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あたしも聖女をしております  作者: 斉藤加奈子
第二章

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179.真珠の貝殻

誤字脱字報告ありがとうございます!感謝です!

 今日も朝から孤児院へ転移。

昨日のマンゴージュースの売り上げはドミニクから報告が上がっていて、A班七本、B班六本、C班六本の計十九本の売上高銅貨五十七枚だった。


思ったより売れなかったけど、初日ってこんなもんなのかな。

もうしばらくは様子を見て生産本数を調整すればいいから、そのへんはマリンに任せよう。

現金収入が足りなかったらわたしの責任で支援すればいいし。


 孤児院では子供達がマンゴージュース作りに取りかかっていた。

皆でわいわい楽しそうにしながら働いてる。

核作りしている子らもお互いの磨いている珠を見比べながら楽しそうに笑ってる。

核は昨日一日だけでは球にできなかったみたいで、今日もう一日磨いて球にする。

大変そうだからろくろみたいに高速回転させる円盤形の砥石を導入しよう。

そうすればもう少し楽に核を削り出せるかな。

成人組はすでに海へ母貝取りへ行っているそうだ。


 ドミニクが倉庫から昨日お酢に浸けておいた貝殻を持ってきてくれた。


「どれどれ・・・。」


桶の中は貝殻から溶け出したと思われる茶色の浮遊物でお酢が汚れてる。

その中から一枚だけトングで取りだして別の桶に用意した水で軽く洗ってみた。


「おぉ・・・。」


思いのほかうまくいって思わず感嘆の声が漏れた。


「うわぁ!キレー!!」


「真珠の貝殻だー!!」


「スゲー!マリーさん、魔法使いみたいだ!」


わたしを取り囲む子供達は目を輝かせて驚いている。


「お酢に浸けただけですのに、このような物が・・・。」


不思議そうに貝殻を見つめるスーザン。


大成功だ。

多少貝殻の溝に外側の部分が残っているけど、虹色のベールを纏い生クリームのようなしっとりとした白色の貝が現れた。


 全ての貝殻を軽く水洗いして、スーザンとドミニクも巻き込んで紙ヤスリで磨く。

たかが貝殻磨きだけど真剣にやってると汗が出てくる。

そして最後に内側に塗布したろうそくを剥がすためにお湯の中へどぼん。


最終的に現れたものは真珠色に輝く神秘的な貝殻。

捨てられていた貝殻をお酢に浸けて磨いただけの物だけど、どうだろ?これ。

商品価値あるかな。


売るとすれば一枚当たり銅貨五枚の価格としても充分利益が出る。

でもかなり綺麗だし銀貨一枚(銅貨十枚)くらいで売れるかな?


「ドミニク、これ、売れると思いますか?」


「もちろんでございます!

このままでも高く売れると思いますが、美しく加工すれば貴族向けの華麗な工芸品や装飾品にもなるのではないかと。」


そうか。

何となく小学生の科学の実験っていう感じが否めないけど、マリーパール工房の主力商品にしてみようかな。


「分かりました。真珠協会の会長との面会の調整を。」


「かしこまりました。」


これを真珠協会の会長へ見せたらいくらで買い取ってもらえるか。

その交渉をしなくては。


材料費はお酢とろうそくと紙ヤスリくらいしかかかっていないけど、一粒の核を削り出すのに丸二日かかっている。

一枚当たり銅貨五枚くらいで買い取ってもらえれば充分な収入になるだろう。


だからそれより安くしないことと、養殖事業の合間の仕事にしたいので大量生産はしないことを条件にしつついい感じで話がまとまればいいかなと思っている。


 次に海辺の方へ行って母貝取りの様子を見る。貝は昨日で十数個採れたみたい。貝は簡単に見つかる日とどんだけ潜ってもなかなか見つからない日とあるらしい。

母貝の抑制に入る秋までにたくさん採って来て欲しいけどあまり無理はしないように言ってその場を去った。


 そして工房建築の進捗状況を確認。

確認って言ってもちょっと離れた所から様子を見るだけ。

今は壁を打ち付けてた。

うん、順調、順調。


 わたしはドミニクに高速回転する円盤形の砥石を取り入れるよう指示すると、いったん別荘へ帰った。


そして聖女のドレスに着替えて南神殿へ出勤して、『平和への祈り』をしたり書類仕事など大聖女の業務をこなしたりして一日を終えた。



 そして明くる日。

予定通り今日で別荘生活は終了して、荷物をまとめてナディールへ帰る。

朝にはケビンとドミニクもここへ来ていて、一緒に転移。


 まずはポンダナオ南神殿へ。

ここで真珠協会のテリー・エスカロープ会長と面会の予定。

昨日召致の要請をしたら早速今日会いに来てくれることになった。

わたしは日課である『平和への祈り』をしたり、別荘を貸してくれた国王へのお礼状、ハーパーベル工房の手配をしている白神官の報告を聞いたりして、面会の時間を迎えた。


 わたし達は執務室で真珠層だけを残した貝殻をローテーブルに置き、真珠協会のテリー・エスカロープ会長を迎えた。


この場にはわたし、スーザン、ドミニク、後ろにシャルロッテ。

向かい側にはテリー・エスカロープ会長とその助手の方が座った。


今回、この貝殻を買い取ってもらう交渉をドミニクに任せることにした。

ドミニクとテリー会長は初の顔合わせになる。


「お忙しい中、態々足をお運びいただき感謝致します。

本日、話し合いのお相手をさせていただくドミニク・シャークランドと申します。」


右手を差し出すドミニク。


「ご丁寧にご挨拶いただきまして大変恐縮にございます。私が真珠協会会長、テリー・エスカロープと申します。」


テリー会長はドミニクの差し出した手に握手で応えた。

挨拶を終えるとテリー会長の目はローテーブル上にあるお皿に載った貝殻に釘付けになった。


「今回貴殿をお呼び立て致しましたのは・・・こちらです。」


ドミニクがお皿をずいっとテリー会長の目の前に差し出した。


「こ、これは見事な真珠貝で・・・。」


「そうでしょう。

これは真珠の貝殻の真珠層のみを露出させたもので、大聖女様がその技法を確立致しました。」


なぜかどや顔のドミニク。


「手に取っても?」


「もちろんどうぞ。」


だからなぜあなたがどや顔なのよ。


「まるでこの艶と輝きのまま海で採れたようでございます・・・いったいどうやってこれを?」


あ、それはですねぇ、お酢に・・・。

と言ってあげたいところだけど、あまりにも簡単にできてしまうのでこっちのお仕事取られちゃうから教えません。


「それは大聖女様が知る特別な技法です。簡単にはお教えできません。」


と代わりにドミニクが拒否する。


「申し訳ございません、愚問でございました。真珠協会でも貝殻の内側は真珠と同様の輝きをしているので良い利用方法がないかと苦慮しておりました。

ここまで綺麗な貝殻なら様々な装飾品に加工ができましょう。」


「こちらの貝殻、真珠協会ではおいくらで買い取っていただけますか。」


「うーむ、一枚当たり金貨一枚でいかがでしょうか。」


えっ?!そんなに高くしていいの?

わたしは驚いて思わず目を見張った。


「テリー会長、こちらの貝殻は世界中探してもどこにもないものです。

大聖女様が創り出して最初に真珠協会へ話を持ってきたのです。他へ話を持って行ってもよろしいのですよ?」


ちょっ、ドミニク!

何値段吊り上げようとしてんのよ!


「た、大変失礼致しました。

一枚当たり金貨二枚、金貨二枚でいかがでしょう。

この貝殻はこれからデザインを考え、職人と試行錯誤しながら新たな装飾品を作り出す必要がございます。

今の段階ではそれが精一杯でございます。」


こんな捨てられていた物が金貨二枚って!罪悪感が!罪悪感が!


「一流の職人の手にかかれば、最終的には金貨何十枚、真珠と組み合わせれば何百枚もする最高級の装飾品ができましょう。それを考えればもう少し高くても・・・。」


ドミニクはもっと値段を吊り上げようとした。


もうっ!ドミニクってば欲張り過ぎよっ!

こんな所で儲けようとしたってドミニクには一銭の得にもならないのに。

わたしからすれば『マリーパール工房』の従業員となったパシク孤児院出身の子達が生活していけるだけの儲けがあればいいんだから。


「ん、ん゛っ!ドミニク。」


咳払いをしてドミニクを窘める。

あらかじめ話し合っていたのよ。

一枚当たり銅貨五枚以上であれば充分利益が出るから、必要以上に取引額を高くしなくてもいいって。


ドミニクはわたしがちょっと怒ってることに気が付いた。


「あ・・・失礼致しました。

テリー会長、大聖女様はこの真珠の貝殻を幅広く活用されることを望んでおいでです。

一枚当たり金貨二枚では高額過ぎて何かと使いづらくなってしまうでしょう。

ここは──貝殻十枚で金貨二枚というのはいかがでしょうか?」


「私としては有り難い限りでございますが・・・。」


いきなり十分の一に価格を下げるドミニク。一枚当たり銀貨二枚になるけどそれでも儲けすぎな気がする。

でも、まあ、このくらいが落とし所なのかな。


そんなに安くして大丈夫なのかとテリー会長がチラリとわたしを見た。

全然大丈夫、というかそれでも高すぎるくらいだけどわたしはコクリと首肯した。


「テリー・エスカロープ会長、腕の良い職人の技術の粋を集めた良い品物が出来ることを期待しています。」


「はっ、必ずや最高の逸品をご覧いただけるよう最善を尽くす所存でございます。」


それからドミニクとテリー会長は貝殻の納入枚数や取引方法など細かい話を詰めて、話し合いは終わった。



 もう、当分ここには来ない予定。

次に来るのは母貝の抑制作業に入る時だから約二ヶ月後になる。

わたし達はアディーレ大神殿へ帰るためポンダナオ南神殿の転移室へ移動した。


すでにケビンが待っていて、わたし達の旅行鞄も運んでくれていた。


「神殿長、ドミニク。後のことは宜しく頼みます。」


真珠養殖事業のことはドミニクに任せる。

実質『マリーパール工房』を運営していくのはドミニクだ。

ドミニクは当分アディーレ大神殿へ帰らずに、ハーパーベル領に居を構え『マリーパール工房』につきっきりになる。


孤児院の建て替えやマリーパール工房とその社屋と独身寮などの建設、ドミニクのやることは多い。

そのドミニクのフォローを南神殿の白神官に任せることにした。


「はい、お任せ下さい。」


ニカッと白い歯を見せてドミニクは微笑んだ。本人は喜んでその仕事を引き受けているので任せても大丈夫だろう。


そしてわたし達は、ドミニクとボルトン神殿長、他数名の白神官に見送られてアディーレ大神殿へ帰還した。


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