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あたしも聖女をしております  作者: 斉藤加奈子
第二章

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103/231

103.あの丸薬

 ここエーデル山は、豊富な種類の植物が自生している。薬草もたくさん見かけた。

しかも、妖精もあちこちにいたのでとても品質のいいポーションが作れそうだった。設備が足りないので作らないけどね。


 そしてわたしはある樹木の前に立っている。この木はブナかな?よく見かける木だ。

この木から、とても懐かしい匂いというか、成分が含まれている気配がする。

なんと言うか・・・独特の薬っぽい匂いというか、前世で家の薬箱に必ず入っていたあの薬の匂い・・・。


うーん、なんだったっけ、思い出すのはオレンジの箱にラッパのマーク・・・。

うーん・・・。


!!


あれだ!お腹が痛い時によく飲んだあの丸薬だ!!


わっ!懐かしい!この匂い!

どうしよっかな。ちょっと挑戦してみようかな・・・。

よし!あの懐かしの丸薬を作ってみよう!


わたしはとりあえずこの木の枝をひとつ折ると、この懐かしい匂いがする成分を抽出する方法を考えることにした。




 わたしは山荘の一室、アトリエにこもった。

どうしたらこの木の中の成分を抽出できるのかいろいろ試す。


ブナの枝を細かく切る。

それを細かく砕く。


水に浸してみる。

必要な成分は全く出てこない。


それを火にかけて煮出してみる。

全然だめ。


オイル漬けやアルコール漬けにしてみる。何も変わらず。


水や油、アルコールに漬けた物をそれぞれすり鉢で時間をかけて繊維状になるまで練ってみても、ダメだった。


何日かはブナの木片から腹痛に効く成分をどうしたら抽出できるかを試行錯誤したりして、夜の一人の時間を過ごしていた。







 ここに来て十日が過ぎた。

相変わらず、祠で祈りを捧げても未だ神器は授からないまま。


そして日課となった動物達への餌やりもだいぶ慣れた。


最近、栗が熟してきたようでイガに入ったままの栗が落ちている。

イガに入っているおかげか、動物達はあまり食べないようだった。

わたしは動物達に強奪されないことが嬉しくて、イガに入ったままの栗を採集した。


栗はたくさん持ち帰ることができて、マーサにも分けてあげることにした。


「おやまあ、栗も食べ頃になりましたか。ちょっと裏庭のかまどで焼いてみますか。」


マーサと裏庭の方へ行くと、そこには薪割場や薪や道具を保管する倉庫、そしてレンガを積んで鉄板を渡しただけの簡単なかまどがあった。

マーサは倉庫から薪の束を持って来るとかまどの下の段へ山形に組み火を付けた。


「ほらほら、お嬢様、火が回るまでに栗をイガから出してしまいますよ。」


そう言ってイガを器用に足で踏み広げて、さっと栗だけ拾うと、鉄板の上に置いた。わたしもマーサのまねをして栗をイガから出す。

残ったイガは火に焼べた。

鉄板に充分な熱が行き渡ったころには全て栗を出し終えた。


マーサが火かき棒で栗を転がしながら煎る。丁寧に栗を転がし続けると徐々に甘い、いい香りがしてきた。


その様子をぼーっと眺めていたわたしは、ある物に目が釘付けになった。

燃やしている薪の煙の中に、わたしの求めている腹痛に効く成分が含まれている気がするのだ!


「マーサ・・・今燃やしている薪は何の木?」


「薪は・・・ナラ、ブナ、ケヤキ辺りだと思いますけどねぇ。」


やっぱり!ブナの木だ!

燃やすことによって成分が出てくるのね!


でも・・・どうやって煙の中の成分を集めたらいいの?


「ねぇ、マーサ、どうしたらこの煙を集めることができるかしら?」


「煙ですか?

お嬢様は面白い事を仰いますねぇ。

煙は捕まえることができませんからねぇ。まぁ、でも煙を使って燻製を作ったりしますからできるかも知れませんねぇ。そろそろ川を遡上してきたシャケの燻製を作る時期ですから────。

もちろん鶏肉の燻製も美味しいんですけどチーズを燻製にしたものなんかは貴族に人気で───。」


───燻製!


それよ!燻製よ!マーサありがとう!燻製機に煙を通す長い管を付けて、その先に煙の成分を受け止める器を付けた物を作ればいいんじゃないかしら!


停滞していた腹痛に効く成分の抽出の、解決の糸口を見つけて俄然やる気が出てきた。


焼き上がった栗は、軍手をはめて熱々のままいただいた。

貴族の令嬢としてははしたないのは分かっているけど、前世で焚き火で芋を焼いて食べたことを思い出し、懐かしい気持ちになった。

焼きたての栗はほくほくで、とても美味しかった。


 焼き栗を五つほどいただくと、残りはシロップ漬けにしてくれると言うのでお願いすることにした。


 その後スーザンやライオネル殿下達がお見えになった時、リカルド様の健診タイムにこっそりと相談してみた。

腹痛用の丸薬を開発するため、ブナの木の煙の成分を集める機器が欲しいと。

するとリカルド様は快く協力すると言ってくれたので、図解入りのメモを渡して煙を集めるための燻製機を依頼した。

まあ、薫製機に煙突を付けて、それを横に伸ばして煙の成分を受け止める壺を取り付けただけのものだけと。


リカルド様は直ぐさま手配をしてくれて、三日後には希望通りの燻製機が裏庭に設置された。


因みにブナの薪は、マーサの夫のベンが用意をしてくれたので、順調に実験に取りかかることができた。




 山から戻った後の、空いた時間はほとんどブナの薪を焚いていた。

抽出物は思うように集まらず、たくさんの薪を焚いても取れる量は僅かだった。

時々薪を焼べるくらいならとマーサとベンも手伝ってくれて、一週間かけてようやく、コップ一杯分の抽出物を集めることができた。


 コップ一杯分の抽出物は、焦げ茶色をした粘り気の強い、ドロリとしたものだった。


確かに腹痛に効く成分が含まれているけど、すすなどの不純物や不要な成分がたくさん混じっている。


粘度が高いせいでろ過は不向きだったので、どうしたら腹痛に効く成分だけを取り出せるかしばし悩んだ。


「蒸留してみようかな・・・。」


蒸留器もここにはない物なので、リカルド様にこっそり準備してもらった。


 ライオネル殿下はわたしが何か作っているのも、リカルド様に何か協力して貰っていることも薄々気が付いているみたいだった。

でもリカルド様には、「誰にも秘密にして欲しい。成功しても、失敗しても、全面的に支援するから。」と言われている。


今まで開発したポーションについてわたしの希望通りの運用をしてくれているリカルド様にはとても感謝している。

それにわたしの開発したポーションが全国に普及したのはリカルド様のおかげだ。


だからリカルド様に従って、わたしが何をしようとしているのかを誰かに言うつもりはない。

ライオネル殿下には申し訳ないけど、わたしが何をしているのか秘密にさせてもらった。


「マリー、其方はリカには相談して俺のことは頼ってはくれないのか。」


そう寂しそうに訴えかけられた。

少しの罪悪感と申し訳なさで、ズキリ・・・と心が痛んだ。


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