表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あたしも聖女をしております  作者: 斉藤加奈子
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/231

16.いたずら

誤字脱字報告ありがとうございます!

 今日は朝から座学だった。

マリエッタが学習室へ行くと、エリザベートはすでに着席し、今までの授業内容のノートを見返していた。


「おはようございます。」


「おはよう、マリー。ご機嫌いかが?」


 エリザベートが女神のように優しく慈愛を込めた微笑みをマリエッタへ向けた。


あ、怪しい・・・。

エリーが、この『女神の微笑み』をする時は何かを企んでいるときの顔だわ。

何?!何を企んでいるの?!


マリエッタは、自らの持ち合わせている『警戒心』を総動員して、身の回りを調べ始めた。


椅子、机の中、ノートの間、足元、真上を見上げて天井も見た。

何も無い。

『女神の微笑み』を絶やさないエリザベートの目線を追う。


ここ?これか?

いや違う。

ここか!

これでもない。

どこだ?どこを見てる?


そんなやり取りをしていると講師のルーシィが入ってきた。


「おはようございます。」


「「おはようございます。」」


「えー。最近はようやく寒さも和らいできましたわね。こんな時こそ風邪などひかれないよう、気をつけてまいりましょう。

では今から、近年に於いて、国内の主要な領地の、主要な産業についてと、その産業が及ぼす経済への影響と、近隣諸国への影響を学んで行きます。」


ルーシィ先生の授業が始まり、マリエッタが机上に準備してあるペンを取ろうとしたときだった。


いつもならば、桜色のペン軸の、短めで使い心地の良い、お気に入りのペンがペンスタンドに立っていたはずだった。


しかし今、目の前のペンスタンドにそびえ立つものは黒に近いネイビーで、握り部分は太く、金の装飾が施された地位の高い男性が持つに相応しい一品だった。


は、犯人の仕掛けたトラップはまさにこれだったのね!

危うく引っかかるところだったわ。

おあいにく様。わたしには通用しなくてよ!


と、得意気にエリザベートを見た時だった。


学習室近くの廊下から、カッカッカッと大股で歩く男性の足音が聞こえた。

その足音は学習室の扉の前で止まり、コンコンコンコンッとノックの音がすると、返事を待たずに扉が開かれた。


「エリー!この悪戯娘め!」


授業中に乱入してきたのは事もあろう、片手に桜色のペンを持った国王陛下であった。


ルーシィもマリエッタも驚きのあまりに声が出ない。エリザベートだけは承知していたような顔だった。


「やぁ、ルーシィ姉さん。授業中、突然乱入して申し訳ない。マリエッタも悪かったね。こちらが其方のペンだ。」


ヴィクトールはマリエッタの目の前にある、自分のペンを手に取ると、代わりに桜色のペンをペンスタンドへ差した。


「陛下、わざわざペンのためだけに自ら足をお運びで?」


ルーシィが尋ねる。


「そうなんだ。親として娘に説教をしようと思ってね。ルーシィ姉さん、悪いが十五分ほど、説教の時間をいただけないかね。」


「分かりましたわ。今から図書室の方へ、足りない教材を取りに行って来ますわ。」


「感謝する。」


ルーシィは溜息をひとつだけつくと、持っていた黒板指しを置き中座した。

エリザベートの説教タイムなら自分は関係ないとマリエッタも席を外そうと腰を浮かせる。


「マリエッタはそのままだ。」


えっ?なぜ?

悪戯したのはエリーなのに、わたしまで国王陛下に叱られるのは何という理不尽。


そう思いながらもマリエッタは腰を下ろす。


「構って欲しい時に悪戯をするのはいい加減直さんか。エリー。」


ヴィクトールはルーシィ専用の椅子を引き寄せると、どかっと座り足を組んだ。


「父上が忙し過ぎて、なかなかお会いできないのがいけないのですわ。」


「で、何か話があるのだろう。手短に話しなさい。」


あ、あれ?そんな流れだったっけ?


国王とエリザベートの会話の展開について行けないマリエッタは戸惑う。

そしてエリザベートは意を決したように話し始めた。


「父上。・・・私はどこかへ嫁ぐことでしか、この国に貢献する事ができないような王女となりたくありません。私は私なりの方法で、この国に貢献したいのです。」


「婚姻に拠って、この国に益をもたらすのも王女としての重要な務めだ。それが嫌ならば、どうするつもりだ。」


「和平の為の婚姻だったり、どうしても私でなければならない婚姻ならば、甘んじて受け入れます。

そうでなければ・・・私は・・・聖女になり、この国の為に尽くして負傷した騎士や兵士を癒やしたいと思います。」


エリザベートとヴィクトールの会話のやり取りをマリエッタは黙って聞いていた。

聖女になりたい。この国のために犠牲になった騎士や兵士の傷を癒すことでこの国に貢献したい。

そのことはマリエッタも前々から聞いていた話ではあった。

しかし結婚を拒絶するほどとは考えてもいなかった。


『御身代』とは、護衛対象である王族に請われ続ければ死ぬまで続く役目であった。

しかし一生『御身代』を側に置く王族も少なく、婚姻を機に『御身代』のお役目を解任することが多かった。


女性の御身代は解任後、侍女になるか若しくは自由に、男性御身代ならそのまま側近になるケースが多かった。


つまりエリザベートの決意はマリエッタの解放される未来が遠のくという意味でもあった。


「聖女になりたいだけか?聖女になりたいだけだったなら、その辺のご令嬢でもなれる。

王女として、それでいいと思うのか?」


厳しく追い詰めるヴィクトール。


「・・・いいえ。このナディール国にこの王女あり。と国中、いえ、他国にも知らしめて見せましょう。」


エリザベートは伏し目がちになり、唇を震わせた。


「さて、どうやって?」


ヴィクトールは厳しい目を向ける。

親子なのに何と厳しい関係なのかと、マリエッタは王族の厳しさを目の当たりにする。


「先だって、私が騎士の怪我を治癒したのを父上もご存知だと思います。

その騎士を治癒した様に、成人する十六才まで、王城の騎士団で治癒を行います。

しかし、急を要する場合だけです。

常時治癒していては当たり前になり、慣れが生じます。限定する事により価値を高め、騎士団の中だけでも評判を高めます。」


「ふむ。それで?」


「成人となった十六才から、本格的に聖女活動を行います。

しかし、神殿での聖女登録は致しません。神殿の都合で動かされるからです。

どこで聖女活動すれば効果的で、王家の為になるか、父上がお決め下さい。

私には戦況が読めませんので。

その代わり、どんな戦地でも、どんな僻地にも赴きましょう。」


「一人でか?」


「・・・マリエッタを同行させることをお許し下さい・・・。」


「マリエッタ・・・。どう思う?」


マリエッタは話の展開について行けず、理解が追いついていないところへ急に国王に話を振られて返答に困った。


「・・・わたしには、よく分かりません。

戦地と聞いて不安で恐ろしくも思います。

それに・・・わたしが役に立つのでしょうか・・・。」


ごく普通の令嬢の、当然の反応だった。


「其方は役に立つとか考えなくても大丈夫だ。ただこの我が儘な娘に寄り添い、励ましてやる親友が必要なのだ。」


「マリー。私、マリーと一緒だったら何処へでも行けるの。勇気が湧いてくるの。」


国王と王女に請われるように言われてしまえば、マリエッタもだんだんとその気になってくる。


「わ、わたしで宜しければ、お供させて頂きますっ。」


マリエッタの言質は取れたと、ヴィクトールは内心安堵する。


「エリーの思いは理解した。早速騎士団の方へは、話を通しておこう。うまくやりなさい。」


「父上っ。ありがとうございますっ。」


エリザベートは表情を輝かせた。


「マリエッタ。成人までまだ三年以上ある。

それに戦地と言っても危険が及ばない場所での活動となるだろう。もちろん護衛もつける。あまり深く考えなくてもよい。」


「は、はい。ありがとうございます。」


「二人とも、よく励め。」


ヴィクトールはそう言いながら、立ち上がる。

退室すると気付いたエリザベートとマリエッタは慌てて席を立ち、姿勢を正した。

やる気に満ちた表情のエリザベートと、どことなく不安顔のマリエッタに見送られながら、ヴィクトールは部屋を後にした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ