─94日目 大阪編16:約束─
家を出てから数時間。
「よしっ、着いた!」
新幹線とお父さんを駆使して再び大阪、咲良の家に到着。
「有り難うお父さん」
「なーに言ってんだ、可愛い息子の頼みを断る親が何処に居るんだよ」
……何かまた似合わない台詞を。不気味だ。感謝してるけど不気味だ。
「とにかく入ろう」
「おう、よいしょー!」
門を豪快にブチ開けた父。今、夜だって忘れてないこの人?
「な、何だ!?」
「今の音、正門からだぞ!!」
「ほらー騒がしくなった」
「説明する手間が省けたぜ」
「いやどっちにしろ説明はしないとダメでしょが」
「それより早く行けよ。咲良ちゃん、待ってんだろ?」
「……うん」
僕は父の言葉に甘え、全てを任せて屋敷の中へと入って行った。
「え、薫坊っちゃん!?」
「スミマセン通して下さい!」
「あれ!?帰ったんじゃ」
「あーハイハイさっきの音は俺だから気にすんなー」
『兄貴!?』
「という訳で後は父から聞いて下さい!それじゃ!」
「あっ坊っちゃん!?」
名前も知らない黒服さんに別れを告げて走る。
「でも兄貴、どうして戻ってきたんですかい?」
「あ?何でっておめー俺の息子がてめーらの姫さんの為に行きたいっつーからよぉ」
アーアーボクニハナニモキコエナーイキコエナーイ。
「…………さてと」
そして咲良の部屋の前。
「来たのまでは良かったけど」
ヤバい。どうやって咲良に説明しようこの状況。
……ええい、当たって砕けろだ!いや砕けたらダメなんですけどね!?
「たのもーっ!」
「帰れ」
砕けました。ノックしただけで砕けました。
「冗談やって」
扉越しにそう言われて一安心の僕。まぁ本気で言われても帰りませんけどね!
「でも入らんといてな」
「分かった」
扉に凭れて座り込む。ぶっちゃけ疲れてたりするんです。足パンパンなんです。
……まぁ、そうしてでも聞きたい事があるからなんですけど。
「咲良さ、電話で言ってたよね?自分が超能力者だって」
「……うん」
真後ろから返ってくる声。咲良も僕と同じように扉に凭れているのが分かった。
「……最初はね、冗談かと思ったんだ。僕を驚かせる為の冗談かなって。でも咲良……泣いてたでしょ?だから冗談なんかじゃ無いなって思えた」
「……うん」
「どうして、突然あんな事僕に言ったの?」
「………………」
僕の問い掛けに答が返ってきたのは約一分後の事だった。
「……新幹線に乗る前、約束したやろ?“また会う”って。ウチはもう、薫と会う気はあんま無かってん」
「……そう」
少しショックです、僕。
「けどな、薫は笑って言い返してくれた。ウチ、嬉しかった。こんなウチとまた会ってくれるんやなって」
「…………」
それから暫くの間、僕はただ黙って咲良の話を聞く事にした。
「ウチな、前に許嫁みたいなのがおってん。それも東京の子やった。会って、話してると楽しいなー思えて、いつの間にか好きになってた。で、その子東京に帰って。そん時にも約束してん。“また会おうね”って。だからな、嬉しくて、でもやっぱり、ホンマの自分知っといて貰わなアカンと思ってん。隠し事なんてしたなかったから。で、薫にしたのと同じように言うてん。
『ウチは超能力者や。人の心が読めたりすんねん。こんなウチやけど、また会ってくれる?』
そしたらな……言われてん。
『頭おかしいんじゃ無いの?悪いけど、そんな子とは関わりたくないよ』
考えたら当たり前やんな?超能力者やとかイキナリ言われたら誰でもそう言うわ。それからその子と会う事も無かった。お父さんは怒ってたなぁ、ワシの娘を何やと思っとるんや!ってな」
「……………………」
……違うよ。
「でもな、薫。やっぱり隠し事はアカンやろ?せやからアンタにも話してん。前の子と同じ罵声みたいなん受ける覚悟で」
僕は、そんな事言わない。
「咲良」
「……何?」
「僕が咲良と会ってからまだ数日だけどさ。咲良の性格は大体解ってるつもりなんだ」
「え……」
「元気で、自由で、少し我が儘な所があって、でも優しくて、面白くて。あと、自分の気持ちを上手く伝えられない」
「……ハハ、言うやんけ」
「咲良は言い方がストレートすぎたんだよ。多分その子もそれに動揺したんだと思うよ」
「……薫も?」
「まぁね。そりゃ驚くよ」
「…………」
「でも、だからって何?」
「へ?」
「超能力者だからって、サイコメトラーだからって、咲良が咲良なのに変わりは無いでしょ?」
「薫……」
「それに言わせてみればこっちの親と親戚の方がよっぽど変だっての。素手で滝を割ったりするんだよ?あんなの人間技じゃ無いよ」
「素手で……滝……なぁ」
「ったく、僕も見くびられてたんだなぁ。咲良がどうだろうと、そんな理由で約束破る訳無いのに」
「……ごめん」
「よっと……扉、開けるよ?」
立ち上がってドアノブに手を掛ける。鍵もかけられていない扉を、ゆっくり、ゆっくりと開く。
「……」
「ほら、また会った」
そこには目を赤くし、その下も赤く腫らした咲良が居た。そんな咲良の頭に僕は手を置き、ゆっくり撫でてやる。
「薫……っ」
「苦しかったよな。辛かったよな。でも、大丈夫だから。もうそんな事、しなくて良いから」
「……胸貸せ。泣いてる顔、見られたくない」
「……僕のなんかで良ければ」
その瞬間、何かが切れたように咲良は泣き始めた。僕はそれを受け止め、背中を摩ってやる事しかしなかった。それだけで、今の彼女にはそれだけで、十分だと思ったから。
「うぅっ……ぐすっ、ひっく……うわあああああああああああああああああああああああああああああ!!」
この子は……今までずっと溜め込んで、溜め込んで……、この子はずっと、一人だったんだ。誰にも打ち明かす事も出来ず、たった一人で悩んで、苦しんで。
護ろう。この人を。
この人の笑顔を。
僕が、一生を懸けて護り抜こう。
僕が最初にそう思ったのは、この時だった。
因みにこの部屋の廊下の曲がり角には、
「……青春って、やっぱええもんやなぁ〜……」
とかなんとか言いながらひたすら号泣するデカいおっさんが居たらしい。
人は誰だって脆いんです。身体が強くたって、心が弱い人なんて幾らでも居ます。それを解って頂きたく書いたのが今回の話。あ、おっさんの事じゃないですよ? 皆さんの周りには、悩んだり、苦しんでる人は居ませんか?もし居たなら、どんな事でもいいんです。力になってあげて下さい。助けてあげて下さい。きっとそれが、少なからず解決に繋がるんです。難しい事だと思います。でも、そうやっていけば、自分の心も強くなるのではないのでしょうか? 先程から偉そうに言ってはいますが、私も今一度、色々と考え直してみようと思いますm(__)m