105.導きの錫杖
昨日は貧血と寝不足のせいで立ちくらみをしてしまい、リカルド様にベッドまで運んでもらうという大失態をしてしまった。
そしてそのまま気を失うように眠ってしまい、朝を迎えた。
よく眠ったせいかな。だいぶスッキリしている。
窓の外を見れば、スッキリと澄み切った青空もとても気持ちがいい。
朝食をいただいた後は装備を整えてエーデル山の頂上を目指す。
朝は肌寒いくらいだったけど、日が高くなるにつれて気温が上がり今は少しだけ熱い。
貧血のせいだろうか。
息切れもするし、疲れたので途中で少し休むことにした。
休憩場所として選んだのは山の中腹辺りで、いつも動物達に餌を与えている場所だ。
わたしは倒木に腰を下ろすと、革水筒の水で喉を潤した。
今日はいい天気だ。
赤や黄色、茶色に色を変えた木々の葉が、秋の風にそよそよと揺れ、澄んだ青空に映えてとても美しく見える。
ふと、見上げたところに熟した柿の実を見つけた。
鳥につつかれた様子もないので、いただいてしまおうと背伸びをし思い切り手を伸ばした。
あ・・・まずい・・・。
急に立ち上がったせいで立ちくらみがする。
その瞬間、目の前が暗転し意識を失った。
どのくらいの時間が経ったのだろうか?意識を戻した時は、わたしはふかふかな落ち葉の上だった。
あったかい・・・。
落ち葉は意外と温かくてお日様の匂いがする。このまま眠ってしまいたいくらいだ。
目の前には、ドングリのちっちゃな山があった。その側でリスがキュキュッ?と首を傾げながら小さく鳴いた。
ああ、倒れたわたしを心配して餌を分けてくれたんだ。
これから来る冬に備えるための貴重な食料なのに・・・申し訳ないな。
後でお礼にたっぷりと餌を用意しなければ。
そしてわたしはゆっくりと体を起こし自分が倒れ込んだ落ち葉を眺める。
なんだろう?
地面から、何か白くてキラキラしたものが立ち昇っている。
わたしは立ちくらみしないように注意しながらゆっくりと立ち上がった。
ふと周囲を見渡すと、この世界が輝いていた。小さなキラキラが天から、木から、花から、土から、ありとあらゆる物から放出されている。
それは様々な色をした光の粒で、地に降り注ぎ、植物が吸い上げ、葉から放出され、風に乗り、天へと昇る。
その光の粒は山の自然を循環しているように見えた。いや、山だけでなく、この世界を循環している。
わたしは大自然の理を目にしているように思えた。それと同時にある確信を得た。
この研ぎ澄まされた感覚。
目に見える大自然のエネルギーの循環。
今ならきっと女神から神器を授かれる。
わたしは一歩一歩足を踏みしめ、祠を目指して再び山を登り始めた。
山頂に辿り着くと、祠はドーム状の空間に守られていて、薄らと白い光を放っていた。
ああ、わたしは今までこの祠が守りの祝福で守られていることも、女神と繋がっている故に白い光を放っていることも見えていなかったのか・・・。
この祠がとても特別な場所であることを肌で感じながら、祠の前で跪いた。
「我らが唯一神で在らせられる女神
セディア神よ
我は御前で忠誠を誓う者なり
この清く穢れなき魂を以て祈り奉る我に
神の加護と祝福を賜らん」
わたしは祈る。
女神よ、わたしに神器をお授け下さい・・・。
すると突然、目を閉じているのに眩しい光を感じた。時間にするとたった数秒間だけど、目を開けられないほど眩しい。
光が収まったと感じると、ゆっくりと目を開けた。
すると祠の女神像の手前、段になっているところに一本の錫杖が置いてあった。
「『導きの錫杖』・・・?」
導きの錫杖・・・それは、人々に道を標し導くという神器。
女神よ、わたしに人々に道を標し導けと仰るのでしょうか?
わたしが人々を導くだなんて、そんなことできるのだろうか?
そもそも人生とか、生き方とか、わたしでさえもはっきりとしたことが分かっていないのに。
若干の不安を感じながら、わたしは目の前の壇上に置かれている錫杖におそるおそる手を伸ばす。
材質は分からないけど、銀色の金属製で、私の身長より少し長い。
装飾のある先端には、六つの輪っかが通されていた。
これ、ソフィーア様が『教えの教本』を出したり消したりしていたように、わたしも出し入れできるのだろうか?
試しに消えろと念じてみる。
すると握っていた錫杖がパッと姿を消した。
わぁ、わたしにもできた。
どういう摂理なのか全く分からないけどこれは便利。
そして召喚してみる。
「『錫杖』」
わたしの右手にパッと現れた。
うおおおおっ。凄い。
わたしは嬉しくなって、しばらく錫杖を出したり消したりを繰り返して遊んでいた。
わたしはもう一度祠の前に跪き、女神に感謝の気持ちを捧げた後、その場から去った。
最後になるであろう採集をして、動物達にお別れの挨拶をしながらたっぷり餌やりをする。
「ほーら、大聖女様からのご飯ですよー。」
カットした柿や林檎をポーイ。
「今までありがとう、今日が最後でーす。」
クルミやドングリをポーイ。
わたしの言っていることが分かっているのかどうなのか・・・本日の動物達の集まりは大盛況だった。
「またいつか、会いに来るからね。」
そう言い残して、食べることに夢中になっている動物達を尻目にその場を去った。
その後、いつも通り沢の近くで休憩をすると、錫杖を杖として使いながら下山した。
錫杖をシャランシャランと鳴らしながら山を下ると、登山道の出入口まで辿り着いた。
そこに意外な人達が待っていた。
マーサ、ベン、スーザン、シャルロッテ、ライオネル殿下、リカルド様、メリッサ、ロビン。
皆勢揃いで、こちらを見ても何も言わない。
ああそっか。わたし、気を失ったりしていたからいつもより下山が遅かったせいで心配かけたのね。
「遅くなって心配をかけました。今、戻りました。」
「マ、マリエッタ様、それは、まさか、『導きの錫杖』では?」
最初に口を開いたのはスーザンだった。
「そのようです。祠で授かりました。」
わたしのその一言で、その場にいた人全員が一同に跪く。
「マリエッタ様、女神から神器を授かりましたことを、心から歓び申し上げます。」
スーザンがより一層頭を低くした。
ここは、かっこつけて皆に感謝を述べるところだよね。
「皆様のおかげで、ようやく神器を授かることが叶いました。
皆様に感謝申し上げます。」
少し丁寧に感謝の言葉を述べると皆、笑顔を見せてくれた。
そして山荘に戻るとわたしに向かって言いたい放題だった。
「記録によると歴代大聖女の中で、マリエッタ様が最も時間がかかりました。」(ス)
「そんなにお痩せになって、好き嫌いをなさったのですか?だからひと月以上かかったのでしょうか?」(メ)
「深夜まで変なことに夢中になっているからですよ。」(マ)
「せっかく俺が熊や鹿の仕留め方を伝授してやったのに。」(ラ)
「それ、こっそりどこかから持って来た物ではないよね?」(リ)
「もうっ!皆ちょっと言いたい放題じゃないですか?!もう、神器を見せてあげません!」
わたしは錫杖に「消えろ」と念じて見えないようにする。
「「「おおー!!」」」
なぜが歓声が起きた。
「もう一回見せてくれ。」(ラ)
「まあっ!どこへ?もう一回見せて下さいな!」(マ)
「マリー、僕も是非に見たい。」(リ)
「んもう、仕方がないなぁ。一回だけですよ?『錫杖』」
「「「おおー!!」」」
何故が錫杖を出したり消したりすると皆が喜ぶので、しばらく調子に乗っていた。
エーデル山での修業はこれで終了だけど、神殿からの護衛がシャルロッテしかいないので、明日、護衛を増やして神殿へ戻ることとなった。
夜にはマーサが夕食に招待してくれた。マーサ特製のポトフは最高だった。




