133.ボンボニエール?
誤字脱字報告ありがとうございます!感謝です!
今日も一日、ソフィーア様に付いて大聖女候補としてのお勤めを果たした。
そして一日の終わりにライオネル王太子への報告と、リカルド様のドキドキ健康診断を受ける。
こんなに毎日熱を計ったりバイタルチェックを受けたりする必要なんて全くないと思うけど、リカルド様は頑として必要だと言う。
エーデル山での修業で、採取した木の実や果物を山の動物達に与えていたせいで痩せてしまった体型も戻りつつある。
毎日三食きちんといただいているからね。
おかげで貧血も改善された。
「調子は良さそうだね。」
「はい。おかげさまで立ちくらみも無くなりました。」
「今日はいい知らせがあるんだ。
腹痛の丸薬、よく腹を下す配下の者に試させていたんだけど、報告書がようやく届いたよ。
マリーも読んでみるかい?」
「はい、読みたいです。」
リカルド様から十枚ほどの書類を受け取った。
わたしはエーデル山で修業の合間に、ブナの木から腹痛に効く成分を見つけていて、それを抽出し数種類の薬草と練り合わせ、正露〇と同じような丸薬を開発していた。
リカルド様にはサンプルを渡していて、糖衣に加工することと、実際に服用した感想などをお願いしていたのだ。
受け取った十枚ほどの書類にはお腹が痛くなった日、時間、服用した感想、丸薬の効果が現れるまでの時間、効果の程度など事細かに記載されていた。
効果の程度はわたしが前世で服用した時の感じと全く同じで問題ないようだ。
ただあの独特の匂いと、あまり美しくない見た目が気になるようで糖衣錠にしたほうが貴族に受け入れられるのではないかという言葉で締めくくられていた。
しかしこの報告書を作成してくれた人、ちょっとお腹壊し過ぎじゃない?
リカルド様の部下で、いつも顔色の悪い痩身の男性を思い出す。
どんだけストレス抱えて仕事をしているんだと同情してしまう。
「効果に問題ないようで良かったです。」
「さすがだね。
マリーの開発する物に間違いはないよ。
それで糖衣の件だけど、公爵家お抱えのお菓子職人に頼んで、出来上がった物がこれだよ。」
リカルド様が診察机として使っている机の引き出しから磁器製の容器を取り出した。
手のひらに収まる大きさで、コロンと丸みを帯びた形。色は白く、可愛らしい花の紋様が絵付けされていた。
「わあ、かわいい♡」
あまりの可愛らしさに思わず頬が緩む。これを目にしたら多くの女子は同じ様に頬を緩ませると思う。そのくらい可愛い。
リカルド様がパカリと蓋を開けた。
中には淡いピンクや淡い水色、淡い黄色のパステルカラーに彩られた小さな粒が入っていた。
それはまるで砂糖菓子やラムネのようで可愛いし綺麗だし、とても正露〇には見えなかった。
「とてもかわいいです。これわたしも欲しいくらいです。」
「マリーにも気に入ってもらえると思ったんだ。どうかな?こんな感じで貴族に売りだすのは。」
まるでキャンディや砂糖菓子を入れる容器で有名なボンボニエールだ。
薬には見えないし、部屋に飾っておきたいくらいに可愛い。
しかし、わたしはあることに気が付く。
「リカ、とっても素敵なんですけど子供が間違えて口にしてしまいそうです。
残念ですけどこれでは・・・。」
「そうか・・・そうだね。薬を扱う者として誤飲させてしまう商品は不味いね・・・。」
リカルド様の眉尻が下がりシュンとしてしまった。
リカルド様のそんな表情初めて見るのでちょっとだけ罪悪感。
「あっ!でもオシャレな文字で『これは薬です』って表記して、お客様にはお子様の手に届かない場所に保管していただくよう、充分な説明をするのはどうでしょう?!」
わたしの一言で計画中止になるにはあまりにも忍びない。
それに少し誤飲したところで大きな問題は起こらないはずだ。
「それはいいね!そうしよう。
他には何かアイディアはあるかい?」
リカルド様はぱっと表情を明るくして聞いてきたので一つ提案をしてみた。
マッチ箱のような容器で、スライドさせると数粒取り出せるようなピルケースを提案した。そう、あのスースーする錠剤のケースだ。
金物細工でピルケースを作り、男性貴族にも受け入れられるようなデザインにする。
ケースを薄く彫ったり、裏から叩いて凹凸を付けたりして、紋章などの絵を施す。そんな感じで男性貴族が持っていてもおしゃれに見えるものにした。
リカルド様も腹痛には滅多にならないけど、これなら自分も持っていたいと言ってくれた。
これで貴族向けの腹痛の丸薬のデザインが決まった。
わたしとしては全ての人の家庭の常備薬となって欲しいので、安価で手に入れられるようにしたい。庶民向けのものは糖衣じゃなくてもいいし、容器も茶色の小瓶でいい。
でもそうするためには、ブナの木からの抽出物を効率良く、大量に生産しなくちゃいけないらしく、その抽出物の蒸留も大きな設備にして生産体制が整わなければ無理だということだった。
それまでは少量の生産で貴族を中心に販売していくことになった。
そこで気になるのは設備の資金の工面だった。
「リカ、かなりの資金が必要になるんじゃないですか?」
「大丈夫、マリーにはかなり儲けさせて貰っているから。
それにいきなり大がかりな設備にはしないよ。
病気や怪我をしたらポーションを服用するのが当たり前の世間で、この丸薬というものがどれだけ受け入れられるかわからないからね。
様子を見ながら生産を増やしていくよ。まあ、新しもの好きな貴族には間違いなく受け入れられる。」
「良かったです。リカに色々と丸投げですみません。」
「何を言うんだい。僕の方こそ、こんなに楽しく商会運営をさせてもらって有り難く思ってる。
これからも遠慮なく何でも言って。」
「はい。ありがとうございます。」
資金が必要だったら、わたしの貯金を出そうと思っていたけど、その必要はなさそうだ。
「わたしが大聖女になったら、この腹痛の丸薬、人に勧めたら広まるかしら?」
「ちょっ、ちょっと待って。
それはリカルド商会にとって大聖女様のお墨付きを頂けるから有り難いけど、需要が爆発的に増えて価格が急騰するよ?」
「それも・・そうです、ね。」
価格が急騰して庶民には手の出ない代物になってしまえば本末転倒だ。
わたしはいつも通りリカルド様任せにして、おとなしく引っ込んでおこう。
リカルド様とは今後の売り出し方についての話し合いをした後、腹痛の丸薬の生産体制が整い次第工場見学させて貰う約束をして、わたしは部屋へと帰った。




