160.リカルドの屋敷へ到着
誤字脱字報告ありがとうございます!感謝です!
マリーの転移で我が屋敷の玄関ホールへと戻って来た。
マリーにはこの後セイラとキリクも交えて食事でもどうかと誘ってみたが、忙しいらしく断られてしまいお供と再び転移で大神殿へと戻って行った。
他国から自分の屋敷まで一瞬で行き来できるとは大聖女の力というものはとんでもないとつくづく思う。
マリーには春祭りの一件から距離を置かれるようになり、口説き落とすのが難しくなってしまったが、まだ希望は捨てていない。僕が選ばれないとしても今後とも彼女とは変わらない付き合いを続けていきたい。
彼女はリカルド商会にとってなくてはならない存在なのだから。
後ろを見やれば、セイラとキリクが先ほどまでマリー達がいた場所を呆然と見つめながら立ち尽くしていた。何が起こったのか把握しきれていないのだろう。
「さあ、ナディール王国の僕の屋敷へ到着したよ。君たちに割り当てた部屋まで案内しよう。」
「「・・・。」」
返事をすることさえ忘れてしまった二人を部屋まで案内するため促した。
「なあ、リカルド様。
今ここは・・・夢の中か?」
とキリクが聞く。
「いや?現実だ。
僕達は大聖女様の持つ能力、転移の能力でファイデリティー王国のロックストーン城からナディール王国の僕の屋敷まで転移して来たんだよ。
マリーは忙しい中、君たちをここへ送り届けるためだけに貴重な時間を割いてくれたんだ。
今度会うときにはきちんとお礼を言うように。」
「「・・・はい。」」
彼女はセイラとキリクが、特にセイラがここへ来ることを楽しみにしていた。
セイラに会うためマリーがここへ顔を出す機会も増えるだろう。
「ここが君たちのために用意した部屋だ。」
一階にある客室の一つをセイラとキリクのために設えた。セイラは僕の秘書として働くようになれば貴族と接する機会も増えてくる。
ゆくゆくは商会のために社交もこなしてもらうつもりだ。
そうなるとドレスの着付けや化粧など貴族の令嬢と同じような身支度が必要になるしどうしてもこのレベルの部屋が必要だった。
それに大聖女の友人として、マリーを部屋へ招いたりする可能性を考えればそれなりの部屋を用意した方がいいと判断したからだ。
「こんな立派なお部屋・・・。」
「何だ!この部屋!
リカルド様、さては姉ちゃんを愛人として囲うつもりだったな!」
「何を言っている。勘違いするな。」
「キリク、変なこと言わないで。」
「いくらリカルド様が王子様みたいにかっこいいからって、姉ちゃんを愛人になんかさせないぞ!」
「キリクやめて。」
「何を言っているんだ。」
ビシッ!(デコピン)
「痛っ!」
「このクソガキ落ち着け。」
「クソガキだと?!
いよいよ本性現しやがったな!」
ビシッ!(デコピン)
「痛っ!」
「クソガキ話を聞け。
セイラにはゆくゆくは貴族の婦人や令嬢と接する仕事もしてもらう予定だ。
そうなるとドレスの着付け、化粧、髪結いと身支度のためにそれなりの設えが必要になる。
それにセイラは大聖女の友人だ。
大聖女が遊びに部屋へ訪れる可能性も考えれば使用人部屋を宛がうわけにはいかんだろう。」
「うっ、そ、そういうことなら・・・。」
「まったく・・・。」
「本当にすみません。」
「で、こちらが護衛専用の部屋だよ。
メインルームと行き来しやすいようになっている。
主にキリクの使う部屋だ。」
「俺にも部屋、くれんのか?」
「当然だよ。
クローゼットの中、見てごらん。」
セイラの部屋の隣には、護衛のための小さな部屋。ベッドと小さなテーブル、小さなクローゼットしかないが使用人用としては充分だ。
そしてこの部屋のクローゼットには、僕が子供の時に着ていた普段着用の服を用意した。
子供用の使用人服などない。だからと言って平民の服装でうろうろされても困る。どうせ子どもなどすぐに成長して着れなくなるのだから成人するまで僕のお古で充分だろう。
「すっげえ、お貴族様の服だ。
これ、俺に?」
「ああ、僕が子供のころに着ていた物だよ。」
急にキリクは顔を青ざめさせ、胸元を手で隠しながら二三歩後ずさりをした。
「ま、まさか・・・俺の方を愛人に・・・。」
「リカルド様、弟だけはお許し下さいっ。」
「何でそうなるっ?!」
ビシッ!(デコピン)
「痛っ!」
「何をどう勘違いしたのか分からないが、子供用の使用人服なんて物はない。だからと言って平民の服装で屋敷や僕の周りをうろつかれては困る。
だから使わなくなった物を用意しただけだよ。
君には僕のお古で充分だろ。」
「なんだ、それならそうと早く言ってくれれば・・・。」
「リカルド様、弟のために感謝申し上げます・・・。大切に使わせていただきます。ほら、キリクもお礼を言って。」
「ありがとうございます・・・。」
「まったく・・・君は人を敬うって言葉知らないのか?
部屋の中の物は自由に使っていいから。今から荷解きをして一時間後、僕の執務室へ来るように。
キリクはその服に着替えておくこと。
いいね?」
「「はい。」」
まったく、キリクは僕に対して尊敬の念が足りない。セイラが甘やかし過ぎたのでないのか?
言葉遣いも教えなければならないし、セイラの護衛として剣術も教えなければならない。
世話がかかる奴だ。
✳
「うん、似合っているんじゃないか?」
荷解きを済ませ、執務室へやってきたキリクへ声をかける。
ずっとランチェスター公爵家の保管部屋でしまわれていた子供服は、十年も前に僕が着ていた服で、兄のお下がりだった。
その中でも動きやすくシンプルなデザインの物を用意した。
多少使い古した感じもするが、使用人が着るにはちょうどいいだろう。
「お貴族様になったみてぇだな。」
まんざらでもない様子でキリクの口元はほころんでいた。
「キリク、お礼を言わなきゃダメよ。」
「リカルド様、ありがとうございます。」
「ああ。」
キリクの服装はこれでいいが、セイラのドレスは普段着用、仕事用、夜会用、お茶会用、と揃えなくてはいけない。
この後急ぎ買いに行こう。
セイラとキリクの給与や休日などの労働条件や業務内容、今後の予定などを話し合う。
二人とも何とか読み書きは出来るものの教養が足りないため、毎日午前中は家庭教師を付け、学問、マナー、ダンスを学んでもらう。
午後からはセイラは薬草の仕分け作業と僕の秘書を、キリクは剣術の稽古と屋敷の雑用など出来る事をしてもらう。
敷地内は自由に行動してもらっても構わないが、外出することはなるべく控えてもらう。出かけたい時は必ず報告をして、護衛を付けること。
夜間の外出は禁止。
キリクが護衛として一人前になるまではそのような生活を送ってもらう。
ゆくゆくセイラには商会のために社交もこなしてもらう予定だ。
夜会では僕のパートナー役を務め、お茶会では貴族のご婦人方への売り込み、依頼の申し受け、要望や苦情などを承る役割も担ってもらうつもりだ。
今後の業務や生活についての話し合いを終えると、セイラ用のドレスを買うために街へ出た。




