表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あたしも聖女をしております  作者: 斉藤加奈子
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

184/231

184.仕方がないだろ?

 大きな瞳からぽろぽろと涙を流しながら感情的になっているマリーを見て、嬉しいと思ってしまった。


俺のせいで泣かせてしまい申し訳なく思いながらも、その涙も、その打つけてくる感情も、俺のせいだと思うと愛おしいとさえ感じてしまった。


だから、だからキスしてしまったのは俺が悪いのではない。

かわいすぎるマリーがいけないんだ。

一度キスしてしまうと、あとは何回やっても同じような気がして、会話の返事の代わりにキスをしてしまう。


仕方がないだろ?

マリーにキスをするたび、心に温かい灯火のようなものが灯るんだ。

もう止められそうにもない。


 まさかマリーが大聖女だとは考えもしなかった。俺とテオの目の前でいつも微笑んでいる彼女は、親しみやすくて優しくてかわいい女の子で、パレードの時に見た神々しくて手の届かないようなところにいる女性と同一人物だとは想像もつかなかった。


 あの日の夜会で、依頼人であるカロリーナ嬢から大聖女が来ることは事前情報で聞いていた。


───大聖女マリエッタ・シューツェント


 ナディール王国、伯爵家の令嬢で、父親のシューツェント伯爵は宮廷音楽団の団長を務めている。


シューツェント家は代々宮廷音楽団の団長を務める家系で、元は男爵の位だったが、この度大聖女を輩出したことを受けて伯爵位を叙爵。


生粋の貴族の令嬢ながら、髪や瞳の色、年齢も王女と同じだったことで七歳で親元を離れることになり、以降王女の御身代として日影の人生を送ることに。


しかし十七の夏、ネストブルクの戦で王女を亡くしたことが切っ掛けで大聖女の能力が開花。

王女の葬儀では導きの鳥を発現させ王女の魂を女神の御許まで導いた。

その時の様子は感動のあまり我を忘れるほどであったとか。


とそこまでなら新聞を読んでいる者なら誰でも知っている情報だった。


しかしその大聖女の人柄に関する情報は全く流れてこなかった。

公式な場に御身代として出席したことはあっても、殆ど社交の場に現れたことはなく他の貴族との交流はない。

それは正式に大聖女となった後も同じで社交の場に出ることはなかった。

同じ王国の貴族であっても大聖女と会うのはほぼ不可能だということだった。


それが今回、ナディール王家が大聖女専用として任命した護衛のエスコートで、彼女が現れた。


その夜会は、下級貴族から上級貴族まで幅広い招待客が集まるベンロマッケン侯爵家の夜会。

大聖女が参加するという事前情報により、予想を上回る参加者が集まった。


 俺はベルナリオ芸団の裏稼業、『ベルナリオの薔薇』が受けた依頼によりその夜会へ赴くことになった。


 『ベルナリオの薔薇』とは、元貴族だったベルナリオという芸団の創始者が、パートナー役がおらずに困っている令嬢に向けて始めた稼業だった。


見栄えの良い団員に貴族の振る舞いやダンスを教育し、夜会や舞踏会のパートナー役に困っている令嬢に、安心安全に楽しんでもらうという趣旨の仕事だった。


その仕事の特色から、寝所への誘いがあったり、愛人関係を迫られることも少なくない。


しかし『ベルナリオの薔薇』の規則により、貴族の女性とは密室で二人きりにならないこと、恋愛関係や愛人関係にはならないこと、手を出してはいけないことなどが決められていた。


 しかし俺等がどんなに規則を厳守しても、『男娼紛い』と揶揄する声があるのは知っていた。


俺としても好んでこの仕事を受けていた訳ではない。

気品ある立ち振る舞いが身に付くこと、貴族の会話で政治や経済についての情報が手に入ること、ナディール王国側から見たナディル帝国の情報などが知れることもあり、俺としては己の野望のためにも必要な仕事であった。


だけどこんな仕事をしているところをマリーだけには見られたくなかった。

例えエスコートするだけの仕事でも、金のために女性の腰に手を回し、優しく微笑みかけ、思ってもない美辞麗句で相手を気持ち良くさせる。

そんな姿を彼女にだけは。


 カロリーナ嬢の横に立ち大聖女と向かい合った時、あまりの驚きで俺はこの目を疑った。


髪の色や少しだけ瞳の印象が違えど、あまりにもマリーと大聖女は瓜二つだった。

そして同時に大聖女も俺の顔を見て驚いた顔をした時、全てを理解した。


マリーは大聖女の従者なんかじゃない。

マリーが大聖女なんだと。


よくよく考えると、全ての辻褄が合う。


マリーに初めて会った日、彼女は暴漢に襲われていた。そしてその後、まだ見習いだった大聖女がリリーティアに襲われたという情報が入った。


大聖女のパレードを一緒に見ることができないと断られたこともあった。そしてパレードで見た民衆に手を振る大聖女はマリーに似ていると思った。


他にもマリーと大聖女の出身国、年齢。

違うのはブラウンの髪とくすんで見えるグリーンの瞳ぐらいだ。

疑ってみれば同一人物だと直ぐに分かるものを。


 俺は二度とマリーと会うのは止めようと思った。

今の俺はこんな仕事をしながら何も成し遂げていない中途半端な男。

本当の素性も明かせずに帝国の王位を狙う身。

こんな俺と付き合っていてはダメだ。

どうせいずれマリーとはサヨナラしなければいけないと思っていたんだ。


だけど・・・泣かれたら勝てねぇよ。

吸い寄せられるようについ、キスしてしまったが、仕方がないだろ?

かわいすぎるマリーがいけないんだ。

それにもう彼女は俺のもんだ。


──そう、俺のもんだ。


今はまだ妃として迎えてあげられないが、必ず、絶対に必ず、アレクサンダーを討ち、王位を奪還して君を迎えに行く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ