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「もしかして2人とも実況やってます!?」
「お、知ってるじゃねえか。Gaweekでやってるぞ。」
Gaweekというのは海外の会社が作ったゲーム専用のSNSで、通常のSNSのようなつぶやきやフォロー機能等に加え、お気に入りのゲームを登録して実況や攻略情報を複数人でまとめることができる。今では他のSNS上でゲームの話をすることがなくなるほどの絶大な人気を世界各地で誇っている。
「いつも見させていただいてます!めちゃくちゃ好きです!」
と興奮のあまり声量を上げてしまう。
「おお、嬉しいの。」
と、答えるあるてぃめっとさむらいは、RPGなどの戦闘系VRを実況しており、数年前にあげた「巌流島の高速周回」という動画が海外の実況者に紹介されて一躍有名になった。タイトルにある巌流島は、日本の会社が作った「サムライ」というVRゲームの裏ステージで、最高難易度と称されるほどのものでありながらそれをやすやすと周回する強さに憧れてファンになる人もいた。
「もうそろそろその変な喋り方やめろ。」
とあるてぃめっとさむらいをdisるGunDonは元FPSプロプレイヤーだったが、実況者に憧れて転向した人物だった。最初の頃は苦労するも、日本1位に一度上り詰めた圧倒的なPSは衰えることを見せず、着実に視聴者を増やして人気を獲得した。
「うるさいのぉ。このゲームの間は口調を変えて雰囲気を楽しみたいん、、、」
「そのくせ『じゃ』は使わないのキモいしな、」
「『じゃ』はなんかキモいから使いたくないんのぉ」
と話す2人。その会話に割り込み、
「てか、そろそろ街戻りません?」
「おう、そうだな。」
「いいの。」
と了解した2人を力任せにクレーターから地上に引き上げて、2人と街に足を向けるのだった。
街に行く間に街について色々2人に聞く。2人は特殊ジョブについて教えたことがよかったのかスラスラと教えててくれた。
鍛冶屋、服屋や冒険者ギルドに加えて、ポーションはどこで買うことができるのかなど、色々聞くことがあった。
鍛冶屋、服屋については大手のところを紹介してもらい、冒険者ギルドでのクエストの受け方、ドロップ品の売り方やポーションの売り方などに加え、ドロップ品のレア度を教えてもらう。ドロップ品のレア度はLUK値によって変わるが、AIに任せている人はレベルアップするたびに1上がる程度なので、大概の人のドロップは変わらない。
「てかお前さん本当に街について全く知らないな。」
「いやー初日に北の森で迷ってしまいまして、、、。3日目に3匹目のボス倒してようやく神殿に転移できたんですよ。」
「お前よく生きてたなおい。」
「いやー本当にそう思います。」
「北の森のレイドボスというと、ブラッドウルフにホーンラビット、後はビッグボアかの。ブラッドウルフに勝ったのか!よう勝てたの。初期討伐報酬は手に入ったか?」
「ええ、まあ。他のボスは誰が倒したか知ってます?」
「ホーンラビットは勇者の誓いが、ビッグボアは鉄酔さんが初討伐だったらしいぜ。南の森はコボルトリーダーは俺、ゴブリンリーダーはこいつが、残るポイズンスライムはお姫様パーティーが倒してやがった。」
勇者の誓いはスマホ版で目立っていたギルドの1つだ。勇者という特殊ジョブについた現実でモデルをやっている「優希」という名前のプレイヤーを中心に囲いの女たちが入ったギルドである。本人の性格は悪くないのだが、囲いの女たちがとにかくうざくかったため、妬みも混じって嫌われていた。
鉄酔さんは勇者の違いとは対照的にみんなから慕われている男性である。自分が見つけた狩場や、特殊ジョブの条件をGaweekで呟いたり、太陽の塔以外のゲームについても呟くので、多方面でそこそこ有名な人である。初心者にも優しかったり、「鉄酔の育成教室」という名目でいろんな人とパーティーを組み、コツや裏技、立ち回りを伝授してくれる素晴らしい人だった。しかし、あまりに会社員にしては長い時間プレイするため、実はニートではないかと囁かれている。
そして、最後に名前が上がったお姫様パーティーというのは「みーちゃん」という名前の女性実況者とその囲いのオタクたちによるパーティーの呼び名である。実際みーちゃんという実況者は可愛く、地下アイドルのような声のため実況はそれなりに人気があり、その中でも熱烈なファンが自主的にみーちゃんを囲ってお姫様プレイをし、特殊ジョブやレアな装備を捧げている。それだけを聞くとみーちゃんは何にもしていないように思うが、ヒーラーとしての腕は太陽の塔では3本指に数えられるほどで、太陽の塔熟練者のプレイヤーが多かったファンたちと組むパーティーは相当強かった。何より、「勇者の誓い」の囲いの女たちよりも圧倒的にマナーが良く、狩場を譲ってくれたり初心者に教える姿はGaweekで話題となった。「勇者の誓い」の囲いの女がみーちゃんを馬鹿にして対立が起きたりもしたが、なにかと周りのプレイヤーがお姫様パーティーに味方するため、それなりの好感度はあるということは覚えていてほしい。
「へーそこらへんの人たちちゃんとやってるんですね。てか、初討伐報酬はなんだったですか?」
「俺のコボルトリーダーはそこそこの大剣落としたから売ったぜ。」
「儂は鬼の心得じゃった。」
「え!?めちゃくちゃいいじゃないですか!?」
〜の心得という本はその種族になることができ、アバターが変更されステータスがその種族の特徴に変化する。完全にプレイヤースタイルが決定してしまうが、それにあった特性を手に入れられるため人気のアイテムだった。
「んー鬼だからのう。あれは脳筋すぎやし、VITが上がってAGIが下がるのはいただけないのお。」
とあるてぃめっとさむらいはいう。鬼自体は強いのだが、VITよりもAGI優先の侍には向いていないのだ。正直いらないなら俺が使いたいくらいだ。
「それでお前さんの初討伐報酬はなんだったかの?」
「あーこの今右耳につけてる血の装身具ってやつです。」
「!?今なんて言ったかの!?」
「血の装身具です。」
「お前さん、、、それ儂の鬼の心得と交換せんか?」
「!?」
まさかの提案に驚く。
「、、、いいんすか?」
「そのピアスは確か血の刃を獲得するのであろう?少なくとも儂にとって鬼の心得はただの古びた本じゃが、流浪人の条件がわからない今は武器を売ってもほしい代物なんじゃ。」
血の装身具について知っていて切実に欲しいと思っていたようだった。
もちろん答えは、
「むしろこちらからお願いしようと思ってました!是非ともおねがします!」
と言い、血の刃がなんとかかんとかっていう通知を無視してピアスを外す。
外し終わると あるてぃめっとさんは古い本を手に持っていた。
互いに交換し、あるてぃめっとさんはすぐに左耳につけ自分は詳細を見る。この本を使うと強制ログアウトになるようなのでログアウトしなければならない3日目の夜が終わるときに使おうと考える。