153.提案
誤字脱字報告ありがとうございます!感謝です!
今日は休暇日。
昨日倒れたセイラが気になるので、お見舞いに行くことにした。
セイラの家からほどなく近い場所にある商店街で疲労回復ポーションを買う。
キリクもきっと無理をしているだろうから多めに買った。
それから市場へ行って果物をいくつか買って、そろそろセイラの家へ向かおうとした時だった。
市場の真ん中で、人だかりができているのを見つけた。
何事かと思い人だかりの中を潜り抜けると、男性の怒鳴り声が聞こえてきた。
「小僧!!てめぇ!!盗んだ物どこに隠しやがった!!出しやがれ!」
「うっ!がっ!!」
不穏な怒鳴り声を浴びせたられた相手は、まさかのキリクだった。
キリクは大柄の男に地面へ叩きつけられ、苦痛で顔を歪めていた。
「い、いやだ!!セイドナーク男爵なんかに渡してたまるものか!!」
ああ、キリクが・・・キリクが、ブローチを盗んだ。セイラが倒れてキリクも追い詰められたんだ。
「このくそガキ!!憲兵に突き出してやる!!来いっ!」
「くそっ!放せ!!金なら働いて必ず返すって言ってんだろ!!」
「黙れっ!!」
キリクが引きずられるように連れて行かれる。
わたし達は急ぎセイラの下へと向かった。
セイラの家へ着くと、昨日倒れたばかりだというのに、セイラは機を織っていた。
「セイラさん!キリクが!」
わたし達のただならぬ様子にセイラは不安げに瞳を揺らす。
わたしは先ほど市場で見たことを伝えると、顔を青くさせたセイラを連れて、憲兵の詰め所へと向かった。
詰め所で憲兵に案内されて入ったのは、犯罪を犯した人が一時的に収容される牢屋だった。
案内をしてくれた憲兵が言うには、キリクは捕まることを覚悟でブローチを盗んだようだった。
取り調べで、盗んだブローチを出すように言ったが、どこかに隠していて返そうとしない。
質店の店主はセイラとキリクの事情を知っていて、ブローチさえ返してくれたなら、被害はなかったことにすると言ってくれているそうだ。
他のならず者達が収容されている中で、一人、膝を抱えて蹲っているキリクを見つけた。
「キリク・・・どうして、どうしてそんなバカなことをしたの?」
セイラの声が震えている。
「姉ちゃん・・・俺のことはいいからさ。姉ちゃんはブローチを買い戻せるお金を貯めててくれよ。」
「いいわけないじゃない。
キリクがわたしを心配するように、私も貴方を心配しているのよ。
頑張ってみてダメだったら、私は大人しく男爵の愛人になるわ。
大丈夫よ。男爵はああ見えてきっと大切にしてくれるわ。」
「いやだ!俺がいやだ!
姉ちゃんがあの野郎の愛人になるくらいなら、俺が犯罪者になって鞭打ちでも何でも罰を食らった方がましだ!」
「キリク・・・お願いよ。
そんなこと言わないで。
ブローチをどこに隠したの?」
「・・・。」
キリクは頑なにブローチの在処を言おうとはしなかった。
刑罰を受けてでも姉を守ろうとするキリクの姿がとても痛ましい。
子供だから、貧しいから、貴族に逆らえないから、そんなキリクが出した結論が犯罪だった。
ああ、わたしも悠長に考えている暇なんてなかった。早く、あの方法を言ってみればよかったんだ。
わたしはセイラの人生を、セイラが望まずに今までと違う道を歩ませてしまうかも知れない、あの方法を提案してみることにした。
わたしはキリクの前から動こうとしないセイラの肩を抱き、「一緒に方法を考えましょう。」と一旦帰ることを促した。
セイラの自宅へ着くと「どうしたらいいの。」と今にも泣きそうなセイラを椅子へ座らせた。
スーザンが気を利かせてお茶を淹れてくれてる。
「セイラさん、貴女がセイドナーク男爵の愛人にならずにブローチを取り戻す方法が一つだけあるの。」
セイラははっとわたしを見上げた。
「わたしね、本業の他にも、妖精を見ることができるのを生かした仕事をしているの。
でも、最近本業の方が忙しくて。
それでわたしの代わりになる人材が欲しかったの。
セイラさん、わたしの代わりにその仕事請け負ってみない?
了承してくれたなら、支度金としてブローチを取り戻せる金額を出すわ。
でもその代わり、この国を出てナディール王国まで来てもらうことになるし、商会の機密事項に関わる仕事だから、制約もある。
友達とも離れてしまうし、ご両親のお墓に来ることも難しくなるわ。」
「ほ、本当にブローチを取り戻せるの?それに、機密事項とか制約とか・・・危ない仕事なの?」
「直ぐにでも取り戻せるよう支度金は用意できる。
それに危ない仕事でもないわ。
ただ妖精が見えるということが機密事項だから、それを誰にも知られてはいけないの。
セイラがその気なら、商会長と会って一度詳しい話を聞いてみない?
決して悪いようにはしないわ。」
セイラはしばらく無言のまま考え込んだ。
「キリクを一人にできない・・・。」
「もちろん、キリクも一緒よ。
商会長なら、きっとキリクの仕事も用意してくれる。」
「・・・マリーさん、その商会長のお話、聞かせて下さい。宜しく・・・お願いします。」
キリクも一緒だという言葉が決め手となったのか、セイラは話を聞くことに前向きになった。
わたし達は明日工房の仕事を休むことにして、商会長を連れて来ることを約束し、ロックストーン城へと帰った。




