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あたしも聖女をしております  作者: 斉藤加奈子
第二章

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166/231

166.諜報員

誤字脱字報告ありがとうございます!感謝です!

 もっと確かな情報が欲しい。

マリン・ハーパーベルのこと、

ハーパーベル伯爵家の実情、

パシク孤児院の経済状況。


白神官のドミニクが調査してくれると言っても、彼はパルディアン王国の貴族だ。顔が割れている可能性もあるから潜入調査は頼めないし、集める情報にも限りがあるだろう。


わたし達が変装して直接潜入調査するにしても、わたしにはスーザンとシャルロッテ、もしくはグローリアが必ず一緒なので、三人一緒での潜入は難しい。


誰か代わりに潜入調査をしてくれる人はいないだろうか。

その事を相談するため、わたしはその日のお務めを終えるとナディール王国の王城へと転移した。



 王城にはわたし専用の簡易的な転移室を設けてくれていて、用があるときはそこへ転移したり、手紙の送受信をしたりしている。


突然、ガチャリと転移室から現れたわたしに驚いた王宮筆頭執事のベルナルドさん。ご機嫌ようとご挨拶してライオネル王太子殿下とお話しする席を設けてもらった。


「一人でいいんです。

潜入調査をしてくれる人材を一人貸して欲しいんです。」


「ふむ、ならば一人うってつけの者がいる。少し待っていてくれ。」


王宮の応接室で、ライオネル殿下に相談すると、殿下はうってつけの者がいると言ってどこかへ行ってしまった。


メリッサが淹れてくれた、御身代時代には味わった事のない最高級の紅茶を堪能しながらしばし待つ。

ライオネル殿下が連れて来たのは懐かしい人物だった。


「ケビン!」


応接室で待っていたのがまさか大聖女だと思わなかったらしく、ケビンは慌てて跪いた。


「ケビン、止めてちょうだい。

そんな殊勝な態度はケビンじゃないわ。」


「ちっ、相変わらずだな。」


どっちが相変わらずよ。と言ってやりたくなる遠慮のないケビンの口ぶりに少しだけ嬉しくなった。


そしてライオネル殿下と、部屋の隅に控えていたメリッサには外してもらい、ケビンと二人だけで話をさせてもらった。

パルディアン王国で潜入調査をして欲しいと。


そして潜入調査で知り得た情報は、陛下やライオネル殿下はもちろん、誰にも言わないで欲しいという事も。


ただでさえ軍部の諜報員が大聖女の依頼で他国へ潜入するのだ。

例え信者の願いを叶えるための調査だとは言え、相手国からすれば気持ちのいいものではないだろう。だからせめて知り得た情報は、誰にも言わないと約束してもらおうと思ったのだ。


「協力してもらえないかしら?」


「・・・・。」


怖いくらい難しい顔をしているケビン。

やはり王国軍の諜報班に所属している者が上に報告しないとなると難しいのだろうか。


返事は後日でいいので考えておいて欲しいと席を立とうとしたとき、ケビンが口を開いた。


「あんた、金は持ってるのか?」


「お金?」


「情報を集めるっていうのは金がかかるんだよ。」


「お金だけはたくさん持ってるわ。」


「あんたが金を払うってんだったら、あんたに雇われてもいい。

俺はここを辞めて大聖女様専用の諜報員になってやってもいいぜ。」


何て素敵な提案!

わたしお抱えの諜報員なんてすっごく欲しい!!


それに他国で知り得た情報だけじゃなく、わたし達の言動が逐一陛下やライオネル殿下へ報告されたりしない。


「払うっ!ケビンだったら信用できるわ!お願い!」


つい前のめりになって懇願してしまった。


「だけど一つだけ条件がある。」


「条件・・・?」


ちょっとテンションが上がってしまったわたしとは対照的に、顔を強張らせたケビンは緊張しているように見えた。


「その今回俺を必要としている問題が解決したら・・・俺の兄貴と夜会へ出てくれないか?」


「ロビンと夜会・・・?」


その時だった。

突如、応接室の外で警備をしていたらしいケビンの兄、ロビンが乱入してきた。


「ケビン!やめろっ!!

何て不敬を大聖女様に言うんだっ!!」


護衛が会話に入って来るなんて本来ならあり得ないことだけど、ロビンがこんなに冷静さを欠くのを初めて見た。


「いいから兄貴は黙って扉の外守ってろよ!仕事だろ!」


「お前っ!!」


あまり怒ったりしないロビンが怒りの表情を露わにして、ギリッと歯を食いしばった。


「ロビン、職務に戻って。」


わたしはケビンの話を聞くべくロビンを制止し、その場から外した。


ケビンが言うには、エリーを守ることができなかった事が原因で、ロビンとケビン、二人の評判が失墜しただけでなく、同時に二人の家(アンダーソン子爵家)の評判まで落ちてしまった。


その後、ケビンは諜報班へ異動し表舞台から姿を消したことで人々の記憶から遠ざかり、ロビンは大聖女候補の護衛騎士になったことで名誉を回復しつつあった。


しかし、わたしが大聖女就任後、居をシューツエント家へ移したことや、王城へは転移でやって来て転移で去って行く事から、ロビンが大聖女の護衛をしている姿が人目に触れる機会がほとんど無くなってしまった。


それが貴族の間ではロビンが大聖女の不興を買っただとか、嫌われて護衛の任を解かれてしまっただとか根も葉もない噂が流れてしまった。


その噂を気にしたロビンの婚約者(の家)が、ロビンとの婚約を解消したいと申し出てきたのだとか。


結局、ロビンは婚約解消を受け入れた。しかし新たに婚約者を探そうにも『大聖女に嫌われた護衛』としてどこの家にも敬遠されてしまい、アンダーソン子爵家は窮地に陥ってしまった。


たった一度でいいので、大聖女であるわたしが一緒に夜会へ行く事により、悪い噂を払拭して大聖女と良好な関係であることをアピールしたい。

そういうことだった。


「わかったわ。夜会へ一緒に行くだけでいいのならお安い御用よ。」


ロビンは護衛としてずっとわたしを守ってくれていたし、これからも護衛に付いてもらうこともあるだろう。

一度の夜会でアンダーソン子爵家の名誉が回復するのなら安いものだ。


「不敬極まりない申し出、お受け下さって感謝します。」


さっきまでえらそうな口調だったケビンが神妙な顔をして跪いた。


「ケビンが丁寧に礼を言うと何だかくすぐったいわね。」


「うっせぇ。」


うん、ケビンはこうでなくちゃ。


こうしてわたしは、一度だけ夜会へ行く事と引き替えに、ちょっと口が悪いけど信頼のおける諜報員を手に入れることができた。


帰り際、ロビンに謝られた。

謝るようなことじゃないわ。と返しておいた。


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