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あたしも聖女をしております  作者: 斉藤加奈子
第二章

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169/231

169.ハーパーベル領視察

誤字脱字報告ありがとうございます!感謝です!

 ハーパーベル領もリゾート地らしくいくつもの貴族の別荘が海岸沿いに建っていた。


今日は朝からケビンが拠点としている宿の一室へ転移。

そしてそのままケビンの案内でハーパーベル領の視察にやって来た。

ドミニクには平民の衣服を扱っている商会をいくつか回ってから孤児院の方へ行ってもらってる。


 まずは港町通りをそぞろ歩き。

海産物のお店に南国ならではの野菜やフルーツのお店、形の崩れた真珠と綺麗な貝殻でできた装飾品のお店などが立ち並ぶ中、

地元の人やお使いで来た別荘の使用人、そして観光客で賑わっていた。


ケビンが言うにはこの港町通りがハーパーベル領内で最も栄えている通りで、唯一の観光の買い物スポットなんだって。

え?!うそ?!って思っちゃった。

だって貴族の別荘が近くにあるのよ?

貴族を狙った高級商店街とかあった方が儲かるでしょうに。

それを言ったらそういう富裕層向けの商店街はすぐ隣の領地にあるからみんな買い物はそっちに行くんだって。

ちょっとハーパーベル領の領地経営がイマイチなのがわたしでも分かる気がした。


 一時間程歩いていると、店の軒先にマンゴーを積み上げ、圧搾機で果汁を絞り、それを水で希釈してビン詰めしているお店を見つけた。


「こちらのジュース、今ここで頂くことって出来るかしら?」


絞りたてを見てたら飲みたくなるが人間の性だと思うわけよ。


「いらっしゃい!試飲ならやってるよ、ちょっと待ってな!」


店の店主は、ビン詰めされる前のジュースを柄杓ですくうと、小さめの木製のカップを五つ用意してそれを注いでくれた。


「あいよ!旨かったら買ってくれよな!」


「ありがとう、いただくわ。」


わたし達は各々マンゴージュースが注がれたカップを手に取り、それを口にする。


絞りたてだけあって、爽やかな甘みと鼻に抜けるマンゴーの香りがとっても新鮮で美味しい。それに水で希釈してあるおかげで、サラリとしていて飲みやすい。


だけど・・・ぬっるっーい!!


そうだった、この世界に冷蔵庫なんてものはないし、地下に氷の貯蔵部屋があって夏でも冷たい物が口にできるのは貴族だけだった。


わたしが如何に恵まれた環境で育ったのかがこういうところで身にしみるわ。


葡萄酒の瓶と同じ容量のジュースを二本買ってその店を後にした。


市街地の視察はこのくらいにして、次の目的地へ移動する。ケビンが馬車を用意してくれていて、それに乗り込んだ。


馬車の中は人目がないのでチャンスだと思った。

ちょっくら転移でナディール王国の自宅へ帰ると、執事のイーサンへお土産のマンゴージュースを預け、直ぐさま転移で馬車へ戻る。

生のジュースは日持ちしないから、お父様とお母様には早く味わって頂きたいのよ。


ケビンには「大聖女の能力を便利に使いすぎだろ」と言われた。

反論できないので聞こえないフリしておいた。




 港町通りから海岸までは馬車で二十分くらいだった。


そこは漁港と、貴族がクルージングを楽しむための小型船の停泊場があった。

今の時間は漁を終えた漁船も水揚げを終えていて、思ってたよりも静かな港だった。


目に映る景色は、太陽の光を反射させてキラキラしている水面に、真珠貝の漁をしている人達がくるりと頭を下にして潜ったり、勢いよく浮き上がったりしてる。


桟橋では、ちょうど海から上がる人、採った貝を入れた桶を運んでいる人が見えた。


遠くから見ているととても長閑な漁の風景だった。


「この時間は、マリンはここで真珠を取り出す作業してる。あの小屋だ。」


ケビンが馬車の窓の外を指差す。

その指の指し示す方に目を向ければ、小屋と言ってもただ日除けと風除け程度の、しかも海側に面した方には一面壁さえない板を張っただけの建物が五軒並んでいた。


その中で、一人の若い女性を中心に、まだ少女といった年頃の女の子ばかりが五人ほど集まって貝を剥いている小屋を見つけた。


「ちょっと近くで見てくるわ。

付き添いはシャルロッテのみ。

他は馬車で待ってて。」


そう言い残し、わたしとシャルロッテは馬車から降りると、五軒並んだあばら屋のうち、マリン達がいる一軒に近付いた。


「こんにちは。

わたし、観光でこちらを訪れた者ですが、海を見に来たらこの小屋が目に入って。貴女達はここで何をなさっているのかしら?」


怪しいかも知んないけど、なるべく怪しくならないように声をかけた。

訝しげにこちらを見る少女達の中で、年嵩の、恐らくマリンだと思われる女性が

手にしていた貝とヘラのような道具を置き、嵌めていた軍手を脱いで立ち上がった。


「ようこそ、ハーパーベル領へ。

私達は採ってきた真珠貝から真珠を取り出す作業をしています。

貝の隙間にこの道具を差し込み、貝柱を剥がして貝を開きます。

そして中の貝が抱え込んでいる真珠を取り出しているのですよ。

こちらが取れたばかりの真珠です。」


とマリンとおぼしき女性は、エプロンのポケットからハンカチを取り出すと、中に包まれている真珠を見せてくれた。


突然声をかけたにも関わらず、面倒くさがる様子もなく親切に答えてくれたマリン。


 彼女はすらりとした長身の女性で、クリーミーベージュの優しい色合いの髪を団子にまとめ、瞳は明るいブラウンにグリーンを一滴落としたような榛色。

貴族の令嬢とは思えないような質素なダークブルーのワンピースに、使用人のようなエプロン。そして日焼けなのか褐色の肌色をしていた。


 マリンがわたしに見せるように広げたハンカチには、二粒の真珠が載っていた。


一粒は、粒は小さいが形も輝きも申し分ない貴族にも売れそうな物。

もう一粒は何かの装飾に使えそうだが、貴族には好まれない歪な形の物だった。


「まあ!これがこの貝から?!不思議ね!でも二粒しか取れなかったのですか?」


わざとらしいのは自分でも分かってる。

天然の真珠が採れる確率は一パーセントにも満たないのは始めから分かってた。

だけど初めて知るかのように大袈裟に驚いて見せた。


「これでも運がいいほうなんですよ。

一粒も採れない日もありますから。

実際に指輪やネックレスなどの宝飾品として使える物が採れるのは一週間に一粒くらいです。」


「そう、大変なのですね。」


「それだけ真珠とは貴重なんですよ。」


と言いながらマリンは柔らかく微笑んだ。


「あの、わたし、真珠貝の殻剥きをやってみたいのですが・・・。」


もう少しマリンや他の少女達の話を聞いてみたいと思い、貝の殻剥きを申し出た。


マリンは少し驚いたように目を見開いたが、すぐに微笑みを返し「宜しければどうぞ」と快く輪に入れてくれた。


 シャルロッテには小屋の隅で殻剥きの様子を見ててもらい、その間、マリンに教えてもらいながら真珠貝の殻を剥いたり、貝の真珠ができる場所をつついたりした。

ちなみに剥いた貝は、自分達の食用にする分を除いて、魚の餌となるよう海へ捨ててしまうそうだ。


「こんにちは。わたしマリーと申します。こちらは付き添いのシャル。

真珠に興味があって色々見て回ってます。よろしくね。」


殻を剥きながら孤児の女の子達にも挨拶をする。すると皆口々に名乗り挨拶を返してくれた。時々「ヘラはこうやって差し込むのよ。」と殻剥きのコツを教えてくれる子もいた。実にいい子達だ。


 孤児院の女の子達は、突然参入した見慣れない観光客に戸惑いを見せたが、少し経つと普段通りの態度を見せるようになっていった。


将来は誰のお嫁さんになりたいとか、どの男の子は意地悪だから嫌いだとか。

新しくお菓子屋さんができたから食べてみたいとか、夢はケーキ屋さんになることだとか。


話の内容は普通の女の子と変わりはない。

だけど衣服は擦り切れ、継ぎ接ぎだらけ。体つきは細く、満足に食べられていない感じがした。

ただどの子も髪の毛は三つ編みやポニーテール等きっちり結わえられているか、綺麗に切り揃えられている。爪も手入れされていて短い。身嗜みはきちんとしている様子から、マリンが愛情を持ってこの子達の面倒をみているのが窺えた。


 十分ほど殻を剥いていると、海岸の方から日に焼けた上半身裸の青年がやって来た。


「マリン様、そろそろ休憩にしようぜ。」


「そうですね。マリーさん、そろそろ私達はお昼の休憩時間に入ります。

マリーさんとお連れの方も宜しければご一緒にいかがですか?」


「いえ、ありがたいのですが、次の予定がありますのでこれで失礼致します。

貴重な体験をさせて頂いてありがとうございました。

次にお会いするときは、差し入れを持って孤児院の方へお邪魔させて下さい。」


「歓迎致します。是非に遊びにいらして下さい。」


特に予定はなかったけど、わたし達までご相伴あずかって、この子達の食べる分が減っては申し訳ない。

マリンのお誘いは社交辞令だと思って、わたし達は手を振ってその場を後にした。


 馬車に戻ったわたし達は、お腹も空いていたのでケビンお薦めの定食屋さんへ行き、海鮮料理を堪能した。


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