第3話 それぞれの思いを胸に
リリィヴァイス視点→ノエル視点→ディミトリー視点になります。
「歓迎します、リリィヴァイス皇女殿下」
クーデター決行に向けて、私とルディは商業都市アレンスキーを離れる。
反乱軍の別働隊が結集する農村にたどり着くと、村長の家の地下に作られた部屋の1つに案内された。
「挨拶はよい、それよりも状況を聞こうか」
ちなみに、レオンとルーシーの2人は、滞在費用を手渡しアレンスキーの宿屋に残してきた。
もし、誰も迎えに来なければ、その後は自由にしていいと命令してある。
我が国に戻るのであれば、アルを訪ねれば保護してもらうように伝えているし、それ以外の国に逃れるのも2人の自由だ。
「今のところは滞りなく進んでおりますが、一つだけ気になる点が……」
きっと、ディミトリーの事であろう。
アレンスキーの方に来ておるのは、予想外であったからな。
「此方の動きが察知されたかどうかは不明ですが、ディミトリーと数人の騎士が、魔獣討伐のために本隊を離れてこの近辺で行動しておるようです」
なるほど、魔獣討伐か。
魔獣というのは滅多には出ぬのだが、時折この世界に現れては災害を巻き散らす存在だ。
「本当に魔獣討伐のために遠征してきたのか、それとも、それを名目としてこちらに騎士を派遣してきたのかは不明なのです」
理想的なのは、ディミトリー達が魔獣と交戦してる最中に進軍する事だろうが、そう上手くはいかぬだろう。
魔獣と交戦中に割り込むという手もあるが、その場合は、ディミトリー達を倒した後に魔獣と交戦する事となる。
二連戦した後に、王都に進軍をするのは現実的ではない。
しかも、奇襲に失敗しディミトリー達を仕留めそこなった場合は、三つ巴の乱戦になってしまう。
「ふむ、ここはリスクをかけず、ディミトリーたちを無視して王都へと向かうべきだろう」
我らの目的は、反乱軍の陽動部隊と交戦する北星騎士団の隙をつき、王都でオーラン達と合流する事である。
今回の挙兵も、裏で糸を引いているのはオーランだが、表立って軍隊を集めているのは彼の妹だ。
第四王女が、ストレルカの現状を見かねて、王位簒奪のために挙兵する。
それが筋書きであり、私もオーランもそれに協力しているに過ぎない。
「はい、私もそう思っております、もしディミトリーが後ろから迫ってきた場合はどうされますか?」
私が殿を務め、追ってきたディミトリー達に対応しても良いが、それはあまり良い手だとは思えない。
そこで手間取れば、私が王都でオーラン達と合流するのが遅れてしまうからだ。
マキシムの事もあるし、オーラン達とはできる限り、早い段階で合流したい。
「私が相手をしても良いが、その場合、マキシムが王都に残ってたら、お主達で抑えられるのか?」
そんな人材がいるとしたら、そもそも私に声をかける事はしないだろう。
ディミトリーもマキシムも結局、倒せるとしたら私だ、それならば2人同時に対処すれば時間のロスも少ない。
このクーデターで重要なのはスピード感だろう。
いかに早く、オーランが王を討つか、ただ、それだけだ。
王を殺すだけであれば、私が姿を変え暗殺した方が早いだろう。
だが、それではダメだ、あくまでもこの国の人間が主役であり、主導しなければならない。
「それならば王都に引き込んで、向こうもマキシムと合流させれば良い」
幸いにも私は幾つかのかの神器を持っている。
ベーゼントがやってたように、カテドラルヴァイオレットとレナードマライカを駆使すれば複数を相手にできるし、アナベルリッターを使えば同時に2人を相手をする事も可能だ。
他にも、まだお披露目してない神器もあるし、私は1対多の状況の方が生きると思う。
「わかりました、恥ずかしながら我々ではどうにもならぬ故、そちらの相手はお任せします」
元よりそのつもりだしな。
私はコクリと頷いた。
「では、しばしの間ですが、お部屋を用意しておりますので、そちらでお待ちください」
話を終えた私とルディは、他の者に別の部屋へと案内される。
クーデター開始まであと少し、私は体力を温存すべく眠りについた。
◇
「はじまりましたね」
私はウォルターと共に、旗印となっている王女の部隊へと組み込まれました。
「そうだな」
ウォルターの顔をチラリと見ますが、どうやら大丈夫そうです。
戦いの最中にぼーっとしていれば格好の的にしかなりません。
「最前線に出なくて良かったのですか?」
私はてっきり最前線で戦うとばかり思っていたので残念です。
「ああ、ここでいい、無駄に疲弊するわけにはいかないからな」
なにか引っかかりますね。
今のウォルターは落ち着いているし、戦いに集中しているように見えますが、どこか何時もと違うように見えます。
「……ノエル」
「はい、なんでしょう?」
真剣な表情ですが、どうしたのでしょう、もしかしてお腹でも下しましたか?
「顔に傷のある緑髪の騎士が来たら俺は本陣から離れる、その場合は後を頼む」
むぅ、戦う相手が指定できるなど聞いてませんよ!
それならば、私も敵の何とか騎士団で誰が強いのか聞いておけば良かったです。
しかし、これでウォルターから感じていた違和感の正体が明らかになりました。
ははーん、ウォルターはここに来るまで、誰と戦うのかずっと悩んでいたのですね。
ですがウォルター、貴方は大事なことを忘れてますよ。
「良いのですか? 神器持ちとは極力戦うなと主君から命じられていますが……」
私だって本当は神器持ちとやってみたいのです。
貴方だけに、抜け駆けさせませんよ。
「極力、だろ? 向こうから来る分には仕方ない」
それは盲点でした。
流石ですウォルター、ドヤ顔も許しましょう。
「なるほど、それならば問題ありませんね」
ふふん、これで少し楽しみが増えました。
早く、本陣まで誰か攻めてこないかなぁ。
◇
彼女は元気にしているだろうか?
私は彼女のハンカチの刺繍を、親指でそっとなぞる。
こんな感情、本来であれば人妻である彼女に向けてよいものではない。
リリアーナさん……。
「副団長、よろしいでしょうか?」
部下の声にハッとした私は、慌ててハンカチを隠す。
「どうかしたか?」
魔獣討伐が思ったより早く終わり、私たちは帰宅のための準備に取り掛かっていた。
「第四王女殿下の旗を掲げた騎士団が、王都へと北上している模様です」
どういうことだ? そんな話は聞いていないぞ?
そもそも王女殿下は、王都より北方にいるはず。
なぜこんな所に彼女の旗を持った騎士団がいる?
「撤収準備は?」
嫌な予感がする。
何かあっても、王城にはマキシム隊長がいるので大丈夫だとは思うが、迷ってる時間はなさそうだ。
「大方完了しております、出られますか?」
もし、何もなかったとしても俺が罰を受ければいい。
「あぁ、俺たちも王都へと向かう、撤収を急がせろ!」
俺は手に持ったハンカチに再び視線を落とす。
リリアーナさんと会えるのを楽しみにしていたが仕方ない。
これも仕事だと諦める。
俺は気持ちを切り替え、出撃の準備の取り掛かった。
ブクマ、評価増えてて驚きました。
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