117.守りの祝福
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お昼の休憩を挟んで、また小礼拝室に来た。今から教わるのは守りの祝福のかけ方だ。室内には四つ椅子が用意され、ソフィーア様とロザンナ様、わたしとスーザンが並んで向かい合って座った。
今から教わる守りの祝福も大聖女だけが持つ特別な能力で、危険から身を守るもの。
大聖女の重要な役目として③世界各国の王と王妃に守りの祝福をかける(ナディル帝国を除く)というものがあるけど、これは祝福を受けた王と王妃だけでなく、神殿側としてもメリットがあるものだった。
そのメリットというのは王と王妃に守りの祝福をかけることにより、その国からの宗教への支持を得ることができる。それとともに宗教弾圧なども防ぐことにも繋がるんだって。
そして王と王妃に守りの祝福をかける本来の目的は、政変や暗殺を防止するためだった。
政変が起きたらただの王族の揉め事では済まなくなる。国内で起こる戦になって、関係のない民衆が否応なしに巻き込まれて、多くの悲劇を生む。それを無くすために少しでも長く安定した治政を行ってもらうためだった。
ただの大聖女からのサービスではなかった。まあ、そういう理由かなぁ。とは何となく分かっていたけど。
だけど、王と王妃に守りの祝福をかけるのにも二つの条件があった。
ひとつは、守りの祝福は二年に一度かけなおすこと。
つまりはこちらとしては二年で効力が切れる守りの祝福をかけている。
何故かと言うと、その王が長期間善政を敷き続けるとは限らないからだって。
民のための努力を怠る王と王妃には、守りの祝福を拒むこともあるということだ。
その判断のためにもアディーレ大神殿には、各国の情勢を収集する白の神官が多く在籍している。
そして二つ目の条件が、守りの祝福をかけるかどうかは大聖女の心次第であるということ。
現在、守りの祝福をかけていない王と王妃はナディル帝国だけ。それは現在だけでなく、過去に一度もナディル帝国の王と王妃には、守りの祝福をかけたことがなかった。
当代の大聖女も、先代、先々代そのずっと前の代も、ナディル帝国の王と王妃には守りの祝福をかけてこなかった。
何故かというと「軍国主義の帝国の王とは合わなかったから」と簡単な理由が記録されているだけだった。
既にわたしも守りの祝福をしてあげるつもりはないけど。
あと、あまりにも高齢になった王と王妃にも守りの祝福を拒否することがあるらしい。
それってそろそろ引退しようよ、って引導を渡してるよね。
こんな感じで守りの祝福はけっこう責任重大だった。
「最初は基本形の危険から身を守るための祝福のかけ方からいきましょう。
私が一度やって見せますから、よく見ていて下さい。
自分の中にある女神と通じている道を開きます──神気を練って──はいっ。」
そう言ってソフィーア様はわたしに手のひらを向けて練った神気を纏わせた。
目を凝らすとわたしの周りに薄いベールを纏ったようなふんわりとした優しい空間ができていた。これが守りの祝福か・・・。
うん。何となく分かった。
「さあ、貴女も試しにやってご覧なさい。」
「はい。」
わたしの中にある女神と通じている道をぐぃーっと開く。そこから神気を引き寄せて手の上で練る。それを守りたい人・・・隣に座るスーザンにサッと纏わせた。
スーザンは紫水晶のような瞳をぱちくりと見開いて驚いている。まさか自分が守りの祝福をかけられると思っていなかったみたい。
ふふ。クールな美女が驚いている顔は見ていて楽しい。
「あら、初めてなのによくできていますよ。」
「マリエッタ様の初めての守りの祝福を頂けてよかったですね。」
「わたしの代わりに危険な目に二度と遭わせたくなかったのです。」
「あ、あの、私に・・・こんな・・・あ、ありがとうございます・・・。」
スーザンが徐々に顔を崩し泣きそうなのに泣くのを堪える子供のような表情を浮かべた。
スーザンってばこんな顔もするんだ。
それを見てソフィーア様とロザンナ様は優しく微笑んでいた。
守りの祝福は危険から身を守るだけでなく、雨や風、暑さや寒さからも守る祝福のかけ方があったり、水晶玉に込めたり、建物や土地など範囲を指定したりすることもできる。
有効期限を設ける事もできるし、半永久的に効力が持続するようにもできる。
その辺の複雑な守りの祝福はまた後日教わるとして、今日のところはこれで終了した。




