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あたしも聖女をしております  作者: 斉藤加奈子
第二章

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162/231

162.特別ゲスト

 今年も建国記念日がやって来た。

いつもだったらエリーと同じドレスを着せられて、王族の列に並びエリーの後ろで控えていた。

しかもエリーのフリをして城門の回廊で門下を見下ろし民衆に手を振ったりしてたんだよね。


 今年の建国記念式典はいつもと違う。

エリーの亡き今、御身代として参列しなくなったのはもちろんだけど、この国から誕生した大聖女として式典にちょーっと顔を出して欲しいと陛下からお願いされたのだ。


女神に最も近い存在である大聖女に対して、人々が催す会合に招待するなど失礼にあたるとして正式な招待ではないのだけど、わたし自身がそれに参加したいと望むのならその限りではないので、陛下の顔を立てるためちょっとだけ式典へ出席することにした。


今日は朝早くからアディーレ大神殿へ転移して、儀式担当の白組の聖女達に身支度を整えてもらった。

いつもの聖女のドレスではなく、豪奢な祭祀服を着付けてもらい頭には聖冠を被った。


まあ、日ごろ王家にはわたしとシューツエント家の後見人としてお世話になってるしね。

我が家に接触をしてこようとする、国内のみならず国外も含めた多くの王侯貴族から守ってもらってるお陰で、我が家の平穏が保たれているのだ。

たまには陛下の顔を立てようではないか。


 式典会場である『謁見の間』には、わたしの席が全体を見渡せる二階部分の回廊に設けられていた。

その場所は玉座も、宮廷音楽団も、参列する王侯貴族も見渡せる、ちょっとだけ玉座寄りの東側で、逆に言えば皆からも見られやすい位置にあった。


そんな場所に白地に金の装飾が施された豪奢な椅子が謁見の間を見下ろすように置かれていたら、それがどんな特別ゲストのために用意されたものなのか一目瞭然だった。


 会場入りした貴族達がざわめく中、二階の控室から出るとわたしとスーザン、最近新たに専属の護衛騎士に加わったグローリアを連れて、静かに席へ座る。


グローリアは、ケルドニア国の将軍家の令嬢で幼い頃から剣術を習っていたそうだ。ストレートの黒髪を一つに纏め、少しだけつり上がった猫のような目をしたキリッとした美人さんだ。

因みにシャルロッテは、歌の才能が開花して導き組の方へ移籍したんだけど、護衛騎士も続けたいとのことでグローリアと交替で護衛についてくれてる。


 わたしたちが登場したことに気が付いた貴族達は一斉に姿勢を正すと、両手を胸で交差させて礼をした。


さすがマナーと礼儀作法がしっかりと身に付いた貴族達だ。

さっきまで「エリザベート王女と共にナディールの大聖女と噂されたお方だったか?」「エリザベート王女の葬儀での奇跡は凄かったですな。」と口々に噂していたのをピタリと止め、お辞儀をする姿は優雅で美しかった。


 静寂を断つように宮廷音楽団の演奏が始まる。王族の入場だ。

今日の宮廷音楽団の指揮を執っているのはなんとフィリップスお兄様だ。

お父様が叙爵のために儀式に出るから、その代わりにお兄様が指揮を執ることになったのだ。

お兄様が指揮をしているところを見るのは初めてで、ついにまにましてしまう。

だってお兄様がすっごく真面目な顔しているんですもの。意外と様になってんじゃない?

お父様にとって晴れ舞台の日、お兄様にとっても晴れ舞台の日となった。


「マリエッタ様、頬が緩んでいます。」


スーザンに注意された。

おっといけない、いけない。

大聖女は容易く笑顔を見せたりはしないのだ。


 荘厳な音楽と共に、国王陛下と妃殿下を筆頭に王族が入場する。

わたしの眼下で足を止めると、こちらへ向き直り跪いた。


そこでわたしは椅子から立ち上がり、両手を組んで神気を練った。

見ている人達にも分かるように白く発光させると、ほいっと王と王妃に向けて神気をふりかけた。


これは守りの祝福。

ちょうど更新時期が近付いていたので、どうせやるなら目立つようにやりたいという陛下のご要望に応じて、多くの貴族が見守る中、守りの祝福をかけた。


それを見ていた貴族達は「おおー!」と感嘆の声を上げる。


これで大聖女とナディールの王家は蜜月関係にあるとアピールできただろうし、王家に対しての貴族達の求心力がより確かなものになると思う。



 陛下がお言葉を述べられて、その後はこの一年で功績のあった人の勲章、褒章、叙爵の式典へと移る。


お父様が伯爵位を叙爵されたのはわたしが正式に大聖女候補として公布された直後だけど、叙爵式は今日行われた。


『お父様ー!こっち向いてー!』


と心の中で叫ぶ。

両手をぶんぶん振ってアピールしたいのを我慢する。

お父様はいつもの楽団の団長としての装いではなく、貴族としての正装をビシッと決めていてかっこ良かった♡


そしてリカルド様がまた階級を上げて叙爵されていた。

何と伯爵位。若干二十二の若さで伯爵位を賜るってどんだけよ。

何だかリカルド様がどんどん偉い人になって遠い人みたい。

あ、それを言ったらわたしが一番遠くて偉い人になっちゃったのか。

なんか複雑。


今年は先の大戦、ネストブルク荒野での戦いで活躍した人の受章が目立つ。


 将軍として陣頭指揮を執った王都騎士団長のグレゴール・ブロイド団長を筆頭に、監督役として出陣したライオネル王太子殿下や、少数精鋭の遊撃隊『黒銀の騎士団』のメンバーが勲章や褒章、叙爵されていた。

もちろんその中にはビザンデ鉱山でご一緒したマーティン警備兵長もいた。

マーティン様、準男爵になって嬉しそう。


そして多くの騎士がミスリル製の剣を褒美として下賜されていた。


誇らしげに国王の前に跪く騎士達。

ふと、この景色をエリーと眺めたかったと寂しさが込み上げた。


後方支援で多くの兵士や騎士を癒し、治療した。夜にはやぐらに登って歌ったりもした。

わたし達もこの国のためにけっこう頑張ってきた。


戦の功労者の褒章などの授与が終わり、これで式典が終るかと思われたときだった。


「最後に異例であるが、後方支援で多くの者を癒し、歌で士気を高め、我が軍を勝利へと導いた亡き王女エリザベートへ大勲位を授ける。

代理としてライオネル、前へ。」


「はっ。」


───大勲位とは功績のあったものを讃える勲位の中で最高を示すもの。


その位を授与されるのも毎年数名いるかいないかというくらい滅多に与えられるものではない。


それを女性が授与されるというのも異例中の異例で、今年はグレゴール・ブロイド団長とライオネル王太子殿下、そしてエリーの三人だけが授与されることになる。


エリーの代わりに恭しく勲章を受け取るライオネル殿下の姿にエリーの姿が重なる。


ああ、エリー、おめでとう。

貴女の頑張りが認められたのよ。

貴女の功績はきっと多くの人達に語り継がれていくわ。


視界がぼんやりと霞んだところへ、白いハンカチーフが差し出された。


「どうぞお使い下さい。」


「ありがとう、スーザン。」


わたしは受け取ったハンカチーフで涙を拭うと、なるべく目立たないようにそっとその場を後にした。


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