12
恐らく男2人であろう声は段々近づいてくる。
なんとなく近くの木にさっと隠れ、声のする方を向くと、
「うおっ」
と呻き声を上げて、1人の腰に刀を携え、白髪を後ろで束ねている男がクレーターに転がり落ちる。
もう1人のリボルバーを腰にかけ、革ジャンを着ている男が、
「ははっすまんすまん。」
とおちゃらけて謝る。どうやら落ちた男はこの男に蹴落とされたようだ。
落とされた侍男は、
「ふざけんなよ!」
と言いながらもなかなか急斜面な穴を器用に登っている。そんな景色をぼんやりと眺めていると、突然
「ドンッ」
と音が鳴り、左肩から血飛沫のエフェクトが表示され、HPゲージが減る。
「おーい、そこにいるやつ出てきなこーい。
思いっきり丸見えだぞー。」
と目に見えぬ早技を見せたカウボーイ男に言われる。
一瞬のことすぎて思わず頭が真っ白になるも、はっと我に返り、いそいそと木の影から出る。隠れていた木は明らかに自分肩幅よりも狭く、何故ここに隠れた?と自問自答しつつ、
「こ、こんちわ。」
と挨拶する。
「プレイヤーかの?」
といつのまにかクレーターから上りきった侍男が聞いてくる。
「そうっす。」
「、、、そうか。」
一瞬の沈黙の後、侍男がカウボーイ男をクレーターに投げ落とす。
「お前さんプレイヤーじゃなかったらどーすんだたこすけ!!めちゃくちゃ冷や冷やしたわ!」
「痛えわバカ!馬鹿でかい音たててクレーター開けてるやつはNPCじゃねえ!」
「音に気づいてここにきたNPCならどーするつもりだ!」
「、、、いや、それは全く考えてねえわ。」
一瞬黙って答えたカウボーイ男の返しにまた一瞬の沈黙が訪れ、
「この阿呆が!!」
と言うと、侍男は今度は飛び蹴りをくらわす。
「グヘッ」
と声を上げてカウボーイ男は倒れる。
なんだかかわいそうになってきて哀れな目で見ていると侍男はこちらを向く。
「んで、お前さんはここで何をしていた?
そもそもお前さんは何者だ?」
特殊ジョブの報酬である超魔獣レイドボーナスチケットを使ったこと。
使ったら空からベヒモスが降ってきたこと。
そしたらこんな感じのクレーターができたこと。
細かいところは省きながら説明する。
「ベヒモスが降ってくる?
そりゃあこんなことになるわな。」
とカウボーイ男が納得し、
「それより、もう特殊ジョブ見つけてなれたのか。
お前さんすごいな。」
と侍男が羨ましそうに言う。
「まぁ、ただのラッキーですけどね。」
と返すと、
「あー羨ましいわー。ちなみになんてジョブか教えてもらえちゃったりする?」
と軽くカウボーイ男が聞いてくる。
「獣戦士っていうやつです。」
軽く答えたことに驚きながらも知らないようだったので軽く概要を説明すると
「お前さんやばいな、、、」
「なかなかチートなジョブ引いてんじゃねえかよ」
と次々に感想を述べる。やはりこの獣戦士は強いようで、プレースタイルの違う2人にとっても羨ましいようだ。
「てか今更なんですけど、お二方どっちもスマホ版の経験者ですよね?」
「そりゃーそうだろ。むしろ今プレイできてるプレイヤー2万人は全員モバイルやってきた奴らだろ。」
「えっ!?」
と驚きのあまり声を上げる。想像以上に全体のプレイヤー人数が少なく、その全員がスマホ版出身者だと言うことは初めて聞いたからだ。
「あれ知らなかったのか?」
と、ハットを回しながら軽く説明してくれる。
運営によるとプレイヤーが始まりの街に入って寝どまりできるギリギリの人数は2万人で、その2万人もスマホ版をやっていた人たちの中から全てAIによる抽選で当たった人に購入を許していたようだ。
購入時にスマホ版をプレイしていたときのアカウントとパスワードが必要だったのはこういうことかと今更納得する。賢は何も言ってかなかったので、
(あいつ教えろよな。)
と思う。
「てかお前さんの名はなんだ?」
「リンマンっていいます。お2人は?」
「儂はあるてぃめっとさむらいで、このバカはGunDonだ。よろしく頼むの!」
「一言余計だわ。ガンさんとでもドンとさんでも呼んでくれ。よろしくな。」