159.大聖女様?
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城門前でサーシャとアーロンに落ち着いたら手紙を出すと約束して二人とはお別れをした。
門番さんに用件を伝えると、門番さんにはあらかじめ話を通して下さっていたようで、問題なく城門を通る。
ただキリクが持っていた木材を見て「これは何だ?」と聞かれて、キリクってば「これは武器だ!」なんて素直に答えるから没収されてしまったけど。
キリクがブツブツと文句を言うから、「お姉ちゃんが後で買ってあげるから。」と宥めておいた。
まったく、困った子ね。
そのまま門番さんにご領主様とリカルド様、マリーさんの待つお部屋へとお城の中を先導してもらった。
初めて見るお城の中はとても広くて、とても大きくてびっくり。
赤い絨毯の敷き詰められた廊下に、大きな風景画が飾られた石壁。
抱えきれないほど大きな花瓶には、見たことのない大きくて美しいお花。
これがお貴族様のお城なのかと初めて目にする物ばかりでびっくりした。
だけど平民の私達には、似つかわしくない、とても居心地の悪い場所だと思った。
リカルド様に失礼の無いようにと、よそ行きのお洋服を着てきたけど、それでも場違いに感じた。
門番さんの後を付いて十分くらい歩いたと思う。立派な扉のとある一室の前で止まった。
「失礼します。セイラとキリクが到着しました。」
「入れ。」
「はっ、失礼します!」
案内をしてくれた門番さんに促されて、部屋の中へ入る。
足を一歩踏み入れて、最初に目に映ったのは・・・。
綺麗なソファーに腰かけ、優雅にティーカップを傾ける、豊かなブロンドの髪にエメラルドの瞳をしたマリーさんにそっくりな聖女様だった。
マリーさんにそっくりな聖女様は私と目が合うと、見覚えのある可愛らしい微笑みをこちらに向けた。
そしてよく見ると、その聖女様の後ろには聖女様のドレスを纏い、キラキラ光る素敵な錫杖を手にしたスージーさんが立っていて、その隣には紫の騎士服を纏ったシャルさんが立っていた。
ど、どういうことなんだろう。
マリーさんそっくりな聖女様の隣にはリカルド様が座っていて、さも当然かのように平然としている。
「マリーさん・・・か?」隣でキリクがぼそりと呟いた。
「其方達がセイラとキリクか。
私がこの地を統治する領主、ロバートだ。」
声をかけて下さったのは、マリーさんそっくりな聖女様とリカルド様が座るソファーの右側で、一人掛けのソファーに座る赤レンガ色の髪にがっしりした体格のお貴族様、ご領主様だった。
「お初にお目にかかり光栄に存じます。私、ダレン村から参りましたセイラと、」
「キリクと申します。」
私とキリクは両手を胸で交差して軽く膝を折り礼をした。
お母さんがまだ元気だった頃に教わったお貴族様用の礼。
ここに来る前にキリクと練習してきた。
ご領主様に不興を招いた感じもなく、ソファーに座ることを勧められたので、多分ご挨拶はきちんと出来ていたのだと思う。
荷物を部屋の隅に置き、マリーさんそっくりな聖女様とリカルド様の座るソファーの向かい側に座った。
「大荷物だね。忘れ物はないかい?」
「はい、ありがとうございます。」
「セイラさん、顔色が良くなって良かったわ。」
私を気遣う、マリーさんそっくりな聖女様。
「あ、あの・・・マリーさん?見た目が違って・・・どういう・・・。」
私が戸惑っていると、ご領主様が口を開いた。
「口を慎みなさい。
こちらのお方はお前達の知っているマリーさんに扮していた、大聖女のマリエッタ様だ。
そしてスージーさんは大聖女専属秘書のスーザン様、そしてシャルとは大聖女専属護衛のシャルロッテ、私の妹だ。」
「「だ、大聖女様・・・?」」
だ、大聖女様ってどういうこと?
え?マリーさんは大聖女様?
どうして?
こういう時どうしたらいいの?
お祈り?ご挨拶?あ、跪かなきゃ。
「ふふ、セイラさん。
落ち着いて、いつもの通りでいいのよ。私にとって貴女は機織りを教えてくれた先生なの。
私ね、市井で活動する時はかつらとだて眼鏡をかけているのよ。」
「何で大聖女様が機織りしにこんなとこまでやって来たんだ?」
「キリクっ。」
キリクが遠慮なく私も気になっていたこと口にした。キリクってば言葉遣いがなってないからひやひやする。
そこでスーザン様が一枚の封筒を大聖女様へ渡した。
「キリク、この手紙、見覚えないかしら?」
「あっ!俺が村の神殿で願掛けしたやつ!!」
私も知らなかった。
キリクがお母さんの形見のブローチを取り戻せるようにお願いごとしていたなんて。
そして大聖女様がそのキリクの願いを叶えるために、私達の元へと来て下さっていたなんて。
喜びと、感謝の気持ちで胸が震えた。
女神様は私達と共に有られたんだ。
お父さんが亡くなり、そしてお母さんまで亡くなり、形見のブローチと引き替えに借金だけが残って、その上セイドナーク男爵の愛人になることを強要されて。
今までなぜ私達ばかり不幸になるのか、女神様なんていないって苦しんだ時期もあった。
だけど、だけど・・・私達を助けるために・・・。
「私達のために、ありがとうございます。女神様のおかげ、そして大聖女様のおかげで大切な母の形見を取り戻す事が出来ました。どんなに感謝してもし尽くしません。」
「大聖女様、俺らを助けてくれてありがとうございます。」
私とキリクはソファーから降りて床に跪いた。
「セイラさん、キリク、お礼は辺境伯様とリカルド様に言って下さい。
貴女達の置かれている状況を調べ、わたし達が潜入できるように手筈を整えてくれ、しかも貴女達がブローチを取り戻してからもセイドナーク男爵が近付かないように警備を強化してくれたのはロックストーン辺境伯様よ。そして実質的に救いの手を差し伸べてくれたのはリカルド様。
わたしはほとんど何もしていないわ。
だからお礼はお二方に。ね?
それと、わたしとは今まで通り気軽にマリーと呼んで欲しいわ。」
「マリーさん・・・。」
大聖女様、ううん、マリーさんは慈愛の微笑みを湛えてそうおっしゃった。
私とキリクはご領主様とリカルド様へ感謝の気持ちを述べると、ご領主様は「今後はリカルド殿の下で精進せよ。」と。
リカルド様は「君たちの働きを期待してるよ。」とありがたいお言葉をいただいた。
それから軽く雑談をして、ご領主様へお世話になったご挨拶をした後、出立する流れとなった。
私とキリクは部屋の隅に置いた荷物を背負い直す。
お部屋から出るんじゃないのかしら?と思うんだけど、マリーさん達とリカルド様は、部屋の調度品の置かれていない空いたスペースに固まって立っている。
「セイラさん、キリク。近くに寄って。」
「「?」」
何をしているのかよく分からないけど、マリーさんが手招きするので近くに寄った。
「ロックストーン辺境伯、お世話になりました。」
「いえ、またいつでもお越し下さい。」
マリーさんとご領主様が挨拶を交わした次の瞬間、マリーさんの腕輪が強く発光して、あまりの眩しさで目を閉じた。




