─72日目 カオルのお仕事(後編)─
「そらそらそらっ!」
「っ!」
シマノの立て続けの攻撃を避け、受け流すカオル。あ、今回カオル自身が忙しそうなんで私がナレーションを……作者ですよ?私作者ですからね?覚えててくれてましたよね!?
「どうした、自分から攻撃しないのかいっ!?」
「さあなっ」
カオルは全ての攻撃を捌き距離を取る。
(相手のリーチは最大約2メートル50……次の出だしが振り下ろしの確率48%、突きが33%、その他が19%って所か)
「はっ!」
カオルの予想通り、シマノが繰り出してきたのは振り下ろし。
「…………」
カオルはそれを避け、
「ふっ!」
続いて突いてきたのを手で握り止める。しかし、
(!!ちっ!)
シマノの笑みを見て何かを企んでいる事を感じ取ったカオルが棒から手を離したが間に合わず、
「ぐっ!」
棒から放たれた電撃を受けてしまった。
「まだまだっ!」
「!」
怯んだのを見逃さず、シマノが棒を振り下ろす。しかしカオルは後ろに下がり何とかかわす。
「何か仕込んでるとは踏んでたけど、まさか電撃とはな」
「意外だったろ?他にもあるんだぜ、例えば」
シマノが根を捻ると、ちょうど3つ均等に棒が分かれ、それらが鎖で繋がれた状態に。
「三節棍か……」
「そ♪驚いた?」
「正直、な」
当然だ。普通三節棍は長さが50〜60cm。だがシマノのそれは2メートル。明らかに長すぎなのだが、シマノは手元でヒュンヒュン回して遊んでいる始末。
「じゃあ行こうか!」
そしてそのまま突っ込んでくる……コイツはどこまで行き当たりばったりなんだ。
「……やれやれ」
カオルは正面から立ち向かう。
不規則に動く三節棍を避けながら相手へ詰め寄る。
(この距離なら!)
拳を作り、放とうとする。
「甘いよ」
「なっ……!」
しかしシマノはそれを見通していた。かわしきったと思っていた三節棍の一部が、カオルの腹部にめり込む。
(しまった……死角、からか)
「ほらっまだだよ!」
「ぐあ…………っ!」
その隙を突いて連続で攻撃するシマノ。その全てを直撃したカオルはその場に平伏す。
「あれ?もう終わり?」
シマノの問いにカオルは答えない。
「残念だなぁ……最初はあんな大口叩いてたのに、攻撃だって受けてないし」
「…………」
「まぁいいや。君倒してここからとんずらでもするよ」
三節棍を勢い良く回しながらカオルに近付いて行く。丁寧に、電撃も加えて。
「…………」
カオルは一向に動こうとしない。
「じゃあね」
そうとだけ言い、シマノはカオルに力の限り振り下ろした…………。
──同時刻、劉紋会関東支部。
「お茶です、どうぞ」
「ん、ありがと♪」
「あの……会長?」
「むぅ、みっちゃんって呼んでって言ってるのにぃ」
「う……そんなムスッとしないで下せぇよう」
「分かったぁ……それで?何なのテツ?」
「へい、前から気になってたんですが……どうしてカオルさんを劉紋会から辞めさせてあげないんですかい?本人も辞めたいって言ってるのに」
「あら、テツ知らなかったっけ?」
「何がですかい?」
「ふぅん……なら教えてあげる。カオルちゃんをどうして劉紋会……ううん、『斑鳩』に留めるのか」
「……どうして?」
「カオルちゃんはね、特別なのよ」
「特別?」
「そ。例えばテツは銃弾素手で防げる?」
「そ、そんなの誰でも無理ですよ!何言ってんスか!?」
「カオルちゃんなら出来るわよ?」
「え」
「日本刀だって割れるし、その気になれば岩とかなら砕けるんじゃない?」
「んなバカな……マンガじゃあるまいし」
「だから言ってるじゃない、特別だって」
「ですけど……本当にカオルさんにそこまでの身体能力が?見た目ではとても」
「その力の秘密はカオルちゃんの眼にあるの」
「眼……と言いますと?」
「それはね……」
──同時刻。敵占拠地。
「なっ……?」
確かに振り下ろされた一撃。確実にカオルを捕えていたハズだった。
なのに、
何故、俺の武器が砕けている!?
シマノの脳内に混乱が生じる。無理もない、一瞬にして三節棍の一節が粉々になっていたのだから。
「驚いたか?」
「!」
イキナリ喋るカオルに只ならぬ気配を感じ、一気に後方へ下がるシマノ。
その顔には最早余裕など無かった。嫌な汗が背筋を通る。
「そうだよな、自分の獲物がいとも簡単に壊されたんだもんな」
「……一体何をした」
「別に?ただこんな風に……」
カオルは右手を軽く上げ、
「叩いただけだ」
壁を叩いた。コンクリート製のそれは壮大な音を立ててヒビを入れていく。まるで巨大な鉄球を当てたかのように。
「…………!!」
カオルにとってそれはただの“軽い”パンチ。シマノにとってそれは“脅威”。
「良いこと教えてやるよ。俺の眼の網膜には、他人には無い成分が数多く含まれている」
「……?」
「その成分は、普段は人体に全く影響を及ぼす事は無い。でも己の意思でそれを解放させた場合……身体能力の向上と、もう1つの力を与えてくれる」
下げていた顔をゆっくりと上げる。前髪で隠れていた眼が露になった。
「こんな具合に、眼にハッキリと出てるんだけどな」
何時の日か見せた、漆黒の瞳。一寸の光をも含まない、純粋な“闇”。
「…………!!」
予感が確信に変わる。ヤバイ、今のアイツはヤバイ。自然と手足が小さく震える。シマノの本能が、全身にそう訴えかけていた。
「お前には礼を言わなきゃな。最近身体が鈍ってたからさ、お陰で良い運動になったよ」
「……!」
しかし、そんな本能の呼び掛けよりも下らないプライドが勝ってしまった。
「ふざけんなぁっ!!」
折れた三節棍を再び棒状に戻し、逆に捻る。
先からは、通常よりも大きな銃弾が放たれた。
「これならお前も!」
キンッ!
「…………は?」
カオルが肉眼で追いきれない速さで手を振ったと同時に、割れて威力を無くし他方向へと飛んでいく銃弾。
「そう言えばまだ言って無かったな、もう1つの“力”」
呆然としているシマノにカオルは話し続ける。
「この世に存在する全ての物体には必ずしも1つは急所が存在する。人は勿論、動物や植物、生命体じゃ無くてもだ。お前の武器も同じだよ。その急所……『死点』に正しい角度で一定以上の力で衝撃を加えたらどうなるか?答えは簡単、その物体は壊れる」
「だからって……どうしたんだよ!お前にはそれが見えるってのかよ!?」
「よく解ったな。その通りだ。今の俺には全ての『死点』が見えてる。この建物、そしてお前自身のもな」
「!!」
「さて……それを踏まえて最後の警告だ。大人しく捕まれ」
「んな事……出来るかよォ!!」
闇雲に突っ込んでくるシマノ。目を見れば半分気が動転しているのが伺えた。
「……残念だ」
──刹那。
カオルの拳がシマノの身体七ヶ所に当てられた。
「───ッ!!」
声にならない程の痛みを伴いながら、
「………………」
相手はそのまま沈んでいった…………。
「──っていう訳♪」
「はぁ……死点、ですかぃ」
「カオルちゃんにだけ見える最大の弱点。こんな能力を放っておいてでもみなさいな。直ぐに悪用されちゃうわ」
「確かに。そんな便利な力があれば願ったり叶ったりですからね」
「そういう事♪」
「……だからあんな二つ名で呼ばれたりしてたんですね」
「カオルちゃんが気に入らないって言ったから誰も言わないんだけどね。あ、お茶おかわり」
「へい只今」
「ふぅ……いい天気だねー」
「会長、連絡です」
「あら?何かな」
「カオル様より、『先程捕獲を完了した、宜しくお願いします』との事ですが」
「早かったね。何人か遣い出してあげて」
「はっ」
「もしかしてカオルちゃん使ったのかなぁ……『黒覇眼』」
「シマノ、お前二つ名最初に名乗ってたよな……」
劉紋会に連絡した後、意識の無い相手にカオルは語り掛けていた。
「俺のも教えといてやるよ……嫌いなんだけどな」
少し苦笑いしながらも、小さく、しかしハッキリとそう言った。
「──『黒天』だ」
皆の言いたい事は大体解ります。ええ、私戦闘シーン書くの苦手なんです……ぇ、違うって?他に何か問題でも?あれば感想欄に書いてネー(^^←