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第4話 不穏な空と皇国の行く末

 私の呪いが解けてから数日が経った。

 自分の身体と魔力に最初は違和感があったものの、だいぶ制御できるようになったと思う。

 これでこの前のようにルーファスに押し倒されても、不覚を取ることはないはずだ!

 毎日付き合ってくれる従者たちには感謝しないといけないな。


「そういうわけで、主ら3人、少しは手加減せぬか?」


 満身創痍の私は、地面に剣を突き立てなんとかその場から立ち上がる。


「ご冗談を、殿下こういう事は本気でやらねば感覚は戻りませんよ」


 身の丈より大きな鉈のような剣を肩に携えたウォルターは、汗ひとつ垂らさず仁王立ちする。


「寧ろ、本気でやらねば私達がやられます故、ご容赦を主君」


 レイピアを構えたノエルは額から汗を垂らし、乱れた呼吸を整える。

 吸血鬼の特性故か、ノエルは日の光の下だと能力が落ちるな、注意せねばなるまい。


「そもそも、俺たち3人相手に立ち回れるとか、デッドエンドディーヴァ、貴様に護衛はいるのか?」


 ルディは両手のナイフをくるくる回す。

 よく言う、こやつ一回も本気を出しておらんくせに。

 いや、それを言うならばウォルターや隠し球のあるノエルもだな。


「いるに決まっておろう、もし私の魔力が暴走するような事があれば、お前達従者4人が全力を持って私を止めるのだ」


 慣れたと言っても、段階としては慣らし運転が終わったところだろうか。

 呪いが解けてわかった事だが、魔力が伸びる時期を人外の身体に作り変えられて過ごしたために、私の魔力は大きく人の枠をこえてて成長したようだ。


「では、次は此方からゆくぞ」


 私は手に持った剣に魔力を込める。

 しかし、その瞬間、私の魔力を過剰に受けた剣がヒビ割れ崩れ去っていく。


「む、やはりダメか、ただの魔法武器では私の魔力には耐えられぬな」


 私は手元に残った剣の柄を地面に投げ捨てる。

 慣れてきたのはいいが、今度は武器の方が私に魔力についていけなくなった。

 せっかく良い所だったのだが、こうなると興が削がれるな。

 私の戦意が消失したのを悟った従者達は、各々に戦闘態勢を解除する。


「主君の魔力に耐えうるとしたら、やはり伝説級の魔法武器、神器でしょうか」


 我が国にある神器は、そのほとんどが神殿の奥に作られた聖域に安置されている。

 この聖域に無条件で入る事がゆるされているのは、皇帝を継ぐただ1人だ。

 皇帝以外の者が聖域に踏み込む機会があるのは2つ。

 1つは誰かが武功を立て神器が下賜される時、そしてもう1つは新たな皇帝を引き継ぐ時だ。

 これらの式典の際には、下賜される者以外にも多くの人が聖域に入る事が許される。

 不用心なようにも思えるが、神器は意思を持って主人を選ぶそうだ。

 相応しくなければ持つことも許されず、盗む事はほぼ不可能とされている。


「ふむ、何処かで武功の一つでも立ててくるか」


 皇帝になれば無条件で1つ手に入れる事ができるが、すでにアルが引き継ぐの決まっているため私には縁のない事だ。

 やはり、それ以外だと武功を立てぬ限りはチャンスがないだろう。


「面白そうだな、城にいるよりずっと退屈しそうにない」


 ルディの瞳に光が走る。

 本来の獣人族は奔放な人種だが、ルディのように事情がある人間は、国に縛られたり誰かに飼われる事もある。


「殿下、ヘイスがいない時に勝手に物事を決めないでください、後で叱られますよ」


 ウォルターはこめかみに指を当て、息を吐く。


「それと、ルディもノエルも余計な事を言うな、殿下であれば武功の一つも立てるために、本気で城から脱走しかねない」


 ここ数日、従者たちを見ていて理解したが、こやつは私の従者の中でも1番苦労するタイプだろうな。

 元より4人の中でも年長者であり、面倒見が良いのもあるが、飄々としているルディや、真面目だが天...マイペースすぎるノエルをよく統率している。


「ほう、よく分かってるじゃないかウォルター」


 ちなみに、ここに居ないヘイスは私に対しては問題ないのだが、長年他の貴族に疎まれていたせいもありコミュ障が入っておる。

 ウォルターから聞く所によると、ようやくぼっち飯から抜け出た所らしい。

 ...おっと、噂をすれば何とやらか。

 王城の方からヘイスが現れた。


「失礼します」


 ヘイスの真剣な表情を見て、私は全てを察した。

 あぁ、ついにこの時がきたか、と。


「...リリィヴァイス皇女殿下、先ほど皇帝陛下が崩御なされました」


 遅かれ早かれこうなる事は分かっていた。

 皇帝が死ぬ時、そばにいる事が許されているのは妻と侍従医、自らの従者だけとされている。

 そして、皇帝が崩御して最初に赴くのが次の皇帝とその従者たち。

 私が父上に会えるのは、赴いたアルが父の死を確認し、引き継ぎを宣誓した後となる。


「こうなる事は、分かってはいたのだが...」


 私は拳を強く握りしめる。

 やっと呪いが解けたのに、私は結局、父上に何一つ返せなかった。

 いくら魔力が増えた所で、私は自分の父親1人助ける事もできぬ。

 あまりにも滑稽で、あまりにも無力な、矮小な存在にしか過ぎぬのだ。


「殿下、我らは準備を整えますので、しばし、此方でお待ちになってから部屋にお戻りください」


 ヘイスめ、コミュ障の癖にいらぬ気を廻しよって...まぁ、いい、今はありがたく受け取っておこうか。


「...あぁ、わかった」


 私は涙が零れ落ちぬように空を見上げた。

 今にも泣き出しそうな空は私の心を映し出しているからだろうか。

 それとも....。







 神殿のさらに奥、王城の地下に作られた聖域はかなり広く、多くの貴族や護衛の騎士たち、官僚、神官、他国からの来賓などを収容しても、まだ余裕があるのが見て取れた。

 中心部の祭壇には100本近くの神器が地面に突き刺さっている。

 神器の多さが、その国の歴史の長さと巨大な力を周囲に示す。


「これが、聖域か...」


 儀式のためにアルより一足先に聖域に入った私は、他の貴族や他国の来賓たちとともに席に座る。

 中央の祭壇は2段階になっており、手前の祭壇には戴冠の儀式のために母上と神官長、神官長の仕事をサポートする従者だけが佇む。

 父上が崩御し僅かに数時間、準備に時間を擁さなかったのは父上の死期がわかっていたからだろう。

 他国からの来賓達もその多くが王族なのは、死期がわかっていたので事前に使者を我が国へと派遣する事ができた。


「リバティー皇国、第1皇位継承者、アルフレッド・リバティー=ブロッサム・ジャッジメントクライシス様、ご入場」


 先程までヒソヒソと話していた来賓や我が国の貴族達も静まり返った。

 兵士の号令と共にパイプオルガンの重厚のある音が会場に響き渡る。

 厳かな雰囲気の中、式典用の正装に着替えたアルが扉の向こう側から現れ赤絨毯を進んでいく。

 アルが中央の手前の祭壇に上ると、神官長は母上から受け取った先王の言葉が書かれた書状を読み上げる。

 何事もなく式典は進んでいき、いよいよアルが神器を引き継ぐ時だ。


「皇帝陛下の遺言に従い、只今より神器を継承いたします」


 アルが奥の祭壇へと進むと一本の剣が光り輝いた。

 なるほど、こうやって継承するのか。

 アルは恐る恐る剣の元に行き、その柄に手をかけた瞬間、剣が発火し轟音と共にアルを巻き込み爆炎が立ち昇る。


「アルフレッド殿下!」


「殿下! 今、お助けします!」


 思わず何人かが声を上げる。


「静粛に!」


 神官長はすかさず周囲を落ち着ける。

 神器によって起こり得る事は様々だが、これは神器が持ち主を選ぶための試練だ。

 私は事前に聞いていたし、神器の継承を見た事がある者は落ち着いている。


「頑張れ、アル」


 私は誰にも聞こえぬように弟にエールを呟いた。

 その願いが届いかどうかは定かではないが、炎の柱が収縮していく。

 中心点に居たアルは剣を振り払い最後の炎を霧散させると、空に向かって剣を突き上げた。


「炎の神器フレイムタイラントよ、己が主人のためにその力を見せつけよ!」


 剣先から先ほどよりも大きな炎が舞い上がる。


「新たなる皇帝の誕生だ!」


「万歳! 皇帝陛下万歳!」


 何人かの者がフライングで立ち上がる。

 この時になってようやく、私は何かしらの違和感に気がついた。

 先ほどといい何処かわざとらしい、まるで注意を逸らそうとしているようなその行動に。


「静粛に!!」


 神官は再度手を広げ、周囲を宥める。

 私は違和感の正体を探るべく、周囲を見渡した。


「今より、戴冠式を行う」


 神官長の従者が、王冠を乗せた台を両手で持ち神官長の方に向ける。

 神官長が王冠を取ると、奥の祭壇から降りてきていたアルは跪く。

 何処だ! 何処だ! 何処だ!

 私は頭をフル回転させ、漸く違和感の正体に気がついた。

 しかし、再びフライングした何人かの貴族の拍手の音に遮られ、私や気がついたアルフレッドの従者たちの声がかき消される。

 参列席に座っていた私の横を、赤絨毯の上を、一筋の魔法が駆け抜けた。


「アルフレッドォォォオオオオオ!!」


 私の声は虚しく、魔法の光がアルの体を貫こうとしたその瞬間。

 母上がアルフレッドに覆いかぶさり、光は2人を貫きその場に倒れた。

 私は鬼の形相で、魔法が放たれた方角に顔を向ける。


「貴様、一体どういうつもりだ?」


 違和感の正体が扉の奥から現れる。

 この男が会場にいない事がそもそもおかしいのだ。

 それなのに私は気がつくのが遅れてしまった。


「答えろ...アーロンッ!」


 アーロンの後ろから、彼の部下と思わしき騎士達が聖域になだれ込む。


「力こそが正義、我こそが次期皇帝にふさわしい、今より武力をもってそれを証明する!」


 王城の外ではこの国の行く末を案じてか、天気が崩れ雨が降り注いだ。

 どこかに落ちた雷の音が地下にまで鳴り響き地面を揺らす。

 私はクーデターを阻止するために剣を引き抜き、アーロンの前に立ちはだかった。

ブクマ、評価ありがとうございます。

12時までに投稿しようと思いましたが、少し間に合いませんでした。

このペースで区切りのいいところまで一気に駆け抜けたいと思います。

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