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あたしも聖女をしております  作者: 斉藤加奈子
第二章

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170/231

170.パシク孤児院

誤字脱字報告ありがとうございます!感謝です!

 魚料理の定食屋でお昼を頂いた後は、ケビンとは一旦お別れ。

代わりにドミニクと合流して、真珠加工で有名な工房へ案内してもらい社会見学。


 その後ドミニクおすすめのカフェへ行ってちょっと一息。このカフェは最近できたばかりのお店らしく、お持ち帰りの客で行列ができていた。


クッキーなどの焼き菓子が中心で、特にナッツとカラメルを絡めて板状にして、それを食べやすいようカットされたフロランタンが人気だった。


ふと、海辺の小屋で貝の殻剥きをしていた孤児達の会話を思い出した。


新しくお菓子屋さんができたと言っていたのはここのことかしらね。


ふいに孤児院へ行ってみようと思いつき、クッキー、ラスク、フロランタン、メレンゲクッキーなどの詰め合わせをお土産に孤児院へ向かった。


 孤児院はカフェから歩いて五分ほどの場所にあり、海岸からは徒歩十分くらいの所にあった。


古い木の柵に囲まれた孤児院は、思っていたより広かった。

ガタガタの門扉を通り、見える庭園にはボロボロのブランコ、朽ちてしまったシーソー、ベコベコにへこんだ皮のボール。

建物は木造の三階建てで、大きくてとにかく古かった。


 ドミニクが建物の扉を開けると内側についていたベルがガランガランと鳴った。


扉の内側には真っ直ぐで長い廊下があり、その左右に分かれて部屋がある。

まるで古い学校みたいだ。


「昔は学園として使われていたそうです。廃校になったところを今は孤児院として利用しているそうです。」


わたしの思ってたことを読んでいたかのようにドミニクが説明した。

足を一歩踏み入れると床板がギシギシと沈む。


左手の部屋の扉がゆっくりと開き、一人の老女が姿を現した。

背中は曲がっていて、杖を突いている。

何年前に買ったのか分からないくらい古いグレーのドレス。

白くなった髪を団子にしてヘアネットに納めていて、目は開いているのか閉じているのかよく分からないくらい細かった。


「おやおや、ドミニク様、またお越しで如何なさいました。」


テレサ院長は、今日二度目の訪問となるドミニクを見て忘れ物でもしたのかと問うような態度だった。


「テレサ院長、我が主が挨拶をしたいと。」


「おやまあ、隠居したそれなりのお歳のご婦人かと思っておりましたが、こんな若いお嬢様でしたか。」


と驚いたように目を見張った・・・ように見えたけど細すぎてよく分からない目を、スーザンに向けた。


スーザンは慌てて一歩下がり、ドミニクも「あっ、いえ、こちらのお方です。」と焦りながら手のひらをわたしに向けた。


そうだよねー。スーザンの方が主っぽいよねー。とちょっぴり悔しいけど、スーザンには気品、美貌、教養・・・色々負けているのは認める・・・。

わたしは軽く咳払いをして自己紹介をした。


「おほん・・・お初にお目にかかりますわ。私、マリエッタ・シューツエントと申します。」


「はて、どこかで聞いたことのあるお名前で・・・。ああ、この度は多大なるご支援、誠にありがとうございました。

何もおもてなしできませんが、どうぞこちらへ。」


今のわたしはブラウンのかつらにだて眼鏡。平民の装いで当代の大聖女を名乗っても気が付かないみたいだ。


 テレサ院長はすぐ右手の部屋の扉を顔一つ分開けると、マリンへ院長室へ来るよう声をかけた。

その部屋から賑やかな子供達の声が漏れたので子供の世話をしていたのだろう。

そしてわたし達を院長室へ案内してくれた。


 院長室のくたびれたソファーに腰をかけて、テレサ院長といい天気ですねと、とりとめのない会話で場をつなぐ。


窓の外に目を向けると、そこには小さな畑とマンゴーの木が植えられていて、たわわな実をぶら下げていた。


「こちらではマンゴーも育てていらっしゃるのですか?」


「マンゴーは放っておいても育つんですよ。子供達のおやつにしております。

あとは、野菜を育てておりますが、なにぶん子供の人数が多いもので・・・。」


と溜息まじりにテレサ院長は言った。

確かここで生活している子供は二十七名、成人した者を含めると三十二名にもなる。

いくら畑で野菜を育ててると言っても足りないだろう。


そこへマリンがやって来た。

テレサ院長が対応している客というのが、今朝海辺で一緒に真珠貝の殻を剥いたわたしと、昨日と今日と寄付と衣類を届けたドミニクであることに驚いたようだった。


「マリーさん・・・?

それとドミニク様?いったいどういったご関係で・・・。」


「マリン先生、こちらは私の仕える主です。」


そうドミニクが紹介する。

わたしのような若い女性が金貨十枚も寄付をしたり、子供達全員の衣服をプレゼントしたりでかなりの金額を提供した『富豪の貴婦人』だとは露ほども思っていなかったようで、マリンは再び驚いた顔をした。


「改めまして、本名マリエッタ・シューツエントと申します。」


「この度は多大なるご支援、誠に感謝申し上げます。この孤児院でボランティアをしておりますマリン・ハーパーベルと申します。

あの・・・マリエッタ様のお名前をお聞きした覚えがあるのですが、以前どこかでお会いしましたでしょうか?」


「いいえ?海辺で会ったのが初対面ですよ?」


きっと名前だけでわたしが大聖女だと結びつかないんだろう。

まあ、大聖女だと明かさないわたしもわたしだけど、敢えてそれを黙って見てるだけのドミニクとスーザンもちょっといけずだ。


 先ほどカフェで買った焼き菓子の詰め合わせを渡すと、子供達の間でも一度食べてみたいと噂されていたものだったらしくとても喜んで受け取ってくれた。

そして改めてテレサ院長とマリンから寄付についてのお礼を言われた。


 このパシク孤児院の財政状況を聞くとドミニクから事前に聞いていた通りかなり深刻なようだ。

しかも年々悪化している。


領主からの支援も先代(マリンの祖父の代)まではあったそうで、それについてはマリンが「父に申し出てみたのですがダメでした」と申し訳なさそうに言った。


地域住民からの食料や物資の支援も最近まではあったけど、税金が上がってからは激減。


更には子供を育てきれなくなった貧しい親が子供を預けていくことが増えて孤児の人数が増えている。


それに税金が高いせいで独立できず、ここで暮らし続けている成人した子達からお金を入れてもらっていて、助かってはいるけど孤児院が自立の妨げとなってしまっている。


今月もまた一人成人する予定の子がいるけど、その子も外で働きながらそのままここで暮らし続けて、給料を入れてくれることになっているそうだ。


そうやって成人した子達の自立の妨げになってしても子供達を満足に食べさせることもできず、体調が悪くても医師に見てもらうこともままならない。


そのせいでつい最近、一歳に満たない子が亡くなったと言う。


「・・・テレサ院長、マリンさん、わたしも子供達には憂いなく生活して欲しいと願っております。

しかしわたしがずっと支援し続けることは難しいでしょう。

お二人もこのままでは宜しくないことは分かっておいでだと思います。

何か、対策はお考えでしょうか?」


「・・・お嬢さんのおっしゃる通りですがね。足の悪い私に代わってマリンさんが子供でもできる仕事探し回ってくれてます。」


「はい。院長先生の代わりに私が農家の手伝い、漁師の手伝いなど少しでも現金収入になる仕事を探してはいるのですけど・・・その報酬が出せないと言って手伝いを断られているのが実情です。」


この領地の財政はかなり深刻みたいだ。

領主が民のことを考えて税金を下げるなりしないと大変なことになりそう。


「もし・・・わたしが仕事の依頼をしたら引き受けて下さるかしら・・・?」


「マリエッタ様が・・・?

それはありがたいお話ではあるのですが・・・。どのようなお仕事なのでしょうか。」


「どのような仕事を頼むかはまだ決めていませんが、安定した生活が送れるよう考慮した賃金をお支払いするわ。

どうかしら?」


テレサ院長とマリンは顔を見合わせると、是非に宜しくお願いしますと頭を下げた。


 この後、マリンに孤児院の中を案内してもらった。三階建てのこの建物は三階部分は雨漏りが酷くてほとんど使っていなかった。二階部分が居住空間で、狭い部屋にベッドが押し込められていた。そして一階部分に学習室や食堂、キッチン、院長室、家事室があった。


床板が抜けている所や穴の空いた壁、ひびの入った窓ガラス。建物の補修も必要だ。


最後にお勉強したり絵本を読んでいる子供達の様子を見て、帰ることにした。


「マリンさん、何か早急に必要な物はありますか?遠慮なく言って下さい。」


「はい、ありがとうございます。願わくば、屋根の雨漏りをどうにかできたなら・・・。」


「分かったわ。ドミニク、手配をお願いします。」


「はい、かしこまりました。」


「では、テレサ院長、マリンさん、仕事についての詳しい内容はまた後日訪れたときに。今日はこれで失礼するわ。」


「ほんに何から何までしていただいて・・・どう感謝の気持ちを申し上げたらよいか・・・。」


「何から何までしてきたのはテレサ院長ではありませんか。わたしは少し手を差し伸べただけ。

テレサ院長にはこれからもお元気で頑張っていただきたいわ。」


「あの!マリエッタ様!

何故そんなにもこの孤児院のためにして下さるのですか?!」


帰り際、マリンが聞く。


「何故って・・・貴女から手紙をもらったからよ。」


そう言ってわたし達は踵を返す。


「え・・・私が手紙・・・。」


マリンはいまいちどういう事か理解していないようだった。

わたし達の用事は済んだ。

わたしは腕輪の水晶に神気を込める。

次の瞬間、わたし達は別荘へと転移した。


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