早めの夕食をいただいている。
そうなると家での夕食は不要になるので、帰って来たときに平民の服を着てこそこそと自分の部屋へ戻っていくのを知られているらしい。
お父様とお母様には何かしら疑われている。
しかもその時には護衛も連れていない。
エリックにはわたしと同じ転移水晶が嵌められた腕輪を渡していて、小高い丘のもみの木の下へエリックが行くと、わたしがそこへ転移で会いに行っている。
もみの木の下で待ち合わせをして、手をつなぎながら市場で買い物。それからテオも交えてエリックの家で早めの夕食をいただくのがわたし達の定番となっている。
そして帰りも転移で屋敷へ帰ってくるから護衛もいらない。(そのエリックが一番危険なんだというのはナシでお願いします。)
因みにテオにはまだわたしが大聖女であることは話してない。知られたくない訳ではないけど、テオが周りにしゃべっちゃうかもしれないし。ほら、テオぐらいの年の子って、秘密を抱えるの苦手でしょ?だから正体をバラすにしてももう少し大っきくなってから。
「マ、リ、エ、ッ、タ?」
あかん、これ確実にバレてるやつや。
こっそり好いた男に会いに行ってるのバレバレやんか。
お父様とお母様の目が正直に言わんと許しまへんえ。ってゆうてる。
「え、あ、あの・・・。」
答えに詰まるわたし。
エリックのことは信用できる人物だって思っているけど、『旅芸人の若い男』って聞いて「それなら安心ね!」なんていう言葉が出てくるとは思えない。
「マリエッタ、正直に言いなさい。
マリエッタが大聖女だとしても、私達のかわいい娘であることには変わりはない。
娘がどんな人とお付き合いしているか心配するのは親として当然だろう。
だがマリエッタは大聖女だ。
相手が王族であろうと、平民であろうと交友関係に口出しはしない。
どんな人か親として把握しておきたいだけだよ、マリエッタ。」
と、お父様はナイフとフォークを置いた。
だ、だよね。
いつまでも隠し通せるものでもないし・・・。
「あの、その人は・・・わたしが誘拐された時に危ないところを助けてくれた人で・・・。
あの時、倉庫からなんとか脱走したはいいものの追っ手に追われてて、その時に・・・。」
ちょっと言い訳がましく聞こえるかも知んないけど、名前やどんな身分の人かを言う前になるべく心証の良いことから話す。
命の恩人前面アピールだ。
「・・・マリエッタを助けてくれた命の恩人なんだね?」
「はい。」
「まあ!マリエッタにとっては英雄みたいなお人なのね。」
「そ、そうなんです!英雄なんです!
名前はエリック、旅芸人をしている方です。ご両親はいらっしゃらないみたいで、血は繋がってないけど弟を一人養っています。
とても弟思いの、優しくて料理上手な人です!」
「そうか、ちょうどいいではないか。
娘を助けてくれた人にはお礼をしなくてはと思っていたんだ。
今度うちに招待しなさい。」
とお父様。
「え?」
「そうね。恩人だもの。
親としてお礼を言わなくちゃ。
どんなお方か楽しみね。」
とにっこり微笑むお母様。
「ええっ?!」
ええ~?!
✳
鏡の前でアスコットタイを見比べるエリック。
「マリー、どっちがいいと思う?」
グリーンのタイとグレーのタイを首元で交互にかざす。
ジャケットとトラウザーズの色はネイビー。どっちの色も似合うけど、わたしに選ばせたらグリーン一択だ。
「グリーン!」
「よし!そうする。」
二週間前、おそるおそるお父様とお母様が一言お礼を言いたいからお食事でもどうかって・・・。と言ってみたところ、エリックは一瞬固まって「何着ていこう」と呟いた。
エリックは平民なので『ベルナリオの薔薇』で貸してくれる衣装を着ていくのはおかしい。
しかし持っているのは動きやすい平民の服ばかりだった。
結局ジャケットとトラウザーズは平民にしては質のいい服飾店でエリックが新調した。アスコットタイは芸団の備品で一番シンプルなやつを二つ拝借してきたところ。
グリーンのタイを装着してジャケットを羽織る。
それだけで麗しの王子様が完成した。
そりゃ、貴族の装いより王子様度は下がるわよ?服だけ見るとどこかの大店のご息子が着てそうな感じ。
だけど何着ても気品があるというか、見とれてしまうというか・・・。
何でも着こなしてしまうエリックは流石である。
「あ、髪型どうしよう。」
「エリックはそのままでも格好いいわ!」
「ありがと。」
エリックの手がわたしの頬へ伸びてきて、チュッ。
「そ、そろそろ行きましょ。」
「ああ。」
またまた、チュッ。
「もぅ・・・。」
く、甘い・・・。
わたしは恥ずかしさをごまかすようにエリックの袖を引っ張った。
エリックの家から少し離れたところにシューツェント家の馬車を待機させていたので、それに乗り込む。
テオはまだまだ貴族との食事の場には出せないってことで芸団の仲間のところで預かってもらった。
途中でチーズケーキが評判のお店に立ち寄り、我が家へ到着した。
執事のイーサンが出迎えてくれて、チーズケーキを預ける。
エリックには応接室でしばらく待っていてもらって、わたしは急ぎ自室へ戻り晩餐用のドレスにお着替え。
エリックとのバランスを考えてあまり飾らずシンプルなドレスにした。
だけど色はローズピンク。
着替え終わると応接室へ迎えに行った。
「エリックおまたせ。」
久しぶりに見せる変装していないわたしの姿。
「マリー・・・とっても綺麗だよ。」
エリックがキスをしようと顔を寄せてきた。
「エリック、家の者が・・・。」
慌ててエリックの口を押し返した。
もう、イーサンが見てるのに。
イーサンはいつもと変わらない微笑みを湛えているけど見てたね?見てたでしょ?
エリックはへらりとごまかすように笑った。
「お嬢様、エリック様。
旦那様と奥様がお待ちでございます。」
「ええ。」
「はい。」
わたしとエリックは手を繋いで食堂へと向かった。
男性の腕に手を添えて歩くのが普通なんだろうけどこれがわたし達の普通。
あれ?エリックの手、湿ってる?
それにいつもより冷たい。
もしかしてエリック緊張してる?
「ヤバい、舞台より緊張してる。」
表情はいつものエリックと変わりないのに、繋いだ手から確かに伝わる緊張。
いつも何でも完璧にこなしてしまうエリックも緊張することがあるんだと思うと少しばかり嬉しくなってしまう。
「大丈夫よ、お父様もお母様も優しい人達だから。」
「ああ。」
わたし達は繋いだお互いの手に力を込めると、イーサンが開けた扉を通った。




