144.セドリックにも手柄
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今日もいいことしたわー。
ホント、『緑肥』が知られていない世界で良かったわ。これであの畑の土が良くなるのは時間の問題ね。
わたしは王城に帰還して鼻歌交じりで廊下を歩いていた。
すると偶然、向こうからライオネル王太子と、第二王子のセドリック王子が歩いて来るのが見えた。
サラサラと艶やかな黒髪とエメラルドの瞳を持ったライオネル王太子と、国王と同じブロンドの髪に透き通るようなブルーの瞳をしたセドリック王子が並ぶ姿は大変見目麗しく、見ているだけでも得した気分になれる。
つい、ぼんやりと眺めてしまったが、挨拶しなくちゃ。と思い直して姿勢を正す。
「ご機嫌よう。ライオネル王太子殿下、セドリック王子殿下。」
「ああ、ご機嫌よう。
ここでもライと呼んでくれよ。
で、マリー、今帰りか?」
「はいライ。ただ今戻りました。」
「ご機嫌よう、マリーさん。僕のこともセドって呼んで。兄上ばかり仲良くなってずるいな。」
セドリック王子がちょっとだけ口を尖らせながら言った。少しだけあざとさを感じる二つ年下のセドリック王子は、成人前とはいえ、最近急激に身長も伸びかなり逞しくなってきた。
「ふふ。ありがとうございますセド。」
「マリー、ちょうど良かった。
今日はセドリックと夕食を摂る予定だったんだ。マリーも一緒にどうだ?」
「わたしもご一緒してよろしいのでしょうか?」
ちらりとセドリック王子を見やるとセドリック王子は嬉しそうに目を細めた。
「もちろん。大聖女様のお話、いろいろ聞かせて欲しいな。」
こうして王子二人の席に招かれて夕食をいただくことになった。
御身代の時と違って、大聖女となった今は、時々こうやって王族の方と食事をご一緒させていただいている。
主に大聖女としてどこでどのような活動をしたのかとか、どこの国はどのような様子だったのかとか、役に立ちそうな話から全く役に立ちそうにもない話まで、美味しい料理をいただきながら和やかな会話とともに報告している。
「マリーさんは今日はどちらまで?」
「今日はケルドニア国のボルドナ領まで行ってきました。
そこでは農地に上聖女の豊穣の祝福を繰り返し与えすぎて、土の養分が作物の方へ限界以上に吸われて、土地が痩せてしまうという現象が起きておりました。」
「ほう、してどのように解決を?」
「今回だけ特別に土に祝福を与えました。それで今期の小麦は問題なく育つと思いますが、来期からのためにクローバーでの『緑肥』を勧めておきました。」
「「『緑肥』とは?」って?」
「簡単に言いますと収穫後の畑に肥料となる植物を育て、種まき前のすき込みでその植物を一緒に土の中にすき込んでしまうことで肥料にすることです。
緑肥となる植物もクローバーの他にもレンゲやマリーゴールド、ひまわり、コスモスなどいろいろあります。
どの植物がどの農作物の緑肥に適しているか相性があるので育てる作物によって変えるのもいいかも知れません。」
「小麦にはクローバーがいいと?」
「ええ。他にも相性の良い植物があったような覚えがあるのですが・・・申し訳ありません。」
「いや、謝るようなことではない。
『緑肥』を知れただけでも有益だった。」
「・・・兄上、この件、僕に任せてもらえませんか?
僕が主導してこの緑肥を広め、農作物の収穫高を上げたいと思います。
そろそろ僕にも手柄を立てさせて下さい。」
「そうだな。
俺も他の仕事で忙しいからな。
この件は品種改良でご協力いただいたギルバート・モリアーティ氏に相談するといいだろう。」
「はい。そう致します。
マリーさん、後で『緑肥』についてもう少し詳しく聞かせてくれませんか?」
「ええ。お安い御用ですわ。」
「ところで、マリー、どうして『緑肥』などというものを知っている?」
うっ、一番聞かれたくないことをやはり聞かれたか・・・。前世が農家の娘でそれで知っていましたなんて言えるはずもないし。何て言ったらいいんだろ。
「えっと・・・わたし・・・大聖女なんで。」
「──ごまかし切れてないぞ。」
とライオネル殿下からなかなか鋭いツッコミをいただいたが、これ以上追求してくることはなく、胸を撫で下ろした。
夕食後のティータイムで、セドリック王子と緑肥についてわたしの知っていることは全てお話しした。
セドリック王子はクローバーを小麦畑の緑肥として全国の農地に広めつつ、どの植物がどの農作物に緑肥として適しているのかを研究していくつもりのようだった。
「ところでマリーさん、その知識はどこから?」
「それは・・・わたし、大聖女なんで。」
セドリック王子にも胡乱な目を向けられた。
あ、はい。ごまかし切れていないのは重々承知です・・・。
その後セドリック王子殿下は、この緑肥を熱心に研究され、多くの農作物に相性の良い緑肥を探し出した。
そして数年後にはセドリック王子殿下の努力が実り、この国の農作物の収穫高が増加することになる。
しかもその頃には『緑肥』という農法が、『セド農法』とか言う名前が付いて、多くの農家に知れ渡ることになっていった。
『ライ小麦』といい、『セド農法』といい、この国の王子は、自分の名前を残すのがお好きなようだ。




