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あたしも聖女をしております  作者: 斉藤加奈子
第二章

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153/231

153.提案

誤字脱字報告ありがとうございます!感謝です!

 今日は休暇日。

昨日倒れたセイラが気になるので、お見舞いに行くことにした。


セイラの家からほどなく近い場所にある商店街で疲労回復ポーションを買う。

キリクもきっと無理をしているだろうから多めに買った。


それから市場へ行って果物をいくつか買って、そろそろセイラの家へ向かおうとした時だった。


市場の真ん中で、人だかりができているのを見つけた。

何事かと思い人だかりの中を潜り抜けると、男性の怒鳴り声が聞こえてきた。


「小僧!!てめぇ!!盗んだ物どこに隠しやがった!!出しやがれ!」


「うっ!がっ!!」


不穏な怒鳴り声を浴びせたられた相手は、まさかのキリクだった。

キリクは大柄の男に地面へ叩きつけられ、苦痛で顔を歪めていた。


「い、いやだ!!セイドナーク男爵なんかに渡してたまるものか!!」


ああ、キリクが・・・キリクが、ブローチを盗んだ。セイラが倒れてキリクも追い詰められたんだ。


「このくそガキ!!憲兵に突き出してやる!!来いっ!」


「くそっ!放せ!!金なら働いて必ず返すって言ってんだろ!!」


「黙れっ!!」


キリクが引きずられるように連れて行かれる。

わたし達は急ぎセイラの下へと向かった。


 セイラの家へ着くと、昨日倒れたばかりだというのに、セイラは機を織っていた。


「セイラさん!キリクが!」


わたし達のただならぬ様子にセイラは不安げに瞳を揺らす。

わたしは先ほど市場で見たことを伝えると、顔を青くさせたセイラを連れて、憲兵の詰め所へと向かった。



 詰め所で憲兵に案内されて入ったのは、犯罪を犯した人が一時的に収容される牢屋だった。


案内をしてくれた憲兵が言うには、キリクは捕まることを覚悟でブローチを盗んだようだった。

取り調べで、盗んだブローチを出すように言ったが、どこかに隠していて返そうとしない。

質店の店主はセイラとキリクの事情を知っていて、ブローチさえ返してくれたなら、被害はなかったことにすると言ってくれているそうだ。


他のならず者達が収容されている中で、一人、膝を抱えて蹲っているキリクを見つけた。


「キリク・・・どうして、どうしてそんなバカなことをしたの?」


セイラの声が震えている。


「姉ちゃん・・・俺のことはいいからさ。姉ちゃんはブローチを買い戻せるお金を貯めててくれよ。」


「いいわけないじゃない。

キリクがわたしを心配するように、私も貴方を心配しているのよ。

頑張ってみてダメだったら、私は大人しく男爵の愛人になるわ。

大丈夫よ。男爵はああ見えてきっと大切にしてくれるわ。」


「いやだ!俺がいやだ!

姉ちゃんがあの野郎の愛人になるくらいなら、俺が犯罪者になって鞭打ちでも何でも罰を食らった方がましだ!」


「キリク・・・お願いよ。

そんなこと言わないで。

ブローチをどこに隠したの?」


「・・・。」


キリクは頑なにブローチの在処を言おうとはしなかった。

刑罰を受けてでも姉を守ろうとするキリクの姿がとても痛ましい。


子供だから、貧しいから、貴族に逆らえないから、そんなキリクが出した結論が犯罪だった。


ああ、わたしも悠長に考えている暇なんてなかった。早く、あの方法を言ってみればよかったんだ。


わたしはセイラの人生を、セイラが望まずに今までと違う道を歩ませてしまうかも知れない、あの方法を提案してみることにした。


わたしはキリクの前から動こうとしないセイラの肩を抱き、「一緒に方法を考えましょう。」と一旦帰ることを促した。



 セイラの自宅へ着くと「どうしたらいいの。」と今にも泣きそうなセイラを椅子へ座らせた。

スーザンが気を利かせてお茶を淹れてくれてる。


「セイラさん、貴女がセイドナーク男爵の愛人にならずにブローチを取り戻す方法が一つだけあるの。」


セイラははっとわたしを見上げた。


「わたしね、本業の他にも、妖精を見ることができるのを生かした仕事をしているの。

でも、最近本業の方が忙しくて。

それでわたしの代わりになる人材が欲しかったの。

セイラさん、わたしの代わりにその仕事請け負ってみない?

了承してくれたなら、支度金としてブローチを取り戻せる金額を出すわ。

でもその代わり、この国を出てナディール王国まで来てもらうことになるし、商会の機密事項に関わる仕事だから、制約もある。

友達とも離れてしまうし、ご両親のお墓に来ることも難しくなるわ。」


「ほ、本当にブローチを取り戻せるの?それに、機密事項とか制約とか・・・危ない仕事なの?」


「直ぐにでも取り戻せるよう支度金は用意できる。

それに危ない仕事でもないわ。

ただ妖精が見えるということが機密事項だから、それを誰にも知られてはいけないの。

セイラがその気なら、商会長と会って一度詳しい話を聞いてみない?

決して悪いようにはしないわ。」


セイラはしばらく無言のまま考え込んだ。


「キリクを一人にできない・・・。」


「もちろん、キリクも一緒よ。

商会長なら、きっとキリクの仕事も用意してくれる。」


「・・・マリーさん、その商会長のお話、聞かせて下さい。宜しく・・・お願いします。」


キリクも一緒だという言葉が決め手となったのか、セイラは話を聞くことに前向きになった。

わたし達は明日工房の仕事を休むことにして、商会長を連れて来ることを約束し、ロックストーン城へと帰った。


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