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あたしも聖女をしております  作者: 斉藤加奈子
第二章

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134/231

134.最後の訪問

誤字脱字報告ありがとうございます!感謝です!

 わたしはエリックとテオと過ごす時間がとても好き。

気張らずに身分や上下関係、大聖女としての立場など全く関係のない、普通の女の子として過ごせる事がとても楽しい。

つい、自分が大聖女であることや男爵家の令嬢であることを忘れてしまいそうになる。


それを側仕えのメリッサは快く思っていないみたいで、時々、情を移し過ぎるなとかもっと相応しいお方が近くにいらっしゃるとかチクリチクリと言ってくる。

メリッサもあの二人のことは好きなのよ?でもわたしが過剰に仲良くなるのはいただけないとかなんとか・・・。


メリッサの言うことも分からなくもない。

でもエリック達は冬季以外はいろんな国や領地を巡って旅をしている旅芸人さんだ。もし会えたとしても年に数えるくらいしかないんじゃないかな。

そんなに神経質にならなくてもいいのにって思う。


因みにスーザンもわたしが時々エリック達に会いに行っているのは知ってる。

わたしにはソフィーア様から直々にかけていただいた有効期限なしの守りの祝福があるので、そう心配していないし、基本的に大聖女の行動、人間関係に誰も口出し出来ない(女神に対して行動や人間関係を縛ることは出来ないのと同じ)が原則なので何も言わない。

寧ろテオのためにいい教材のアドバイスをくれたり、巷で人気の手土産など教えてくれたりしてる。




 今日は久しぶりにエリック達のテントへやって来た。もちろんメリッサも一緒で、離れた場所にはロビンもいる。


 テオはプレゼントした絵本を気に入ってくれたらしく、繰り返し読んでくれているみたい。

素焼きの焼き物でできた貨幣のおもちゃのおかげでお金の計算も順調に出来るようになってきた。


 しかし一番覚えるのが早かったのは、木製の浅型のお皿をフリスビーとして扱うこと。


 二人(一人と一匹)は息ぴったりでフリスビーを投げては取ってを繰り返している。

テオはロッキーのタイミングに合わせて右へ左へ、上へ下へとフリスビーを投げ、ロッキーは風を切りながらどこか楽しそうにそれを追いかけている。


誰から教わったのか、片膝を上げて膝下からフリスビーを投げたり、背面で投げたり。


「す、凄いわ・・・テオってばこんなにも出来る子だったの・・・?」


「実に感心致しました。真面目に練習をされたのでしょう。」


「凄いだろう?俺も驚いている。

勉強そっちのけで皿投げばかり暗くなるまでやってたからな。もう少し練習すれば舞台に出せるんじゃないかって団長も言ってくれてるんだ。」


テオは最後に両手を広げて、フリスビーの円の縁を転がして左腕から肩を伝って右腕へと走らせていた。


なっ!なんて器用な!!


しかしそれは、右腕を渡りきる前に肩から転がり落ちてしまいロッキーも取り損ねてしまう。


「くそー!失敗したー!!」


テオは悔しがってその場に座り込んでいるけど、とても上手だった。多少の失敗はご愛嬌でお客様の前に出ても恥ずかしくないくらいだと思う。元気良く舞台の上で芸を披露するテオとロッキーの姿をまた見に行きたい。


「テオ!とっても素敵よ!

短い期間でよくここまで出来るようになったわね!」


「でもさいご失敗した!

マリーにかっこいいとこ見せたかったのに!!」


「とってもかっこ良かったわ!ロッキーもよ!」


「そ、そうか?てへへへへっ。」

「わふっ!!」


褒めてあげるとテオは早速機嫌を直した。そんな素直なところが可愛いんだ。


 その後はいつものおやつタイム。

今日のおやつは『大聖女カステラ』だ。

ランタナ市場を視察に行った時に見つけた、丸い形の一口サイズのカステラ。

素朴で甘さ控えめなカステラだけど、ミルクティーとよく合う、一度食べ出したら止まらない美味しさがある。


みんなで『大聖女カステラ』を堪能していると、エリックが話しかけてきた。


「なぁ、マリー。

マリーは新しい大聖女様にお会いしたことはあるのか?」


「え?」


一瞬うろたえてしまったが、そうだった。今のわたしは正体を隠していて、大神殿で働く職員の一人ということになっていた。


「えっと、遠くからなら・・・。」


「へぇ、どんなお人なの?」


「遠くてよく見えなかったけどブロンドの髪にエメラルドの瞳をした可愛くて美しいお方よ。」


わたしは笑顔で答える。

メリッサがゴホンと咳払いをしたような気がしたけど無視だ。


「あの・・・さ、」


エリックが何かを言い淀んだ。


「はい。」


「今度の休暇日、大聖女の譲位式の日だろ?公演はお休みだから新しい大聖女様のパレードを見に行くんだ。

その・・・マリーも一緒に行かないか?」


エリックは合わせていた目を逸らした。心なしか耳が赤い。そんな照れながら言われたらこっちも恥ずかしくなってしまう。


「マリーも新しい大聖女さま見に行こーぜー。」


「わふっ。」


行きたい・・・。すっごく行きたい。

この人達と一緒に煌びやかで、華やかで、お祭り騒ぎのパレードを一緒に見に行きたい。

エリックのお誘いが凄く嬉しい。

「行く!」と声を大にして言いたい。


だけど残念ながらその大聖女の譲位式とパレードに出なくちゃいけないのはこのわたしだ。


「その日は・・・忙しくて・・・。」


「だよな。大神殿の関係者なら忙しいよな。ダメもとで言ってみたんだ。悪い・・・。」


「ううん。誘ってくれてありがとう。」


「パレードの次の日・・・俺等、ナディール王国に帰るよ。」


「え・・・もう、会えないの?」


いつか別れが来るのは分かっていたけど、いざそれを告げられると置いてきぼりにされた気持ちになる。

心の中に咲いていた花が一気に萎れていく感じだ。


「そんな寂しそうな顔するなよ。

マリーもナディール王国の出身なんだろ?

俺等、冬季はナディール王国の王都にずっと滞在しているし、春祭りや建国記念日の祭りにはあちこちで公演をやっている。アデル聖国にも来年の収穫祭の頃にはまた来るから。

また会えるよ。」


「そ、そうよね。

わたしもこっちで見習い期間が終わったらナディール王国へ帰るつもりなの。

あっちでも会えるわよね。」


「ああ、会えるさ。」


わたし達は笑顔でまた会うことを誓い合った。

エリック達は、パレードの翌日の朝には出立する。

ナディール王国へ帰るには大神殿の前を東西に走る街道を必ず通り、国境を越えることになる。

わたしは必ず見送ると約束をして、最後の訪問を終えた。


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