─7日目 コタツと忘れ物─
「う〜さむさむっ」
最近冷えてきましたねー、さむさむなカオルです。
今週は高校でのテストがあります。なので今日は朝から部屋で勉強中です…あ〜コタツ入りたいな。
またサクラに邪魔されなきゃ良いんだけど…。
「カオル兄!」
うおぅ、噂をしたらなんとやら。
「…今度は何だ」
どうせ意味解らん事言い出すんだろうなーとか思いつつ、妹サクラの返事を待つ。
「大変なの!」
大変?何を言う、今の俺にテストより大変なものなど存在しない!
「コタツが動かない!!」
「なにぃっ!?」
存在したーっ!!
「馬鹿な!コタツはこの前出したばっかりだぞ?」
あの時はコタツちゃんと動いたのに…。
「とにかく来て!」
俺はサクラに腕を引っ張られ一階へと降りて行った。
そこには…見事なまでに全く作動しないコタツの姿があった。
「そ…そんな…」
何度もスイッチを入れ直すサクラ。本体をいじる俺。しかしそんな俺達の努力は報われず…
「…ご臨終だ」
─コタツは息を引き取った。
「コタツーッ!!」
サクラがコタツにすがり付く。今まで数多の冬を共に乗り越えてきた戦友だ。情が移るのも無理は無い。
思い出せば…このコタツはサクラが生まれたその年に買ったんだっけ…懐かしいな。
「よし!新しいのを買いに行こう!」
「切り替え早っ!!」
情もクソも無かったよコノヤロウ。
「『いつまでも過去に捕われてたらダメだぞ、面白く無い子供に早変わりするから。』って先生が言ってたし」
「正論だけど微妙に違う!」
コタツに情けかけるぐらいはいいでしょ先生?
でもこのまま放っておく訳には…。
「よしっ、買いに行くか!」
「おー!!」
─そんなこんなで俺達は近くのデパートへやってきました。近くとは言っても自転車で20分の所にある。軽い運動になったぜぃ。
「おー混んでんなー」
今日は休日なので平日に比べて明らかに人が多い。サクラがはぐれないようにしないと。
「サクラー勝手に動き回るなよー?」
「試食やってまーす、いかがですかー?」
「食べまーす!」
「話聞けやぁ!!」
試食コーナーから連れ戻した後、はぐれないようにしっかり手を握りコタツを探しに行く。
「電化製品は三階か」
「そう言えばさ」
サクラが口をモグモグさせながら喋りだす。
「飲み込んでから話しなさい」
ごくんっ。
「どんなコタツ買うの?」
「今までのと同じ4人用のつもりだけど」
「どうせなら10人用とかを」
「どんな構造だそれ!?」
「足が10本あったり?」
「多いわっ!」
イカの仲間かそのコタツ。
「伸び縮みしたりとか?」
「あったら見てみたいな」
どんな素材使ってるんだろ?
エスカレーターに乗りながらそんな事を話していると三階に到着。冷蔵庫や洗濯機、いい品揃えだな。色々買いたくなるけど今はコタツだコタツ。
「一途だね」
「そうだよ悪いか!…お、あったあった」
遂に念願のコタツを発見。さーお買い得なの探すぞ!
─二人でそれぞれコタツの物色を開始してから数分が経過。
「うーん…」
結構探したけど…中々良いのが見つからない。
「カオル兄カオル兄!」
その時サクラが騒ぎながらこっちへ走ってきた。
「幾つか良いのあったよ」
「本当か?」
ナイスだ妹!お前はいつかやってくれると信じてた!
「先ずはコレ」
そう言ってサクラが俺を連れていき指差したのは…。
『700万ボルトもの電力で貴方を一瞬にして暖めます!灼熱コタツ新発売!!』と書かれた札が引っ付いたコタツってコラァ!
「ね?面白いでしょ」
「俺らを殺す気か!?」
第一日本の一般家庭のコンセントで使えるかそんなもん!
「むぅ、じゃ次は?」
どれどれ…。
『その広さは無限大!四次元コタツで冬を乗り切ろう!』
「無限大だよ?入り放題だよ?」
「イヤイヤイヤイヤあり得ないし」
そもそもこの世の中自体が四次元だっつの。この広告22世紀でしか通じないだろ…ぁ、ウチの妹には通じてたか。
「はい次」
「そろそろマトモでありますように…」
『家族で暖まろう!冬は皆でぬっくりコタツ♪』
「おー!これ良いかも」
「可愛いデザインでしょ」
確かにこれなら見た目も大きさもバッチリだ。ぬっくりって響きも俺は嫌いじゃ無いぞ?
「これにしとくか…ん?」
「あれ?」
購入を決断しようとしたその時、広告の右下端がペラッとめくれているのに気が付いた俺達。
……まさか。
「ていっ」
サクラが剥がしてみるとそこには…。
『灼熱コタツソフトタイプで新発』
「「なんっでやねんっ!!」」
結局そのぬっくりコタツを店員さんに注文し、俺達のコタツ騒動は幕を閉じた。週末には布団とかもセットで家に届けてくれるそうだ。
その帰り道。妙に疲れた俺達は来た時よりもゆっくり自転車を漕いでいた。
「コタツって奥が深いね」
「そうだな、正直侮ってた」
主に最近の人の考えを。
「ともかくこれにて一件落着っ!」
「そうだな………ぁ」
そうだ。
忘れてた。
思いっきり。
「俺明日からテストなのに!勉強してないよ!!」
今日丸一日買い物に使ったから全然できてない…。
「人生山あり谷ありだよカオル兄?」
「最近谷ばっかなんですけど!?」
心無しかさっきから下り坂多いし!
「いえーまっさかさまー♪」
サクラが坂をひゅーん!
俺も成績がひゅーん!
あはははは!
こうなりゃ実力で勝負だ!
「もうどうにでもなれー!!」
─翌日。
「…全く分かんねぇ」
ええそうですよあえなく撃沈しましたよ。
だってまず勉強した教科間違ってたんだもん!
週末まで休みます(汗ごめんなさいm(__)m