171.孤児のお仕事①
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孤児達のお仕事、どうしようか。
わたしはざざぁ、ざざぁと寄せては返す夕暮れの波打ち際をぷらぷらと歩きながら、マリンと孤児達のことを考えた。
貧しくても明るくていい子達だった。
伯爵家の令嬢であるはずのマリンが、まるで漁師の娘のように貝剥きをしていたのには驚いた。質素なドレスを纏い、肌は日に焼け、手には軍手をはめて。
子供達の面倒をよく見ていたし、とても献身的に尽くしていたのがよく分かった。
何とか助けてあげたい。
あの子達が健やかに成長し、きちんと自立できるようにしてあげたい。
そう思うけどわたしがひたすら寄付をし続けるのは根本的な解決にはならない。
何とか孤児院でも収入が得られるようにしなくちゃ将来的にはやっていけなくなる。
地域の住民に寄付や支援を頼ろうにも彼らもそんな余裕はないみたいだったし。
子供にもできて、自立することができる仕事・・・本当に悩ましいわ。
今は孤児院出身の成人した男の子が海に潜り、それ以外の子達が真珠貝の殻を剥いて、取れた真珠を収入源としているらしいけど、全く足りていないのが現状だ。
ハーパーベル領で取れた真珠は、漁師から領主が全て買い上げて、その領主から真珠協会が一括して買い上げる仕組みになっている。
それはハーパーベル領に限らず、この国では真珠協会が領主に対して【真珠仲買割符】を発行していて、その割符を持っている者だけが真珠協会に対して真珠を売ることができるようになっている。
国中から集められた真珠は、真珠協会がサイズや品質ごとに選別して、宝飾品を扱う商会へ卸す。
そうすることで一領地では揃えきれない粒の大きさが揃ったネックレスやイヤリングを作ることができるとのことだった。
他にも真珠協会は真珠の密猟防止や、品質や価格を安定させる役割を担っていたりしていて、この国ではとても重要な組織だと言える。
真珠協会が領主から買い上げる真珠は正当な価格に査定されるが、領民が頑張って取った真珠は、その土地の領主がいくらで買い上げるかはその領主の自由となる。
だからあの子達が取った真珠は、領主に安く買い叩かれている訳で・・・。
真珠を取る以外で何か収入を得られる方法はないだろうか・・・。
沈む夕陽を眺めながら、頭の片隅に思い描いた事を孤児院でやらせてみようかと思う。
失敗するかも知れない。
だけどわたしはお金だけはたくさん持ってる。
大聖女へ支給される『女神に仕える者への俸給』もわたしがやりたいことをやるために多くもらっているんだ。
赤字になってもいいじゃない。
何年かかってもいいから、試行錯誤をしながらやってみようと思い至り、わたしはその夜、スーザン、ドミニク、護衛の二人を召集し、ケビンとは転移水晶の通話ができる状態にしてわたしの考えていることを話す場を設けた。
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夕食を終え、食後の紅茶を頂いている時間。
サロンへみんなを召集してわたしの考えていることを伝えることにした。
ケビンとは転移水晶の通話で繋がっている。
「パシク孤児院で、事業を起こそうと思うの。貴方達の協力が必要だわ。」
「事業ですかっ?!その事業とはどのようなものでしょうかっ?!」
何故かドミニクは嬉しそうに食い気味に聞いてくる。
それとは対称的にスーザンは眉間にしわを寄せて険しい顔をした。
「そうね、まずは十歳以下の幼い子供でもできる仕事として、マンゴージュースを作って移動販売してもらうわ。
マンゴージュースは、港町通りで試飲した物みたいに常温じゃなくて、冷やした物を売ります。
冷やす方法はこれを参考に。」
わたしは図解入りの用紙をスーザンへ渡す。それを見たスーザンはドミニクにも見せた。
「マリエッタ様、これはいったい?」
とスーザン。
「これはポットINポットと言って、水が蒸発する気化熱を利用して、真ん中の壺の中の温度が冷やされる構造になっています。」
「ポットTOポット・・・気化熱・・・初めて聞く技術にございます・・・。」
「ポットINポットよ。」
「ポットANDポット・・・こ、こんな単純なもので本当に氷の貯蔵部屋と同じ効果がっ?」
と大袈裟に驚くドミニク。
「ポットINポットね。」
前世でアフリカのどっかの国でやっていたのをテレビで見た。
自分でやってみたことは無いけどたぶん大丈夫だ。
「大きな素焼きの壺の中に小さめの壺を入れて、その隙間には砂を詰めます。
隙間の砂を水で濡らして、濡らした布で蓋をする。
素焼きの壺の表面から水分が蒸発することによって、真ん中の壺の内部が冷やされます。
温度は恐らく十数度。
氷を使った時ほどの効果はありませんが、充分冷たいと感じる飲み物となるでしょう。
それをクルージング目的の貴族や、観光客を相手に販売すれば、必ず売れると予想しています。」
「確かに、イルカウオッチングから戻った時は冷たい飲み物が欲しくなりました。しかし、どのような売り方をするのでしょうか?
テーブルと椅子を用意して、その場でグラスに注ぎ給仕するのでしょうか?」
と聞いてきたのはスーザン。
「いいえ、わたしが考えているのはポーションの瓶のように、飲みきりサイズの瓶へ入れて冷やした物を販売します。
でも敢えて要望を言うならポーション瓶より少し容量を大きく、デザインもシンプルに。
その場でグビグビっと飲めてしまうものにしたいわ。
そして飲み終わった瓶はなるべく回収して、再利用できるようにするの。」
イメージとしては露店でソーダやコーラ瓶が冷やされているやつだ。
残念ながら炭酸はないけど。
「何と画期的な!是非にポットBYポットを進めて参りましょう!素焼きの壺とポーション瓶はどのくらい準備致しましょうか!」
と食い気味で聞いてくるドミニク。
「いや、だからポットINポットです。」
もう、なんかドミニクは興奮し過ぎ。
原材料のマンゴーは、孤児院の庭に生えてた物を使えばいいだろう。
壺と瓶、他にもマンゴーを搾るための圧搾機、移動販売のための台車、瓶詰めするために必要な道具など揃えなくてはいけないものは、費用はわたしの個人金庫から使うよう、スーザンへ伝えた。
「しかしマリエッタ様、そのように簡単な構造なら、ポットWITHポットをすぐにまねをする者が現れるのではないでしょうか?」
「ポットINポットね。
別にまねをしてもいいのよ?
でもマンゴージュース売りばかりが増えてもしょうがないから、大人向けにエールを売ったり、冷やしたゼリーとか売ってもいいと思うのよ。」
「っ!!
そうでございました!大聖女の知識は一部の人間のためのものではありません!己の未熟さが恥ずかしく存じます!私はなんと愚かで浅はかな人間なのでしょうか!」
スーザンがぎりぎりと歯ぎしりが聞こえて来そうなくらい苦悩に満ちた顔をしている。
そんな反省するほどのことでもないと思うけど・・・。
「あ、あのスーザン?
反省は、ほどほどに・・・ね?」
それよりポットINポットを覚えてね?
販売価格は『冷えてる』という付加価値に加えて、お金のある貴族や、観光客を相手に売るものなのでちょっとだけ高めに設定することにした。
きっと利益は小さなものだろうけど、コツコツと稼いでいけば大丈夫だろう。




