第4.5話 覚悟と宣誓
アルフレッド視点
「アルフレッド様!」
霞む視界の中、従者達の必死な声が僕の意識を引っ張り上げる。
「くっ....一体、何が...」
一瞬意識を失っていた僕は、肩を貫かれた痛みに苦悶の表情を浮かべる。
誰かに庇われたおかげでどうやら急所への直撃を避ける事ができたようだ。
「よかっ...た...無事...なのね...アル...フレッド」
聞き覚えのあるその声で、漸く僕は誰に庇われたのか理解した。
意識が急速に覚醒していくと同時に、心が彼方に押し流れそうになる。
「母...様?」
目の前にある光景を受け止めたくなかった。
数人の貴族や医師が母上を助けようと救護している。
しかし、母様の体から流れる血は無情にも広がっていく。
「皆...あり...がとう...アル...ごめん...ね...リリィにも...伝えて」
母様は気丈にも痛みに耐え、僕に笑いかける。
「母様! 嫌だっ、母様!!」
僕は周囲を見渡し姉様を探す、姉様ならなんとかしてくれるかもしれない。
しかし姉様は、聖域の入り口でアーロンと交戦し、こちらに向かってこれる状況ではなかった。
「アル...立派な...皇帝に...ってね...空の...上...エドガーと一緒...見て...から」
僕は目尻に溜めた涙を拭う。
息子として、男として、皇帝として、母様に最後に向けていいのは泣き顔なんかじゃない。
「皇太后オリヴィエよ、その身を呈して良く余の身を守った、其方の忠義に感謝する」
僕に似つかわしくない言葉を並べ立てる。
そうしなければ、気が緩み涙がこぼれ落ちてしまいそうだったからだ。
「だから、安心して逝かれよ、皇国の未来は余とリリィヴァイスが切り開く」
握りしめてた母様の手から力が抜けていくのを感じる。
母様は最後に安堵してくれたのか、本当に穏やかな顔で眠りについた。
「チッ! アーロンの奴め、しくじりおって!」
小太りの男が兵士を連れ、ズカズカと祭壇に上がってくる。
皆が私と母様を守るように、周りを囲む。
「ダミアン! 貴様どういうつもりだ」
先頭に立った貴族の1人が声を荒げた。
「ふふん、儂はな、ずっとこの機会を伺っておったのだ!」
ダミアンは父様や母様、姉様やこの国のこと、ほかの貴族達に恨みがあったのだろう。
聞くに耐えない罵詈雑言を並べ立てる。
「そんな事より、貴様らこそ、そんな小童について大丈夫か?」
周囲を見れば至る所で戦闘が繰り広げられていた。
どうやら、ダミアンに唆されて幾つかの国は友好条約を破ったらしい。
僕は覚悟を決め、母様の手をお腹の上に置い立ち上がる。
「貴様!」
怒る従者を僕は手で制し、前に出る。
肩の傷は何とか回復魔法で止血してくれたが、痛みまでは消す事が出来ない。
それでも僕は、この痛みに耐える必要がある。
「貴様、誰に向かって小童などと言っておるのかわかっているのか?」
この小さな事で出来ることなど限られている。
フレイムタイラント、僕に力を貸してくれ。
「余は、リバティー皇国第125代皇帝アルフレッドであるぞ!」
僕がフレイムタイラントを横に薙ぎ払うと声が響いた。
『アルフレッドよ、我らが皇国と皇族に仇なす愚か者を屠るために我が力を存分に示せ』
体の中から炎が溢れていく。
さっきまでの痛みが嘘のようだ。
『しかし、お前はまだ子供、あまり無理はするなよ』
僕は心の中でフレイムタイラントに感謝を述べる。
「ヒッ!」
炎の熱さなのか、神器の威力に気圧されたのか、ダミアンは祭壇から転げ落ちた。
僕は再び剣を空に突き立て、何もない上空を爆発させる。
その音に、皆が一瞬だが視線をこちらに向けた。
「聞け、我らが皇国に仇なす愚かなる者達よ、余の国に謀反を仕掛けた事の意味をその身を持って知るが良い」
姉様と視線が交錯する。
僕は大きく深呼吸した。
「余はリバティー皇国第125代皇帝アルフレッドである! 恐れを知らぬ勇敢なる戦士達よ! 余に続け!」
アーロンと戦いを繰り広げていた姉様は一旦距離を取り、僕と同じように空に剣を突き上げる。
「皇帝陛下の命に従い、リリィヴァイスが逆賊の主アーロンを討ち取る事をここに誓う! 来い、アーロン!」
姉様の宣誓を受けて、皆が自らの対面する敵を見定めた。
アーロンを姉様が叩けば終わるという戦いの形が見えた事で、混戦状態だった戦場が整理されていく、
姉様はそれがわかってて、わざとらしく戦う相手を述べたのだ。
やっぱり姉様には勝てないや。
リリィとアーロンの戦いは次話になります。