─62日目 みっちゃんとカオルの過去─
──劉紋会敷地、中心部周辺。
「もしかして部屋の配置変えました?」
「はい、会長のご指示で」
「そうですか…相変わらず自由な人だ」
真っ直ぐに続く廊下を見渡す。壁際にはいかにも高価そうな壺や絵、陶器が飾ってある。
「着きました。会長はあちらでお待ちになってますので」
その廊下の突き当たりに在る扉を指して案内してくれた人が俺に言った。
「分かりました」
一歩、二歩と前に進み、扉にノックする。
「すいません、カオルですけど」
「開いてるわよー♪どーぞ♪」
中から聞き慣れた、甲高い声がしたので静かに扉を開けて入る。
「失礼します」
「あらーカオルちゃーん、大きくなったわねぇ♪」
着物姿の小柄な女性…茶色の髪を後ろで団子に結んだ、劉紋会関東支部会長が笑顔で手を振ってきた。
「そんな変わってませんて」
「えー?だって会うの久し振りだしぃ」
「正月に会ったでしょ?」
「あれ影武者だったもーん。カオルちゃん判ってたでしょ?」
「……まぁ」
「でしょー?」
きゃはっ♪とかしないで下さい気持ち悪い。アンタ俺の母親と同い年だろが。
「それで会長」
「む、会長って呼ばないでって言ってるのにぃ。私の事は『みっちゃん』!」
「…みっちゃん、話があるんですけど」
「敬語も禁止!」
めんどくせーなオイ。
「はいはい…今日はみっちゃんに話があるんだけど」
「なぁにー?」
「……抱き着かないでくれない?」
「やだー♪」
「子供かアンタは!良いから放れてくれ!」
「あうー」
みっちゃんを引き剥がしてソファに座る。あーこの人の相手は疲れるな……。
「仕方ないなぁ…それじゃ話を聞きましょーかね♪」
向かいにぽふんっと座るみっちゃん。言うことやることが全く極道の方を束ねているようには無い……。
「昨日オダって人が俺の家に来た」
「そりゃ私が紹介したもん」
「…何で俺を紹介したんだ」
「ん、一言で言うと人員不足なのね」
「人員不足?」
「そ♪」
湯呑みに淹れられた緑茶を啜りながらみっちゃんは続ける。
「関西も今少しどたばたしててね、向こうに何人か送ってるから誰も手が放せないの」
「だから俺を呼んだと?」
「うん♪だってカオルちゃんすっごい優秀だし」
「もう『ボランティア』は辞めたって言っただろ」
「でもオッケー出したんでしょ?」
「あそこで断ってたら『劉紋会は俺達を相手にしてくれない』とか勘違いされて、最悪敵対するかも知れなかったからだよ」
「ワオ。そこまで考えてたんだ♪」
「当たり前だ。劉紋会には世話になってる。そして何より………俺には劉紋会を護る義務がある」
そう、忘れてはいけない。
忘れてはならない。
忘れる筈が無い。
──『サクラ』との約束だから。
「…そんなに気負う必要無いのに」
「これでも大分普通の高校生として過ごしてるさ」
「そっかあ…カオルちゃんも高校生かぁ…」
「みっちゃん……」
胸が痛む。そうだ、忘れる事なんて出来ない。
この人の、この人達の『夢』を奪ったのは他でも無い。
この俺なのだから。
「じゃあ仕事、お願いね?」
みっちゃんがまた笑顔で言う。
「ええ」
無論、俺の返事は決まっていた。
面倒な事にならなきゃ良いけどな……。
──劉紋会敷地南部、急客用客室。
「お、うおおお〜」
私は只今ふっかふかの椅子に興奮しております。
「椅子で遊んじゃダメでしょサクラ!」
そういうチアキちゃんもやってるじゃん。
「テツさん」
「おう!なんだいカヨちゃん?」
「カオルさんって劉紋会とどういう関係なんですかー?」
「お?知らなかったのかい」
「うん、私も知らないし」
「サクラの嬢ちゃんも…。そいつぁ驚きだな」
「テツさん教えて下さい!」
「ああわーったわーった!話すからもう少し大人しくしてくれ」
「そうだよチアキちゃん、大人しくしなさい」
「え!私!?」
「自重しなさーい」
「自重って何よ!?」
私も知らないよそんなの。
「ハイハイ落ち着け嬢ちゃん達!」
「「「はい!」」」
椅子の上で正座して話を聞く。
「あぁっ……眼福だ……」
「テツさん?」
「おぅ!?おお悪い悪い!」
ホントこのロリコンは…。
「…カオルさんは」
突然話し出したテツさん。その内容は、今思えば想像を絶する物だった。
「カオルさんは、元劉紋会の一員だったんだ」
「え、そうなの?」
「やっぱりー」
「カオルさんが劉紋会に入ったのは3、4年前。確か中学一年の時だ」
「そんな前からだったんですか!?」
「おう。会長の紹介でな。最初は会員の殆どが思ったよ、何だこのガキは、ってな。俺もその一人だった」
「……………」
「でもそんな思いは直ぐに消えた。それ程に圧倒的だったんだよ、カオルさんの能力は。どんな問題でもたった一人で片付けてしまう……あの時代のトラブルの大半は主にカオルさんのお陰で解決したと言ってもいい」
「……………」
「そして一年後、その功績が認められてカオルさんはある機関に所属したのさ」
「ある機関?」
「そうだ。国の裏問題を主に担当する、政府からも極秘に依頼を受けた場合に動くと言われている最強の戦闘機関に」
「く、国って…そんな事って……」
「…その機関の名前は?」
テツさんは少し何かに脅えたような眼をしながら、小さな声で言った。
「………『斑鳩』」
「あ、そうそうカオルちゃん。今日ね、カオルちゃんが来るって皆に言ったら何人か絶対ここに来るって言ってたわ♪」
「…そんな事いちいち言わなくても」
「良いじゃない♪同僚には会いたいものよ」
「斑鳩か……今は何人居るんだ?」
「西と東に5人ずつよ」
「それは変わってないのか」
「勿論カオルちゃんも含めて、ね♪」
「…何で俺が入ってるのさ」
「皆から頼まれたんだもーん」
「アイツら…余計な事を」
「会長。斑鳩の方々がお見えです」
「あら早い♪通して良いわよ」
「はっ」
「やれやれ…騒がしくなりそうだ」
……段々ジャンルが変わって…ああどうしようかな。でも書いてて面白いからいっか(^^← 文句は聞き入れませんからね笑